【攻撃ヘリコプター】(こうげきへりこぷたー)

主にロケット弾対戦車ミサイル機関砲等を搭載し、地上目標への攻撃を主任務とするヘリコプター
「空中戦車」「空飛ぶ砲兵」とも呼ばれる兵器である。

戦車戦闘を想定した機種は、特に「対戦車ヘリコプター」と呼ぶ事もある。
ただし、米ソ冷戦が終結した1990年代以降は機種統合が進んだため、こうした機種はほとんど見られなくなった。

黎明期には汎用(輸送)ヘリコプターの機体がそのまま流用されたため、任務の性質上、非常に生存性が低かった。
近年ではバイタルパート装甲が施され、チャフフレアなどの防御装置も搭載されている。
また、機体構造も工夫され、低空からの墜落程度では乗員に被害が及ばないようになっている。
しかし、やはり直接交戦で反撃を受ければ戦車ほどの生存性は期待できない。

地形追随飛行で身を潜めて移動し、交戦時はヒットアンドアウェイに徹するのが基本的運用法。
低空は地上の敵からは発見されやすい上に、低空から地上の敵を発見するのは困難であり、戦術的に不利な条件は多い。
また、ヘリコプターの特性上、悪天候にも弱い。
アビオニクスの向上による改善は見られるが、現在でも全天候対応には程遠い。

しかしながら、友軍地上部隊に随伴して攻撃機よりも密接な支援攻撃*1を行える貴重な戦力であり、世界中の陸軍で採用されている。

関連:戦闘ヘリコプター AH-1 AH-56

開発の経緯

「攻撃ヘリコプター」という兵器の端緒は、1950年代のアメリカに始まる。

当時のヘリコプターは兵士を空輸するための乗り物であり、直接交戦はほとんど想定されていなかった*2
そんな中、朝鮮戦争海兵隊が共産軍の戦線後方へ歩兵を空輸するヘリボーン作戦を成功させ、兵器としての可能性を示していた。

これに刺激された陸軍は、「空飛ぶ砲兵」として、ヘリコプターに武装を施し、近接航空支援を実施可能とした機体の配備を計画した。
しかし、空軍が「攻撃機との任務の重複」を理由に難色を示した*3事から新規機体の開発は頓挫したため、既存の輸送ヘリコプターに武装を積んだだけの「ガンシップ」として実用化される事になった。

1960年代、アメリカ軍が参戦したベトナム戦争では、当時、道路状況が劣悪だったベトナムの奥地に兵力を浸透させるため、ヘリボーン戦術が大々的に採用された。
その護衛や火力支援に際しても戦闘車両の投入が困難であったため、汎用ヘリコプター・ベルUH-1ガンシップ型が投入された。
ガンシップはそれなりの戦果を挙げたが、否定的な戦訓も数多く集まり、甚大な戦術的欠陥が露呈する事となった。

速度・機動性が低い。
ガンシップには、機関銃*4ロケット弾ミニガン擲弾発射器など多数の重火器が搭載されていたが、これは当時のヘリコプターにとって、ほとんど過積載に近い負荷であった。
このため、当時のガンシップは非常に鈍重になってしまい、作戦運用に甚大な支障を来した*5
射撃が命中しやすく、装甲も脆いため生存性が低い。
ガンシップの母体となった輸送ヘリコプターは、貨物室の分だけ機体の投影面積が大きく、機動性も低く、装甲も不十分であった。
また、攻撃機よりも低空・低速で飛行し、敵から数十〜数百メートルといった至近距離での交戦も日常茶飯事であった。
そのため、敵兵の撃った拳銃弾小銃弾1発でパイロットが死傷して墜落する事例が多数報告されることになった。

これに対して、エンジン出力強化・コックピット装甲化などの対策が取られたが、根本的な解決には程遠かった。

そこで1960年代半ば、アメリカ陸軍は専門攻撃ヘリコプターの開発に着手。
紆余曲折を経た*6末、ベル社の開発したAH-1が優秀な成果を上げた事で、各国も軒並み攻撃ヘリコプターの開発に着手していった。

代表的な機種


*1 ベトナム戦争のバトルプルーフでは、攻撃ヘリコプターは固定翼機による近接航空支援に比べて1/4〜1/10の近距離から繰り返し攻撃する事ができた。
*2 とはいえ、「砲兵の弾着観測」「指揮・伝令」「負傷兵の後送」「捜索救難」などの多岐に渡る任務に必要とされており、軍馬の後継として戦場に欠かせない存在になりつつあった。
*3 A-1A-4A-6F-4といった独自の固定翼攻撃機を持つ海兵隊も、同じ理由で攻撃ヘリコプターの導入を渋っていた。
*4 機体前方正面を向く銃と、機体両側面をカバーする銃があった。
  このうち、側面の銃は後部キャビンの人員・貨物乗降ドア部分に設けられたため「ドアガン」と呼ばれ、専属の射手が搭乗していた。

*5 例えばヘリボーン作戦で輸送ヘリコプターを護衛中、離陸のタイミングが少しでも遅れたり、敵の待ち伏せ陣地を見つけて攻撃したりすると、それだけで護衛対象の輸送ヘリとはぐれてしまうことがままあった。
*6 当初はロッキード社のAH-56が採用されたが、技術的困難から実戦化が断念され、代替機としてAH-1が採用された。

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