Last-modified: 2024-03-31 (日) 09:19:12 (27d)
【M1】 †
M1 Abrams.
アメリカ陸軍・海兵隊で使用されている第三世代主力戦車。
愛称の「エイブラムス」は、1970年代に没したクレイトン・ウィリアムズ・エイブラムス・ジュニア陸軍大将にちなむ。
M60「パットン」の後継として1980年代に登場し、現在までに8,000両近くが生産された。
アメリカの他、エジプト・サウジアラビア・クウェートなどの中東親米国家やオーストラリアにも輸出されている。
すでに生産は終了しているが、アメリカ陸軍では破損した車両を修復して運用を継続している。
湾岸戦争やイラク戦争?に投入されたため、同世代の主力戦車の中で最も実戦経験が多い。
湾岸戦争ではイラク軍のT-72・T-62・T-55等に対して圧倒的な性能優位を見せつけた。
一方で否定的な戦訓も多く集まり、車両の改善点のみならず、戦車の運用教則にも多大な影響を与えている。
例えば、主砲の有効射程が長大すぎて索敵能力が追いつかず誤射が多発したという報告がある。
このため、後期モデルでは敵味方識別装置が搭載されている。
性能面での最大の特徴は、戦車としては珍しいガスタービンエンジンの採用。
これは瞬発力を高め機動力・登坂能力の向上に寄与しているが、反面で航続距離、特に低速走行・停車時の燃費を大きく悪化させている。
停車時のアイドリングだけで45リットル毎時の燃料を消費するため、待機中は主機を落としてAPUのみを稼働させる事が推奨されている。
また、車体後部から人が死ぬほど高温の排気ガスが放出されるため、歩兵が盾にする際に厳重な注意を必要とする。
推定される経済燃費は約420m/リットル。
他国の同世代戦車の2倍近い容量の燃料タンクを持つにも関わらず、作戦行動を行えば約8時間で燃料切れを起こす。
関連：MBT-70? 劣化ウラン弾 湾岸戦争症候群 バルカン症候群?
スペックデータ †
| 乗員 | 4名（車長・操縦手・砲手・装填手） |
| 全長 | 9.83m |
| 車体長 | 7.92m |
| 全幅 | 3.66m（スカート付） |
| 全高 | M1A1：2.44m M1A2：2.37m（砲塔上面まで） |
| 空車重量 | 34.50t |
| 戦闘重量 | M1：54.45t M1IP：57t M1A1：57.15t M1A1(HA)：61.5t M1A2：62.1t M1A2 SEP：63.2t |
| 懸架方式 | 独立懸架トーションバー方式 |
| エンジン | ハネウェル AGT1500ガスタービン（出力1,500hp） |
| 登坂力 | 60% |
| 超堤高 | 1.06m |
| 超壕幅 | 2.74m |
| 最大速度 | 67.6km/h（整地） 48km/h（不整地） |
| 行動距離 | M1：495km M1A1：465km M1A2：426km |
| 装甲 | 砲塔及び車体前面：400mm（複合装甲） 車体：均質圧延鋼板 |
| 兵装 | M68A1 105mmライフル砲×1門（M1/IPM1） M256 44口径120mm滑腔砲×1門（弾数40発）（M1A1/A2/A2 SEP） M2 12.7mm重機関銃×1挺（対物・対空用、弾数1,000発） M240 7.62mm機関銃×2挺（主砲同軸、弾数12,400発） M153「CROWS�供�RWS（車長ハッチ前方、ブローニングM2を装備）（M1A2SEP/V2/V3） 6連装発煙弾発射器×2基 |
| 使用砲弾 | M829 APSFSDS M830 HEAT-MP-T M1028 キャニスター弾 |
主なバージョン †
- XM1：
MBT-70?計画の後継として開発されたM1の試作車。
初期はXM815と呼ばれた。
- M1：
最初期型の基本タイプ。
対HEAT対応の空間装甲を装備。
主砲はロイヤルオードナンス社製L7 105mmライフル砲のライセンス生産品であるM68A1を搭載。
- M1IP/IPM1（Improved Performance：能力向上型）：
M1の改良型。
主に主砲基部・変速機・サスペンション・ショックアブソーバーの改良が施されている。
- M1IP/IPM1（Improved Performance：能力向上型）：
- M1A1：
主砲をM256 44口径120mm滑腔砲（ラインメタル社製L44のライセンス生産品）に換装。
装甲を対鉄弾芯APFSDS対応の無拘束セラミックス装甲に換装。
搭載される電子機器類の換装や車内配置の変更が施された。
相当数が生産され、湾岸戦争にも参戦した。
- M1A1HA（Heavy Armor：重装甲型）：
APFSDS対策として、砲塔および車体前面部の複合装甲に劣化ウラン装甲材を導入。
湾岸戦争前夜に改造用キットが大量に調達・支給された。
- M1A1HC（Heavy Common：重装甲・共通化型）：
アメリカ陸軍・海兵隊の部品共通化プログラムに対応した型。
- M1A1D（Digital：デジタル化型）：
M1A1用の「Digital enhancement package」を適用し、共同作戦対応能力を付与した型。
- M1A1AIM V1（Abrams Integrated Management（エイブラムス統合管理）：近代化改修型）：
AIM改修を施したM1A1の近代化改修型。
- M1A1SA（Situational Awareness：状況認識型）：
M1A1AIM V2とも呼ばれる近代化改修型。
第三世代の劣化ウラニウム装甲、車外通話電話、車長用防護キット、装填手用機関銃シールド等が追加されている。
- M1A1FEP（Firepower Enhancement Package：火力強化型）：
アメリカ海兵隊の近代化改修型。陸軍のM1A1SA / AIM V2に相当する。
主な改修内容は、電子機器の更新や車外有線電話の設置、新型砲弾の搭載などである。
- M1A1KVT（Krasnovian Variant Tank：仮想敵戦車型）：
クラスノヴィアン（OPFORの仮想敵国）派生戦車。ロシア製戦車に似せたアグレッサー。
カリフォルニア州フォート・アーウィン国立訓練センターのアメリカ陸軍仮想敵部隊（OPFOR）が運用する。
- M1A1M（イラク治安部隊仕様）：
イラク向け輸出型。
通常装甲へ差し替えられているなど、本国仕様に比べて性能が限定されている。
- M1A1SA（Special Armor：特殊装甲型）：
M1A1AIMV2のモロッコ向け輸出型。
- M1A1HA（Heavy Armor：重装甲型）：
- M1A2：
M1シリーズの最新型。
電子機器などのC4Iシステムをグレードアップした。
戦車長用の熱線映像装置付きペリスコープや自己位置特定システム、戦術データリンク、デジタルデータバス、無線インターフェース・ユニットなどが新しく追加された。
- M1A2SEP（System Enhancement Package：システム拡張型）：
M1A2向けのシステム拡張パッケージ（System Enhancement Package）を適用した型。
陸軍戦闘指揮システム（FBCB2：Force �将将� Battlefield Command Brigade and Below）に対応したほか、向上形冷却装置を搭載する。
現在米軍が保有するM1、M1A1はこのM1A2やSEPと呼ばれるA2に近い内容に改修されている。
- M1A2SEP V2（SEP Version.2：SEPバージョン2）：
SEPベースの改良型。
砲塔上へのM153「CROWS�供�RWSの追加やAN/ULQ-35「デューク」IED起爆妨害装置を搭載。
装填手用機銃へのシールド設置や砲手用熱線映像主照準装置への装甲の追加、最新の発煙弾発射機の搭載、各種電子装備の更新、高性能エアコンの設置などが施されている。
- M1A2C/M1A2SEP V3（SEP Version.3：SEPバージョン3）：
現在のM1シリーズ最新型で生存性を高めたモデル。
電子機器・ソフトウェアの更新や弾薬データリンク（ADL）の導入、長期波・中期波赤外線を使用する改良型FLIRの搭載。
主砲を開発中のM829E4 APFSDSおよびXM1147次世代多目的弾に対応させた。
以前はむき出しだったAPUを装甲下ヘ移動、折り畳みが可能な新型RWS（CROWS-LP）の装備などの改修が施されている。
- M1A2T（台湾仕様）：
2019年に台湾がFMSを通して購入を決めた、M1A2Cをベースとした台湾への輸出仕様。
- M1A2D/SEP V4（SEP Version.4：SEPバージョン4）：
2021年に開発計画がスタートするSEPバージョンの最新型。
三次元FLIRや新型120mm砲弾XM1147(AMP)、 AN/VVR-4レーザー警戒機の搭載が計画されている。
- M1A2SEP V2（SEP Version.2：SEPバージョン2）：
- M1A2S（Saudi Package：サウジアラビア仕様）：
サウジアラビア向け輸出・更新用モデル。
電子装備の改修やAIMの改修も施されているが、劣化ウラン装甲は取り外されている。
- M1A2K：
クウェート陸軍向けに開発中の仕様。
既存のM1A2からアップデートされる予定。
- M1A2SEP（System Enhancement Package：システム拡張型）：
その他の派生型 †
- M1「グリズリー」CMV（Grizzly Combat Mobility Vehicle：グリズリー戦闘工兵車）：
M1の車体にドーザー、バケットなどの装備を取り付けた工兵車両型。
366輌生産される予定だったが、中止された。
- M1 ABV（Assault Breacher Vehicle：突撃啓開車）：
アメリカ海兵隊独自で開発・生産した工兵車両型。愛称「ブリーチャー」(Breacher：突破者）。
想定される任務は地雷とIEDの除去処理。
砲塔部にM58 MICLIC 地雷原啓開用導爆線システムを、車体前方にチタン製の除雷鋤を装備。
武装として、ERA付きの砲塔にTWS付きのリモコン式12.7mm機関銃を装備している。
- M1「パンサー�供�MCV（Panther �� Mine Clearing Vehicle：パンサー�驚詫觸萢�車）：
M60「パンサー」地雷処理車の後継として開発された地雷処理車両。
砲塔を撤去したM1の車体にマインプラウ若しくはマインローラーを装着したもので、リモコンによる無人遠隔操作で行動できる。
- M104「ウルヴァリン」HAB（Wolverine Heavy Assault Bridge：ウルヴァリン重突撃橋）：
M1A2 SEPの車体をベースにした分割式の架橋戦車型。
- M1074 JAB（Joint Assault Bridge：統合突撃橋）：
M1の車体をベースにした折り畳み式の架橋戦車型。
MLC95シザーズ式ブリッジを搭載し、耐荷重95t、長さ18.3mの間隙を踏破可能な突撃橋を3分で展開可能。
M60 AVLBとM104「ウルヴァリン」の後継として、2024年に量産開始予定。
アメリカのほか、オーストラリアやポーランドが導入予定。
- RV90 ARV（Armored Recovery Vehicle：装甲回収車）：
M1の車体をベースとした装甲回収車型。
M88A1E1（後のM88A2「ハーキュリーズ」）と比較評価されたが、採用されず計画のみ。
- M1 LIBERTY SPAAGS（Self Propelled Anti-Aircraft Gun System：リバティー自走対空砲システム）：
1980年代のFAAD計画(Forward Area Air-Defense System：前線戦域防空システム)の一環で、M1の車体をベースに、20mm対空機関砲とADATS?地対空ミサイルを搭載した対空戦車型。
FAADS計画の頓挫により計画のみ。
- M1 AGDS（Air-Ground Defense System：地対空防衛システム）：
1990年代に計画されたM1の車体をベースとして、2連装の「ブッシュマスター�掘�35mm機関砲とADATS地対空ミサイルを搭載した対空戦車型。
計画のみ。
- M1 TTB（Tank Test Bed：試験戦車）：
試験戦車。
120mm砲を装備した無人砲塔を搭載し、乗員は車体前部に集中配置されている。
主砲は自動装填式となり無人化されたため、乗員は3名に減っている。
- M1 CATTB（Component Advanced Tank Test Bed：先進技術試験戦車）：
1987年から1988年にかけてトライアルが行われた先進要素技術試験戦車。
自動装填式140mm砲・ステルス性・新型ガスタービンなどの新技術などが試験された。
- M1 Thumper：
前述のCATTBの後継としてロッキード・マーティンによって研究開発されていた実験型。
XM291 140mm先進戦車砲システムを搭載。
冷戦の終結とともに計画中止となった。
- XM2001 Crusader（Self-Propelled Howitzer：クルセイダー自走榴弾砲）：
M1の車体を流用して開発された自走榴弾砲。
密閉式砲塔にXM297 長砲身56口径155mm砲を搭載し、高度に自動化された射撃・再装填システムを持つ。
2000年にプロトタイプが完成したが、開発・配備コストの問題や冷戦後の非対称戦争には適さないとして2002年に開発中止となった。
- エイブラムスX：
GDLSが開発中の次世代戦闘車両群「The Next Generation」の一車種で次世代主力戦車のコンセプトモデル。
砲塔は自動装填装置付き無人砲塔に一新され、乗員が3名に減少している。
その他、ディーゼルエレクトリックハイブリッドパワーパックやアクティブ防御システム、ドローン運用能力等を持つ。
