【弾道ミサイル】(だんどうみさいる)

Ballistic Missile (BM).

宇宙ロケットに近い形状をした長距離ミサイル。またはペイロード爆薬を搭載した宇宙ロケット。
ロケットエンジンで大気圏外に上昇、極超音速で巡航し、大気圏に再突入して目標へ到達する。
現在の技術では巡航中に撃墜する手段が確立されておらず、大気圏再突入後のごく短時間にしか迎撃できない。
反面、飛行中は慣性航法装置(INS)でのみ制御されるため、命中精度は極めて劣悪で、核兵器などによる戦略爆撃の用途にしか利用できない。

弾道ミサイルと宇宙ロケットはそれぞれ別々の意図を持って設計されているものの、どちらもモノを大気圏外へ打ち上げる事が目的なので構造に大差はない。
弾道ミサイルに人工衛星を搭載して静止軌道に乗せる事は十分可能*1であるし、宇宙ロケットに核兵器を搭載して狙った場所に墜落させるのも困難ではない。
そのため、弾道ミサイル開発から打ち上げ用ロケットが派生することも、逆に学術研究目的のロケットから弾道ミサイルへ派生することも十分可能である。

従って、宇宙ロケットの開発には常に政治が絡み、場合によっては海外から技術供与を拒否されることも起こる*2
いわゆる「ならず者国家」などは、しばしば弾道ミサイルの実験について「核兵器の実験ではなく宇宙開発事業である」と主張する*3が、実情は定かでない。

弾道ミサイルの分類

弾道ミサイルは主に有効射程によって分類され、条約や国によって数字は異なるが、おおむね以下のように分類されている。

大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Range Ballistic Missile
(射程5,500km〜。詳しくは項を参照。)
中距離弾道ミサイル (IRBM:Intermediate Range Ballistic Missile)
(射程2,400〜5,500km)
主な種類
イギリスブルーストリーク(開発中止)
イスラエルエリコII
イランエマード
シャハブIII
インドアグニIII
北朝鮮ムスダン
火星12(KN-17)
パキスタンシャーヒーンIII
ガウリIII
ソ連R-14 Chusovaya(8K65/SS-5「スキーン」)(退役)
RSD-10 Pioneer(15Zh45/SS-20「セイバー」)(退役)
中国東風4(DF-4、CSS-3)
東風26(DF-26)
フランスS-2
S-3/TN-61(退役)
戦域弾道ミサイル (TBM:Theatre ballistic missile)
(中距離弾道ミサイルと戦術弾道ミサイルの中間に位置する射程300〜3,500km程度のもの。)
主な種類
アメリカPGM-17「ソー」
PGM-19「ジュピター」
ウクライナSapsan
北朝鮮KN-02「ドクサ」
ソ連R-5(SS-3「シャイスター」)
RT-15(SS-14「スケープゴート」)
R-12(SS-4「サンダル」)
TR-1「Temp」 (SS-12「スケイルボード」)
9K79/OTR-21「トーチカ」(SS-21「スカラベ」)
9M714/OTR-23「オカー」(SS-23「スパイダー」)
中国B-611
ロシア9K720「イスカンデル」(SS-26「ストーン」)
準中距離弾道ミサイル (MRBM:Medium Range Ballistic Missile)
(射程800〜2,400km)
主な種類
アメリカPGM-17「ソー」
PGM-19「ジュピター」
MGM-31「パーシングI/II」
ソ連R-5(SS-3「シャイスター」)
R-12(SS-4「サンダル」)
中国東風2(DF-2、CSS-1)
東風3(DF-3、CSS-2)
東風21(DF-21、CSS-5)
東風25(DF-25)
北朝鮮ノドン
テポドン1号
北極星2号(KN-15)
短距離弾道ミサイル (SRBM:Short Range Ballistic Missile)
(射程150〜800km)
主な種類
第二次世界大戦
ドイツV2ロケット
第二次世界大戦後
アメリカMGM-5「コーポラル」
PGM-11「レッドストーン」
MGM-18「ラクロス」
MGM-29「サージェント」
MGM-31「パーシングI」
MGM-52「ランス」
MGM-140「ATACMS」
ロシアR-1(8A11/SS-1「スカナー」、V2ロケットのコピー)
R-2(8Zh38/SS-2「シブリング」)
R-11(SS-1B「スカッドA」)
R-17(SS-1C「スカッドB」)
9K79/OTR-21「トーチカ」(SS-21「スカラベ」)
9M714/OTR-23「オカー」(SS-23「スパイダー」)
9K720「イスカンデル」(SS-26「ストーン」)
中国東風1(DF-1、R-2のライセンス生産品)
東風11(DF-11、CSS-7)
東風15(DF-15、CSS-6)
パキスタンシャヒーンI
インドプリットヴィー
イラクアル・フセイン
イランファテフ110
韓国玄武-1/玄武-2A/B
中華民国(台湾)天戟(Tien Chi/Sky Spear)
戦術弾道ミサイル*4(Tactical ballistic missile)
(弾道ミサイルの中で射程300km未満のもの)
主な種類
アメリカPGM-11「レッドストーン」
MGM-18「ラクロス」
MGM-52「ランス」
MGM-140「ATACMS」
イギリスブルーウォーター(開発中止)
イスラエルLOLA
プレデターホーク
インドShaura
Prahar
イラクAl-Samoud 2
ウクライナHrim
ソ連/ロシアスカッド
9K79/OTR-21「トーチカ」(SS-21「スカラブ」)
FROGシリーズ(FROG2/FROG3/FROG5/FROG7)
韓国玄武
KTSSM(Korea Tactical Surface-to-Surface Missile)
パキスタンアブダリ/ハトフII
ハトフI
ガズナビI/ハトフIII
Nasr/ハトフIX
トルコJ-600T「ユルドゥルム」(中国と共同開発)
TOROS
T-300 Kasırga
対艦弾道ミサイル(ASBM:anti-ship ballistic missile)
(海上の艦船を対象としたもの。最大射程3,000km)
主な種類
ソ連4K18/R-27K(SS-NX-13、試験のみ)
中国東風21D(DF-21D)
インドダヌス(開発中)
イランペルシアン・ガルフ(開発中)
潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM:Submarine Launched Ballistic Missile)
潜水艦から発射されるもの。射程関係なし)
主な種類
アメリカUGM-27「ポラリス」
UGM-73「ポセイドン」
UGM-96「トライデントI」
UGM-133「トライデントII」
イギリスポラリスA-3TK
トライデントD-5
ソ連/ロシアR-11FM/8A61"Zemlya"(SS-1B「スカッドA」)
R-13/4K50(SS-N-4「サーク」)
R-21/4K55(SS-N-5「サーク/サーブ」)
R-27/4K10"Zyb"(SS-N-6「サーブ」)
R-29/4K75"Vysota"(RSM-40/SS-N-8「ソウフライ」)
R-29R/4K75R(RSM-50/SS-N-18「スティングレイ」)
R-39/3M65「リフ」(3M65/RSM-52/SS-N-20"Sturgeon")
R-29RM/3M27"Shtil"(RSM-54/SS-N-23「スキッフ」)
R-29RMU/3M27「シネーワ」(RSM-54/SS-N-23A「スキッフ」)
R-29RMU2「ライナー」(SS-N-23B「スキッフ」)
R-39UTTKh「バーク」(RSM-52V/SS-N-28)
R-30/3M14「ブラヴァー」(RSM-56/SS-N-30)
フランスMSBS*5 M1(退役)
MSBS M2(退役)
MSBS M20(退役)
MSBS M4(退役)
MSBS M45
MSBS M5(1996年開発中止)
MSBS M51(M5の機能限定型)
中国巨浪1号(JL-1、CSS-N-3)
巨浪2号(JL-2、CSS-NX-4)
巨浪3号(JL-3)(開発中)
北朝鮮北極星1号(KN-11)
インドK-15
K-X(開発中)
空中発射弾道ミサイル(ALBM:Air-Launched Ballistic Missile)
(航空機(主に爆撃機)から発射されるもの。高コストにより開発中止)
主な種類
アメリカGAM-87/AGM-48「スカイボルト」
イギリスブルーストリーク
ブルースチール



*1 そのため、旧式化や軍縮条約によって現役を退いた弾道ミサイルの弾体が人工衛星の打ち上げに転用されることもある。
*2 衛星打ち上げ用のロケット開発で高い技術を保持することは、(開発の当事者がどう考えるにせよ)外から見れば優秀な弾道ミサイルの開発能力を保持していることになる。
*3 事実、旧ソ連やアメリカなど、最初期に宇宙開発に着手した国家は、概ね弾道ミサイルの開発で得られた技術を転用していた。
*4 戦場弾道ミサイル (BRBM:Battlefield Range Ballistic Missile)とも。
*5 Mer Sol Ballistique Strategique(海中発射型対地戦略弾道弾)の略。

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