【M110】(えむひゃくじゅう)

アメリカ陸軍の現用主力自走榴弾砲
M107 175mmカノン砲と平行開発され、1961年に制式化。アメリカや日本のほか9ヶ国で採用された。
現在では、M270多連装ロケットシステムなどの後継機種に移行して順次退役中。

戦略レベルでの大規模な運用が想定され、主に軍団直轄の砲兵部隊に配備された。
開発に当たっては他車のコンポーネントを利用しており、車体はM107、エンジンはM108/M109、サスペンションはM113から流用され、コストの低減が図られている。
また、C-130輸送機での空輸も考慮されており、車体は非常に小型で大口径自走砲としては極めて軽量である。

日本でも1983年からライセンス生産され、砲架を日本製鋼所、車体を小松製作所が分担して製造している(砲身はアメリカからFMS(有償援助)で取得)。
陸上自衛隊では「203mmりゅう弾砲」の名称で採用され、北部方面隊西部方面隊などの特科部隊に計91両が配備されている。

性能諸元

乗員5名
全長11.3m(M107)/10.73m(M110)
全高3.68m(M107)/3.14m(M110)
全幅3.15m(M107)/3.14m(M110)
戦闘重量29.2t(M107)/28.3t(M110)
懸架・
駆動方式
トーションバー方式
エンジンデトロイト・ディーゼル 8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼルエンジン
(出力405hp)
登坂力60%
超堤高1.01m
超壕幅2.36m(M110)/1.90m(M110)
最大射程32.7km(M107)/16.8km(M110)/21.3km(M110A1)/29.1km(M110A2)
最大速度
(路上)
56km/h(M107)/54.7km/h(M110)
航続距離725km(M107)/523km(M110)
装甲13mm(車体前面)
携行弾数2発
兵装M113 64.5口径175mmカノン砲×1門(M107)
M2A2 25口径203mmカノン砲×1門(M110)
M201 37口径203mmカノン砲×1門(M110A1)
M201A1 37口径203mmカノン砲×1門(M110A2)

主な派生型(カッコ内は試作時名称)

  • M107(T235E1):
    1961年に制式化された自走榴弾砲。1961年6月〜1980年5月までに524両が生産された。
    後に、統一化で余剰となった車両は搭載砲を換装してM110A1に改造された。

  • M110(T236E1):
    初期型。M107と並行して開発され、1961年に制式化された。
    1969年までに約750両が生産された。
    搭載砲の射程が短いという欠点があったため、後に砲の換装が行われ、M110A1/A2に改造された。

  • M110A1:
    M107/M110の搭載砲を換装した射程延伸型。1976年に制式化された。
    主砲を37口径のM201 37口径203mm榴弾砲(最大射程21,300m)に換装したほか、車体など数箇所を再設計し、信頼性の向上がなされている。

  • M110A2:
    M107/M110A1を改造した強化型弾薬運用型。1978年に制式化され、250両が改造された。
    主砲はM201にマズルブレーキなどを追加した改良型であるM201A1を搭載している。
    アメリカ陸軍以外にも日本を含む9ヶ国で採用されたが、アメリカ陸軍では順次退役中*1

  • M578 MRV(Light Recovery Vehicle):
    M107/M110をベースにした戦車回収車。主にベトナム戦争で活躍した。
    360度回転可能な上部構造物にクレーンブームとウィンチを備えている。

  • W-90:
    M107/M110の車体にNORINCO(中国北方工業公司?)製の203mm榴弾砲(駐退器マズルブレーキの形状が全く異なる)を搭載した、中華人民共和国開発の半オリジナル車両。
    車体はアメリカが援助したパキスタン軍の車両もしくはベトナム戦争時にアメリカが放棄したものを入手したと考えられている。

  • 203mm自走りゅう弾砲:
    M110A2を陸上自衛隊向けに日本でライセンス生産したモデル。
    「サンダーボルト」の愛称があるが、隊内では「自走20榴」と呼ばれている。
    北部方面隊西部方面隊などの特科部隊に配備されている。

*1 将来、野戦部隊の火力支援兵器をMLRSへと全面的に移行する計画があるため。

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