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*&ruby(ぐんぴょう){【軍票】}; [#u802e61a]
国外へ派遣された[[軍隊]]が、自軍の占領地域・勢力下において、当地の住民から物資の調達やその他のサービスを受けた対価を支払うために発行する''擬似通貨''。~
正式には「&ruby(ぐんようしゅひょう){軍用手票};」という。~
「&ruby(ぐんようしゅひょう){軍用手票};」の略。~
[[軍隊]]が現地住民と取引をする際に発行される領収書の事。~

戦略上の理由から取引に迅速さが求められるため、軍票は軍が独自の判断で発行・流通させる事ができる。~
とはいえ乱発すれば(実際の通貨と同じように)物価が高騰する危険性もある(([[第二次世界大戦]]中の旧日本軍は、各軍団が勝手に軍票を発行して占領地の住民にばら撒いたため、地域によっては煙草の巻紙代わりに使われるほど価値が暴落したという。))。~
形状としては紙幣を模す事が多く((現在の[[アメリカ軍]]では、[[PX>酒保]]などの基地内部でだけ通用するプリペイドカード式の軍票を使用している。))、その価値は「発行元の国家政府当局に提出すれば換金できる」事が担保となっている。~

従って、敗戦したり経済破綻した国家の軍票はしばしば価値を喪失する。~
軍票はその性質上[[領土]]外で配布される事が多いため、この事はしばしば国際的な禍根を残す((例えば、旧日本軍の発行した軍票は当時の国際法および講和条約の関係で支払い義務が消滅しており、支払いを求める民事訴訟は棄却されている))。~
~
原始時代の部族間闘争以来、戦争行為には「掠奪」がつきものであり、勝者は敗者の農作物・財貨・資源・家畜などを自由に処分し、敗者側の人間を奴隷として使役できる権利を持っていた。~
やがて、時代が下がるにつれてこうした野放図な収奪は「野蛮な行為」と認識されるようになってきたこともあり、19世紀末に制定された戦時国際法のひとつ「[[ハーグ陸戦条約]]」では~
''「現品を供給させる場合は、住民に対して即金を支払わなければならない」''~
と定められた。~
しかし、外国へ派遣された軍隊が自国の通貨や保有する貴金属(換金性の高い金・銀・白金など)をそのために持ち出すと、当然に外貨(被進駐国の通貨、または世界各地で広く通用する米ドル・英ポンドなど)との交換が発生する。~
大量の自国通貨や貴金属の流出は、インフレーションによる国家経済の破綻や敵対勢力による「工作資金」としての利用を招く恐れがあるため、ハーグ条約には、これを回避するための措置として~
''「即金の支払ができない場合には、『領収書』を発行して速やかに支払いを履行すること」''~
という規定がある。~
そこで、軍隊が発行する「領収書」が軍票である。~
また、(上記の理由から)軍票の発行については自国の財務当局や中央銀行の許可は要らず、軍が独自の判断で発行・流通させることができるが、だからといってむやみに乱発すると(実際の通貨と同じように)インフレを起こして価値が暴落してしまう危険性がある。(([[第二次世界大戦]]中の旧日本軍では、各軍団が勝手に軍票を発行して占領地の住民にばら撒いたため、地域によっては(価値が大暴落したせいで)煙草の巻紙代わりに使われることもあったという。))~
**軍票が発行される理由 [#nc15fb85]
そもそも武力[[紛争]]は本質的に「掠奪」であり、勝者は敗者の財産を自由に処分し、敗者側の人間を奴隷として使役するのが慣例だった。~
しかし強奪すれば財源が破壊され長期的利益を損なうため、次第に野放図な略奪は「野蛮な行為」と認識されるようになっていった((人道上の問題はこの場合あまり関係がない。実際、より多くの利益を吸い上げるために敗戦国の経済を崩壊させた事例は近代以降にも絶えない。))。

19世紀末に制定された戦時国際法のひとつ「[[ハーグ陸戦条約]]」では明確に略奪を禁止する旨が条文に盛り込まれた。((''第三款47条:''略奪はこれを厳禁とする。))((''第三款52条:''現品を供給させる場合には、住民に対して即金を支払わなければならない、それが出来ない場合には領収書を発行して速やかに支払いを履行すること))~
しかし、自国の通貨や貴金属などを[[紛争]]地域に流出させると本国の物価が上昇する危険性がある。~
流出した貨幣が[[工作>スパイ]]資金として流用される恐れもある。~
このため戦時中の軍事経済は領収書(軍票)を発行し、経済的混乱をゆるやかに抑える事が望ましい。~
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紙幣のような形態をしていることが多い((現在の[[アメリカ軍]]では、[[PX>酒保]]などの基地内部でだけ通用するプリペイドカード式の軍票を使用している。))が、上記の通り、正確には「通貨」ではなく「領収書」であり、原則的には、最終の所持者が発行元の軍隊が属する政府当局にこれを提出して、現金の支払または貴金属との交換を受けねばならないことになっているが、戦争に負けると、国自体に支払能力がなくなって反故にされることもあり、場合によっては戦後に新たな国際問題を生んでしまうこともある。~
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実際、[[第二次世界大戦]]中に[[日本軍]]が東南アジアの占領地域で発行した軍票を持っていた現地住民が、軍票と正式な通貨との引換を求めて日本の裁判所に民事訴訟を起こしたこともあるが、~
-「[[旧軍]]の発行した軍票と現金との引き換えを規定した法令がない」
-「当時の国際法では、『国家は戦争に関する個人の損害を補償しない』という原則があった」
-「1951年のサンフランシスコ講和条約で、日本と交戦した[[連合国]]が旧軍発行の軍票の支払義務を免除している」

という理由により、訴えは退けられている。


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