Last-modified: 2024-01-13 (土) 04:29:02 (105d)

【戦略爆撃】(せんりゃくばくげき)

戦略的企図を以て実施される爆撃
『戦術爆撃』の対義語で、前線戦術的判断(近接航空支援および阻止攻撃)以外の爆撃を指す。

さらに細分すると、軍需産業や輸送路など兵站設備を破壊する精密爆撃と、不特定多数の民間人を標的とする無差別爆撃に分けられる。

精密爆撃とは、民間人を巻き込まないように配慮して爆撃するという意味ではない。
精密性が求められるのは重要な目標を確実に仕留めるため、また誤射によって軍需物資を浪費しないためである。
最大限正確に投下しても爆弾は民間人を惨死させるかもしれず、そもそも標的は民間施設かもしれないが、それは作戦上問題とはみなされない。
政治的には問題かもしれないが、そうであるなら命中精度に関係なく爆撃を中止する他ない。

軍用航空機が普及して空軍が創設される黎明期、20世紀前半に現れた戦略思想で、主に政争の具として多大な影響力を得た。
つまるところ、空軍将官陸軍海軍の指図を受けずに独自の戦略的判断を下す権力を得られる、という点に思想上の魅力があった。
戦略爆撃という行為自体の軍事的有効性について十分な事前研究が行われたとは言いがたく、おおむね空軍礼賛的楽観論と官僚的専横の所産であったといえる。

第二次世界大戦から冷戦期にかけ、当時の軍政上の常識と、功績を挙げたいという将官の欲望に基づき、大規模な無差別爆撃が度々実施された。
国家総力戦において敵国の生産力を削ぐ、ゲリラの後背を焼いて補給を絶つ、などの目的が設定されたが、戦果の判断はドクトリンに依存する不明瞭なものだった。
やがて地対空ミサイルの発達により航空優勢の確立が困難になると共に、迂遠なうえに費用甚大・成果不明瞭な無差別爆撃は忌避されていった。

湾岸戦争では、空陸連携(エアランドバトル)を旨とする当時最新の戦略理論に基づき、陸軍機動経路を切り開く精密爆撃が多大な成果を上げた。
以降、戦略的企図による爆撃陸軍との連携を念頭に置き、攻勢対航空作戦と併せて軍事目標を破壊する作戦が主流となっている。
ただし、テロリズムの次元においては暗殺や恫喝を意図した無差別爆撃がしばしば実施されている。

民間に対する虐殺的な無差別爆撃の有効性については、現代に至っても定見がない。
民衆に対する爆撃は明らかにハーグ陸戦条約に抵触する行為だが、実際の紛争において敵性集団が戦時国際法を遵守してくれるなどとは期待すべきでない。
虐殺の手段としての空爆費用対効果はさておき、虐殺それ自体は内戦ゲリラ戦テロリズムにおいて珍しい戦略ではない。


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