【ブローニングM2 】 †
Browning's M2 .50cal Heavy Machinegun.
1933年にアメリカ陸軍に制式採用された重機関銃。
主にNATO諸国に採用されており、派生型も数多く存在している。
第一次世界大戦にてアメリカ軍は独仏両軍が使用する機関銃の威力に驚愕し、前線の歩兵を支援する強力な火器の必要性を身をもって実感した。
戦後、軍は銃技師のジョン・ブローニングに前線への火力支援と観測気球の撃墜を目的とした機関銃の開発を依頼。
12.7mm弾を高初速で撃ち出すこの銃は、当初の開発目的である火力支援はもちろん、装甲目標に対して有効打を与えられる程の貫徹力を発揮、殆どの機動力ある地上戦力を撃破可能な高威力の重機関銃として誕生した。
完成したのは1921年であったが、大恐慌の影響やアメリカの孤立主義のため、長らく活躍の場を得られなかった。
その後、第二次世界大戦の勃発により大量に発注がされる。
同大戦中に限っても約200万挺以上が生産され、単純な火力支援運用、陸上兵器への装備のみならず、戦闘機や爆撃機の航空機関銃(AN/M2)としてなど、当時のアメリカ製兵器の多くに搭載された。
原型銃の開発から既に100年近くが経過しているが、幾度かの近代化改修を重ねて今なお現役である。
本銃がここまで長らく運用されているのは、後継となる重機関銃を新規開発、投入しないことの理由として、既により高威力を発揮可能な分隊支援火器や対戦車ミサイルなどが存在するためである。
一方、航空機関銃としては第二次世界大戦時点では十分な性能を持っていたが、朝鮮戦争頃から旧式化が進み、冷戦中盤からM61バルカン等に置き換えられていった。
本銃は射撃精度、威力に優れる上、同種の装備と比べてその生産数から安価な上に整備性や拡張性に優れ、扱いやすい多目的重火器として重宝されている*1。
本来の用途から逸脱してはいるものの、現在では汎用機関銃の代表格として軍民問わず高い名声を博している。
その利便性がAK-47に似通っている為か、一時期アフリカや中南米諸国では非公式に「AK重機関銃」との愛称が用いられた事がある。
当然ながら、カラシニコフ氏の製品とはなんら関連も無い、純然たるブローニング系統の火器である。
スペックデータ †
設計・製造社 | ジョン・ブローニング(設計) ジェネラル・ダイナミクス? U.S.オードナンス FNハースタル? マーモント ラモ Lnc. 住友重機械工業(ライセンス生産) |
全長 | 1,645mm |
銃身長 | 1,143mm |
重量 | 38.1kg(本体のみ)/58kg(三脚含む) |
ライフリング | 8条右回り |
使用弾薬 | 12.7mm×99 NATO弾(通常弾、焼夷弾、徹甲弾等) |
装弾方式 | ベルト給弾(1帯110発) |
作動方式 | ショートリコイル |
発射速度 | 485〜635発/分(M2HB) 750〜850発/分(AN/M2) 1,200発/分(AN/M3) |
銃口初速 | 853m/s 887.1m/s(M33) |
射程 | 2,000m(有効)/6,770m(最大) |
銃架一覧 †
- M3三脚銃架:
M2の基本銃架。重量約20kg。
- M1対空銃架:
M3三脚架に支柱と補助脚を付けた高射用銃架。
しかし、安定性が悪く、後にM63が制式化されると退役していった。
- M1対空銃架:
- M63対空銃架:
第二次世界大戦後に設計された銃架。
トリガーハンドルの位置を変える事で地上用と対空用に対応する。
脚部は十字型の四脚構造になり、安定性が高い。
- M3対空銃架:
水冷式のM2用に造られた対空銃架。M3三脚架と名称は同じであるが別物。
後方に梯子状の取っ手が付き、バレルジャケットの上に専用の照星と照門が付属している。
- M46連装対空銃架:
M3対空銃架同様、水冷式のM2を並列にマウントする対空銃架。
艦艇用に使われている。
- M35車載銃架:
車両搭載用の単脚銃架。ジープや小艦艇などに搭載。
- M46車載銃架:
車両搭載用のリングマウントで、トラックやハーフトラックの防御火器として使われる。
リングに沿って全周射撃が可能。
- M33連装対空銃架:
爆撃機の旋回機銃塔から発展した連装銃架。
M13対空自走砲に用いられたが、すぐに砲門を倍加させたM45に取って代わられた。
- M45/M55対空銃架:
M16対空自走砲などに使われる四連装銃架。
目的は対空用だが地上用にも転用され、凄まじい威力から「ミートチョッパー」との渾名がある。
M45は車載用で、M55は牽引式に与えられた制式名。
航空自衛隊でもM55が採用されたが、後継機種であるVADSの導入にともなって実戦運用を外れており、予備装備として保管されている。
- M205対空銃架:
M3に代わる、新型の三脚銃架。M2重機関銃とMk.19自動擲弾発射器の搭載用。
M3より軽量で、一体化された横断支柱と、より速い照準のための片手で操作できる仰角機構を備えており、脚部には地面に小さな穴を掘って安定させるため駐鋤が付けられている。
バリエーション †
- 原型・基本型
- ブローニング ウインチェスター50口径重機関銃:
1918年に製作された試作型。ブローニングM1917?を拡大改設計したもの。
"M1918"の仮制式名称で採用されたが、量産は行われなかった。
- M1921:
M2の原型モデル。Cal.50 HMG(M1918)の各部に改修を加えたもの。銃身は水冷式。
第二次世界大戦終結後、M2に交替して運用を終了。
- M1921E1:
バレルジャケットを冷却孔の開いた空冷式とした航空機搭載型。
- M1921E1 Fixed:
遠隔操作式の固定武装型。
- M1921E1 Flexible:
手動操作式の旋回機銃型。
- M1921E1 Fixed:
- M1921A1:
1930年に採用された改良型。
連続射撃を行うと銃身先端が加熱する問題に対処したもの。
既存のM1921は全て-A1に改修されている。
- M1921 W.C.*2:
海軍向けの水冷銃身型。
艦艇搭載の対空機銃として用いられ、陸軍向けの水冷型より大容量の冷却水タンクを装備し、塩害対策に防塩用の皮膜処理が施された他、各所の部品が船舶用黄銅(真鍮)製となっている。
- M1921 W.C.,HB:
長時間連射に対応するために銃身を肉厚の重銃身としたモデル。
- Cal.50 T1:
M1921A1の発展改良型。
左右どちらからでも給弾可能になっていることがM1921との相違点である。
- Cal.50 T2/M1:
T1の改修型。
M2の開発完了/制式化以前に"Cal.50 M1"として制式化されていたが、アメリカ軍当局はM2の開発完了を待って量産発注を一本化する決定を下したため、T2がM1として発注、および部隊配備されることは無かった。
- M2:
最初の量産型でT2に更なる改修を加えたもの。銃身は水冷式。
- M2 W.C.:
海軍向け水冷銃身型。
M1921 W.C.同様の艦艇搭載の対空機銃型で大容量冷却水タンクを装備し、塩害対策が施されている。
- M2 W.C.:
- M2HB*3:
M2の水冷式の銃身冷却装置を廃したもの。
水冷に代わり肉厚の銃身とすることで銃身の過熱に対する耐久性を向上させた。
- Colt MG 52/ MG 52A/MG 52-2:
M1921およびM2の輸出型。MG52Aは水冷型銃身を持つ。
- Colt Blowning Model 1924/1942:
コルト社によるM2およびM2HBの輸出モデルの呼称。グァテマラに輸出された。
- Colt MG 52/ MG 52A/MG 52-2:
- M2E1:
トリガーを電磁(ソノレイド)式とした車載型。
M45 4連装対空機関銃架や、M16、M15といった自走対空砲の備砲、T42中戦車(M47?中戦車の試作型)やM41?軽戦車の主砲同軸機関銃、M48の銃塔機銃やM1の車長展望塔用機関銃として用いられた。
- M2E2:
FN M2HB-QCBのアメリカ軍名称。
- M2A1:
アメリカ軍でのM2E2の制式名。
- ブローニング ウインチェスター50口径重機関銃:
- 発展型
- T27:
発射速度の向上を目的とした発展型。
T27/T27-E1〜-E7と改良試作品が製造されてテストが繰り返されたが、作動不良と部品の破損に悩まされ、計画中止となった。
- T42:
対空兵器の装備機銃としてAN/M3の設計を取り入れて開発された発展型。
高速連続射撃に耐えるために肉厚の重銃身としたやや短い銃身を持つ。
試作のみで制式採用はされなかった。
- M85:
ジェネラルエレクトリック社がM2の設計を発展させて開発した50口径重機関銃。
M60戦車とその派生型、およびLVTP7水陸両用装甲兵員輸送車に搭載されたが、構造が複雑で信頼性が低く、M2重機関銃に代わることはできなかった。
- XM806:
ジェネラル・ダイナミクス社がM2の後継として開発を行っていた50口径重機関銃。
開発中止となったXM307"Advanced Crew Served Weapon(ACSW)"25mm自動擲弾発射器の技術をスピンアウトする形で開発を行っていた。
重量をM2の約半分まで減少し、射撃の反動も約60%軽減することに成功したが、発射速度もM2の半分に低下してしまった。
2012年に開発中止となった。
- T27:
- 航空機搭載型
- Cal.50 Model 1918:
原型モデル。
ブローニング M1917? 7.62mm機関銃を航空機関銃用に改良した型であるcal .30 M1918を.50口径(12.7mm)に大口径化した拡大発展型。
- Cal.50 M1921E2:
2次原型モデル。
.50 M1918に陸上型のM1921E1の特徴を取り入れ、給弾方向を左右どちらからでも可能となるように変更したもの。
細部の改修を施した後に"Cal.50 AM/M2"として制式採用された。
- Cal.50 AN/M2:
航空機搭載型。ANはArmy / Navy(陸海軍共通)を示す*4。
レシーバーの板厚を薄くするなどして28kgに軽量化されており(M2は38kg)、発射速度は毎分600〜800発、もしくは毎分700〜850発に向上されている。
第二次世界大戦での運用初期には設計時に想定されていなかった重力加速度(G)への耐性から不具合が多発したものの、大量生産と共に少改修が加えられる事で問題は解決された。
陸軍航空隊のP-47「サンダーボルト」戦闘機やB-17「フライングフォートレス」重爆撃機、海軍航空隊のF4U「コルセア」艦上戦闘機などの軍用機全般に装備された。
また、ベトナム戦争においてはヘリコプターなどにも搭載された。
- Cal.50 AN/M2 Flexible:
銃架に架載され射手が操作する手動型。
- Cal.50 AN/M2 Fixed:
コックピットからの遠隔操作が行える電磁トリガー型。
- Cal.50 AN/M2 Flexible:
- Colt MG 53/MG53A:
.50 M1921E1およびM2の航空機搭載型*5の輸出名称。
- 12.7mm automatkanon m/45(12.7mm akan m/45):
スウェーデン軍における.50 AN/M2の制式名称。
- Cal.50 Model 1918:
- 発展・改良型
- T21:
コルト社およびスプリングフィールド兵器廠によって試作された発展型。
1940年から1942年にかけてテストが行われ、毎分1,200発の発射速度を達成した。
- T22:
ハイスタンダード社によって試作された発展型。
1942年8月から1943年後半にかけてT22/T22-E1〜-E6と改良試作品が製造されてテストが繰り返され、作動不良と部品の破損に悩まされたものの、毎分1,066発(T22)/1,219発(T22E2)/1,018発(T22E4)の発射速度を達成した。
- T26:
T22を改造した発展改良型。試作のみ。
- T26:
- T25:
フリッジデール社によって開発された発展型。
1944年3月から1944年7月にかけてT25/T25-E1〜-E3と改良試作が繰り返されてテストが行われ、T22E3では平均して毎分1,250発の発射速度を達成、1945年4月に"Cal.50 M3"として制式採用された。
- T36:
T22の開発/試験の結果を受けて設計された改良型。
既存のAN/M2に適用する能力向上改修として計画され、発射速度を毎分100発程度向上させ、給弾能力の向上と作動不良の減少を達成するものとして完成した。
この改修を適用したモデルには"(AN/)M2A1"の制式名が与えられることになったが、AN/M3の開発と製造/運用の切り替えが決定したため、限定的な存在に終わった。
- AN/M3:
AN/M2の発展型。ANはArmy / Navy(陸海軍共通)を示す*6。
電気モーターを用いた補助機構により発射速度を1,200発/分に強化している。
F-86「セイバー」他初期のジェット戦闘機の搭載武装として用いられた他、XM14/SUU-12ガンポッドとしても使用された。
- T38:
1945年にフリッジデール社によって開発されたM3の発展型。
毎分1,500発の発射速度の達成が要求され、要求は満たせなかったものの、毎分1,450発の発射速度を達成した。
- GAU-15/A・GAU-16A・GAU-18/A:
AN/M2及びAN/M3を基に軽量化されたヘリコプター搭載型。
いずれも乗員が直接射撃を行うタイプ。
GAU-16/AはGAU-15/Aの銃把と照準装置を改良したもので、GAU-18/AはMH-53「ペイヴ・ロゥ」およびHH-60「ペイヴ・ホーク」戦闘救難ヘリコプターの搭載武装として開発されたものである。
- M3M/GAU-21:
AN/M2ベースのヘリ搭載型。FN社製。
ヘリコプターの側面ドアに銃架と共に固定されており、連射速度を上げ、スペードグリップを大型化している。
また、メタルループが付けられており弾詰まりのトラブルを減らすことができる。
- M3P:
AN/M2の発展型。
AN/TWQ-1 アベンジャー防空システムに搭載。
発射速度が950発/分と1,100発/分の選択式となり、銃口部に大型の筒形フラッシュハイダーが装着された。
給弾方式は機械式のメタルループ方式となっている。
- T21:
- 国外生産型
- K6:
韓国の統一重工業でのコピーモデル。老朽化したM2の代替として開発された。
M2HB-QCBに準じたもので、銃身に把手を取り付けて、銃身交換を容易にした。
- FN M.1939:
ベルギーのFN社が航空機搭載用に開発したM2の派生型。
炸裂弾等を使用できるよう大口径化し13.2x99mm弾仕様に変更、発射速度を1,080発/分に向上させている。
- Akan m/39(Automatkanon m/39):
M.1939のスウェーデンでの制式採用名称。
- Akan m/39A(Automatkanon m/39A):
スウェーデンのエリクソン社でライセンス生産されたm/39の制式名。
- Akan m/39(Automatkanon m/39):
- 12.7 Lkk/42 VKT:
M.1939のフィンランドでのコピーモデル。
口径と使用弾はオリジナルと同じ12,7x99mm弾に再変更され、銃身のヒートカバーの形状がベルグマン MG 15nAに似たスリット形状になっている。
- 12.7mm重機関銃M2:
陸上自衛隊での呼称。
性能はM2基本型に準ずる
- 13ミリ機銃:
海上保安庁での呼称。
性能はM2基本型に準ずる
- FN M2HB-QCB*7:
FNハースタル社により開発された改良型。
交換後の位置調整を必要としない形で銃身が交換できるようになっており、これにより迅速な銃身交換が可能となった。
銃身部の根本にL字型のグリップがあることが外観上の特徴である。
- BRG-15:
FN社がM2の後継に提案した改造型。口径の大きい15mmx106弾を使用する。
FN社が財政的な問題に直面していたこともあって、1990年代に計画中止となった。
- K6:
*1 1982年のフォークランド紛争では、アルゼンチン軍が本銃にスコープを取り付けて自動重狙撃銃として用いていた。
*2 "Water Cooled"(水冷式)の略。
*3 Heavy Barrel(重量型銃身)の意。
*4 正式には口径を示す数字を付けて表記され、アメリカ軍において"AN/M2"の制式番号の付いた航空機用機関銃には「.30 AN/M2(ブローニングM1919?)」「.50 AN/M2」「20mm AN/M2(イスパノ・スイザ HS.404?)」の3種類が存在する。
*5 輸出用の独自仕様で、AN/M2とは異なる。
*6 正式には口径を示す数字を付けて表記され、アメリカ軍においてAN/M3も複数存在しており、「.50 AN/M3」「20mm AN/M3(イスパノ・スイザ HS.404?)」の3種類が存在する。
*7 Quick Change Barrelの略。