【特殊部隊】(とくしゅぶたい)

Special Assault Team (SAT).

日本の警察庁が保有する対テロ特殊部隊
警視庁および一部の都道府県警の隷下で編成されている。

特殊部隊」が正式名称であり、公文書でも「警視庁特殊部隊」「大阪府警察特殊部隊」などと表記される。
一般名詞としての特殊部隊と区別する必要がある場合、英語表記で「SAT」と呼称される事が多い。

「特殊急襲部隊」と呼称される場合もあるが、これは制度的根拠のない俗称である。

関連:海上保安庁特殊警備隊 特殊捜査班 スカイマーシャル

沿革

本部隊のルーツは、1977年(昭和52年)に日本の共産主義系テロ組織「日本赤軍」が起こした「ダッカ日航機ハイジャック事件」にさかのぼる。

事件当時、日本政府及び警察当局はハイジャック事件に関するノウハウの蓄積が充分ではなく、また「人命尊重」の原則に拘泥した*1あまり、実行犯グループに対して有効な対処(人質解放のため、武装警官を被害機に強行突入させるなど)を行えなかった。
そのため、人質となった乗員乗客の全員救出と引き換えに「超法規的措置」によって実行犯(及び実行犯グループが釈放を要求した犯罪者数名)を海外へ逃がしてしまい、またこの事件で海外へ出国した者たちがその後間もなく、逃亡先で新たなテロ活動を起こしたため、「日本はテロまで輸出するのか」と、諸外国から強い批判を浴びることになる。

しかし、当時は欧米諸国でも同様の事件において類似の対応が取られることが普通であり、このような事態に対応できる対テロ特殊部隊の創設が進められているところであった。
そこに、同事件の翌月に起きた「ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件」で、西ドイツが特殊部隊GSG9」を投入して、犯行グループの撃滅と人質救出の双方に成功した事案があり、これとの対比でより強い批判になった。

こうした苦い経験から、警察庁は定期国際航空便が発着する大規模な空港*2を擁する警視庁(東京都)の第六機動隊と大阪府警察の第二機動隊に、それぞれ特科中隊」「零中隊」*3という名称で、(旧)西ドイツが創設していた対テロ特殊部隊・GSG9をモデルとした対ハイジャック専門の部隊を創設することを決めた。

1996年(平成8年)には上記に加えて、地方の主要空港・主要港湾・外国公館・在日米軍施設を擁する道県の警察(北海道、千葉県、神奈川県、愛知県、福岡県)にも同様の部隊を創設。その際に総称として「特殊急襲部隊(SAT)」と命名された。
また、2005年(平成17年)には沖縄県警にも創設されている*4

組織構成など

組織構成については未だに判明していない所もあるが、現時点で警視庁に3個、大阪府警に2個、北海道と上述した5つの県警察に1個の班が設けられており、合計で11個班編成で、部隊の総員数は300人前後となっている。
装備面では、拳銃にグロック19やH&K USP、短機関銃H&K MP5を採用するなど、モデルとされたGSG9の組織・装備を基本としている。
また自衛隊の主力小銃である89式小銃や、外国製の狙撃銃、暗視装置、集音器などの偵察用機材に、専用の防弾装甲車、スクーバ器材の配備・使用も確認されている。
隊員の海外研修に関しては、フランス国家憲兵隊の「GIGN(国家憲兵隊治安介入部隊)」や、オーストリア内務省直属の「EKO(特別コマンドー部隊)コブラ」などで行われている。

隊員の人材については、一部の資料によると
「隊員の平均年齢は22歳。選考は主に機動隊から入隊希望者を募り、また、妻帯者や長男は対象外」
などといわれているが、(報道などによると)実際には30代前後の隊員や配偶者・子のある隊員もいるという。

その他の警察特殊部隊

なお、日本における警察特殊部隊としては、SAT以外にも次のような部隊がある。

銃器対策部隊
銃器を使用した事案への対処や重要施設の警備に当たる部隊。
テロ事件など、重大事案発生時は当初の一次的対応を行い、SAT到着後はその支援に当たる。
特殊捜査班
(政治的な要素のない)誘拐・籠城事件などへの対処を任務とする、刑事部捜査第一課隷下の部隊。詳しくは該当項目を参照。
重要防護施設警備隊
有事の際、国家運営上特に防護を要する施設*5の警備を平時から専門に行う部隊。
皇宮警察特別警備隊(皇宮警察本部)、総理大臣官邸警備隊(警視庁)、原子力関連施設警戒隊(福井県警など16の道府県警察)がある。
爆発物対応専門部隊
爆弾の解体ないし冷却による処理や、現場から無人地帯への撤去・搬送を専門とする部隊。
警視庁をはじめ、13の都道府県警察に設けられている。
NBCテロ対応専門部隊
NBC兵器を用いたテロへの対処を専門とする部隊。詳しくは該当項目を参照。
国境離島警備隊
外国の活動家や工作員による離島への不法上陸に対処する、沖縄県警察警備部隷下の専門部隊。
近年の中国海軍の増強に伴う南西諸島での有事発生の恐れや、外国人による不法上陸・領海侵入の常態化を踏まえ、2020年(令和2年)4月に創設された。
海上保安庁特殊警備隊
海上保安庁(国土交通省外局の沿岸警備隊)隷下の対テロ特殊部隊。詳しくは該当項目を参照。

*1 特にこの当時、公安警察の主な取締対象であった新左翼各党派は、警察の取締で仲間に犠牲者が出た場合、犠牲者を「権力に圧殺された革命闘士」などと呼び、「報復」を名目とした更なるテロ行為に走らせるための士気高揚に利用していた。
*2 当時の空港整備法で「第一種空港」とされていた羽田空港成田空港及び伊丹空港
*3 特科中隊は、1980年代初めから英訳の「Special Armed Police」を略して「SAP」と呼ばれていた模様。また零中隊の方は、設立当初に「存在していない部隊」という意味合いを込めて呼称された。
*4 沖縄県警での部隊創設当時、一部のメディアが「在日米軍施設警備のためか」と報じたが、県警当局では「事件発生時に本土から応援を呼ぶのに時間がかかるため」と表明している。
*5 原子力関連施設や東京都内の政経中枢施設、在日米軍施設など。これらの施設には有事の際、自衛隊が出動して警備に当たる。

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