【避弾径始】(ひだんけいし)

戦車などの装甲を、飛来する砲弾に対して垂直にならない斜めの角度に傾けて設置する事。
設計段階で考慮する場合、できるだけどの方位に対しても避弾径始が成立するよう、装甲を丸みを帯びた形状に成形する。

運用している兵士も「装甲が傾斜するよう、真正面ではなく斜め前に敵を見据える」などの配慮を行う事ができる。
ただし、これは車体側面をさらす事になるため、側面に十分な装甲が配されていない車種ではかえって危険を増す。

これによって砲弾などを角度に沿って滑らせ、貫通しにくくする。
加えて、進入角が斜めになると、垂直な場合に比べて見かけ上の装甲厚が増え、貫通に必要なエネルギーが大きくなる。
弾頭が軽いほど弾丸が滑りやすいため、特に高速徹甲弾に対して有効である。
ただし、ユゴニオ弾性限界を超える高圧に対しては意味が薄い(装甲材が塑性流動を起こすため)。
このため、装弾筒付翼安定式徹甲弾の普及後はあまり重視されなくなった。

また、爆発反応装甲も典型的に30°ほどの被弾径始になるよう設置される。
着弾した弾頭に反応して爆発し、その爆圧で弾頭を横から殴りつけて侵徹を阻害するものである。

一方、曲線的な形状は内部容積の活用を困難にし、前面投影面積を広げる欠点がある。
また、どの方位からどこを狙っても常に傾斜しているような形状は幾何学の原理上実現不可能である。
このため近年の戦闘車両は前面を撃たれた場合にのみ避弾径始を成立させ、側面や背面はあまり傾けない傾向にある。

前面だけを傾斜させるなら、前面投影面積に影響を及ぼさない設計ができる。
また、側面や背面は突発的な奇襲でない限り攻撃されない箇所なので、装甲自体が薄く、避弾径始させる利点が少ない。


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