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【アイオワ】 †
USS Iowa(BB-61).
アメリカ海軍が1939年に設計、1940年代に建造した高速戦艦。
設計・建造されたのが第二次世界大戦前夜ということもあり、当時日本が開発・建造していた新型戦艦(後の大和型)*1との戦闘を想定して設計・開発されたとされるが、
実際は(元巡洋戦艦である)金剛型を仮想敵とし、これを捕捉・撃滅する事を目的として建造された。
パナマ運河を通行する関係上、船体の幅に限界があるため、船体形状が前後に細長くつくられた。
この関係で砲塔も大きくすることができず、主砲は同世代の大和型より小口径なものになった。
一方で、機関に高温・高圧のボイラーを採用したことにより、戦艦としては珍しく最大速度30ノットを越える優速を発揮できた。
装甲は前級のサウスダコタ級に準じた45口径40.6cm砲対応の装甲となっており、前級よりも主砲および司令塔の装甲が強化されている。
とはいえ、自身の搭載砲である50口径40.6cm砲への対応防御には至らなかった。
また、本級の使用していた40.6cm徹甲弾は、ノースカロライナ級以降のそれと同様、従来のものより20%重量を増したスーパー・へヴィ・シェル
であり、長門型を凌駕する砲戦能力を有する。
このように、アメリカ史上最強の戦艦と言って良い艦に仕上がった本艦型であるが、ネームシップの「アイオワ」が就役した1943年には、すでに航空主兵主義が海戦を支配しており、戦艦の時代は終わっていた。
そのため、本級が敵の戦艦と砲火を交える機会はついになく、各艦はもっぱら地上への支援砲撃や航空母艦の護衛に従事した。
また、儀仗としても用いられ、1945年9月に東京湾で行われた日本の降伏調印式では三番艦「ミズーリ」が式場として選ばれている。
大戦終結後、戦艦は(ミサイルの発達と共に)新時代の戦争に対して全く戦略的利点を提供できなくなり、兵器としての意義を失った。
朝鮮戦争やベトナム戦争では本級が対地砲撃任務を行ったが、まもなく艦隊から外され、モスボールされるか記念艦となって余生を過ごすことになった。
「600隻艦隊構想」での復活 †
1980年代、アメリカのレーガン政権は「強いアメリカ」と称するドクトリンを掲げ、軍備増強に着手。
「600隻艦隊構想」と称された海軍の再編成計画の中で、残存するアイオワ級戦艦4隻の現役復帰が試みられた。
この際の近代化改修では副砲が撤去され、巡航ミサイル、対艦ミサイル、ファランクスシステムに換装された。
この改修戦艦はレバノン内戦に投入され、主砲斉射でシリア軍司令部を爆散せしめる戦果を挙げている。
とはいえ、一度退役した40年前の戦艦の運用には大きな問題があり、以下のような報告が挙げられている。
- 改修しても1980年代の水準に追随可能な防空・対潜能力を持つ事はできず、単艦で行動できなかった。
- 装甲は40年前の水準のままであり、当時の対艦ミサイルに対してきわめて脆弱だった。
- 戦艦を一切運用しない時代を経ていたため、艦載砲の運用技術が断絶していた。
- 海上抑止力を発揮する役割が弾道ミサイル原潜に移行していた。
- 艦自体の老朽化が著しく、航行中にトラブルが続発した。
- そもそも陸上施設への攻撃にしか使用できず、攻撃のために敵地の近距離まで接近する必要があった*2。
結局のところ、何故こんな事が着想されたのかは定かでない。
一種の儀仗・宣伝として戦艦の偉容を用いようとしたとも、新たな戦艦を建造する計画の事前調査とも言われていた。
また、別の一説には、当時ソ連が就役させたキーロフ級ミサイル巡洋艦を「戦艦の復活」と分析していたとも言われる。
やがて冷戦終結とともに軍縮が始まると、元より余命の短い本級は再び予備役編入となった。
「ミズーリ」が湾岸戦争に参戦したのを最後に全艦が艦隊から外され、その後も戦場に引き戻される事はなく、やがて時を経て除籍。
これにより、世界の海軍から「戦艦」という艦種が消滅することになった。
関連:モンタナ級?
スペックデータ †
全長 | 270.43m 270.7m(ニュージャージー) |
全幅 | 32.96m |
排水量 (基準/満載) | 45,280t/57,256t |
吃水 | 10.60m |
機関 | 蒸気タービン方式 4軸推進 バブコック&ウィルコックス式 M-Type重油専焼ボイラー×8基 GE式またはウェスチングハウス式蒸気ギヤードタービン×4基 |
出力 | 212,000馬力 |
最大速度 | 約33.0ノット |
航続距離 | 16,600海里(15ノット時) |
乗員 | 艦長以下1,921名 |
兵装 | Mark7 50口径16インチ(40.6cm)3連装砲×3基 Mk.30 38口径5インチ(12.7cm)連装両用砲×10基 ボフォース 40mm4連装機銃×15基 エリコンFF 20mm単装機銃×60基 |
兵装 (近代化改修(FRAM I)後) | Mk.143「ABL*3」 4連装ミサイル発射器×8基 (トマホークSLCMを装備) 4連装SSM発射筒×4基(ハープーンSSMを装備) ファランクス20mmCIWS×4基 |
艦載機 | 水上偵察機×3機 (改修後) SH-60「シーホーク」対潜ヘリコプター数機 |
設備 | カタパルト×2基 |
装甲 | 舷側:310mm+38mm 甲板:38mm+159mm 主砲防盾:432mm+64mm 主砲座:439mm 司令塔:439mm 隔壁:340mm〜44mm |
同型艦 †
艦番号 | 艦名 | 起工 | 進水 | 就役 | 不活性化 | 再就役 | 退役 | 備考 |
BB-61 | アイオワ (USS Iowa) | 1940.6.27 | 1942.8.27 | 1943.2.22 | 1949.3.24 (1回目) 1958.2.24 (2回目) | 1951.8.25 (1回目) 1984.4.28 (2回目) | 2006.3.17 | 記念艦として公開 |
BB-62 | ニュージャージー (USS New Jersey) | 1940.9.16 | 1942.12.7 | 1943.5.23 | 1948.6.30 (1回目) 1957.8.21 (2回目) 1969.12.17 (3回目) | 1950.11.21 (1回目) 1968.4.6 (2回目) 1982.12.28 (3回目) | 1999.11 | 1991.2.8 予備役 2001.10. 記念艦として公開 |
BB-63 | ミズーリ (USS Missouri) | 1941.1.6 | 1944.1.29 | 1944.6.11*4 | - | 1986.5.10 | 1955.2.26 (1回目) 1992.3.31 (2回目) | 1999.1.29 記念艦として公開 *5 |
BB-64 | ウィスコンシン (USS Wisconsin) | 1941.1.25 | 1943.12.7 | 1944.4.16 | 1948.7.1 (1回目) 1958.4.8 (2回目) | 1951.3.3 (1回目) 1988.1.21 (2回目) | 2006.3.17 | 1991.9.30 予備役 記念艦として公開 |
建造中止艦 †
艦番号 | 艦名 | 起工 | 進水 | 就役 | 退役 | 備考 |
BB-65 | イリノイ (USS Illinois) | 1945.1.15 | - | 1945.8.12建造中止 完成度22%(中止決定時) 1958.9. スクラップとして売却 | ||
BB-66 | ケンタッキー (USS Kentucky) | 1944.12.6 | 1950.1.20 | - | 1947.2.17 建造中止 完成度72.1%(中止決定時) 進水後にモスボール保管 1956. 艦首部分21mを「ウィスコンシン」 に移植*6 1958.10.31 スクラップとして売却*7 |
*1 大和型のカウンターパートとしてはモンタナ級が計画されていた。
*2 (誘導爆弾や空対地ミサイルを搭載した)マルチロールファイターや巡航ミサイルであれば、数百キロ先の海上から目標をほぼ正確に攻撃できるが、艦載砲の射程は最大でも数十キロ程度であり、しかも砲弾は自由落下と精度でも劣っていた。
*3 Armored Box Launcher:装甲ボックスランチャーの略。
*4 ウィスコンシンの方が先に就役したため、本艦はアメリカ海軍が就役させた最後の戦艦となった。
*5 真珠湾のアリゾナ?記念館の後方に位置する形で公開されている。
*6 フレッチャー?級駆逐艦「イートン(USS Eaton, DDE-510)」との衝突事故による修復のため。
*7 搭載されていた主機は、サクラメント?級高速戦闘支援艦?1番艦「サクラメント(USS Sacramento, AOE-1)」と2番艦「カムデン(USS Camden, AOE-2)」に転用された。