【制空権】(せいくうけん)

mastery of the air.

味方航空機の安全な活動を保障し、かつ敵性航空機を完全に排除した状態。空の支配。
空軍戦略戦術の要諦であり、航空機の運用上決して無視できない概念である。

ただし、20世紀後半の戦訓を見るに、軍事的手段で制空権を確保するのは不可能だと結論せざるを得ない。
ゲリラでさえ地対空ミサイルを携行できる時代にあって、戦地から脅威を取り除く事は事実上不可能である。
また一方、平時の対領空侵犯措置でさえ、敵機を捕捉出来ず偵察機の跳梁を許す事例は後を絶たない。

戦場の実務において制空権はどちらが優勢かを問う相対的な問題(航空優勢)として考慮される。
とはいえ、圧倒的な航空優勢下にある状況を指して「制空権」と表現する事も広く行われている。

関連:制海権

完全な制空権

航空機は極めて高速であり、しかも速度相応に膨大な燃料を消費するため継続稼働時間に限界がある。
このため、航空優勢を失った状態でも防空網・戦闘機の迎撃をかいくぐって一時的に突破する事が可能である。
完全な意味での制空権を保持するためには、この一時的突破さえ不可能な情勢を構築しなければならない。

このため、絶対的な制空権を得るためには、仮想敵の戦闘行動半径を越える範囲*1で地上を制圧し、全ての飛翔物体を没収する必要がある。
全ての都市を占領して戒厳を敷き、敵陸軍レジスタンスを消滅させ、それから初めて制空権の掌握を試みることができる。

何のために制空権を確保するのかという目的から鑑みれば、その試みは明らかに本末転倒である。
完全な制空権を確保した所で戦時の軍事的優位は一切ない。達成する前に国家が崩壊して戦争は終わっているはずだからだ。
制空権の存在意義は空爆・航空偵察の阻止だが、それを完全にしようとする試みは非現実的なほどコストがかかる。
このため、制空権は常に程度と妥協を強いられる不完全なもので、最終的にはコスト・パフォーマンスの問題に帰結する。

兵站と人命を消費し、引き替えに敵の空爆と航空偵察を阻止する、その経済性こそが問題である。
そして効率上、敵航空戦力の跳梁を許して損害を許容するのが最も経済的な場合もあり得る。


*1 現代において、これは事実上「地球全土」を意味する。

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