【減圧症】(げんあつしょう)

生体が急激な気圧低下に遭遇した際に発症する疾病。
高度に上昇したエビエーターや、地上に帰還したサブマリナーに見られる。

直接の原因は、大気中に含まれる窒素や、潜水艦に用いられるヘリウムである。
こうした成分は呼吸を通じて血液中に溶け込み、気圧が急低下すると"沸騰"して血管を閉塞させる。

この疾病により、初期・軽症の段階で関節痛が現れる。
脳への酸素供給が滞ってアルコールに似た酩酊・目眩・幻覚・思考力低下などを伴う事も多い。
重篤な場合はチアノーゼや呼吸困難などの症状を呈し、神経系や骨格などに永続的な後遺症を及ぼす。

自然治癒しない疾病であり、発症が予想される場合は常に医師の治療を必要とする。
現状、高気圧の環境で高濃度の酸素を吸入させる「高気圧酸素療法*1」以外に有効な治療法は存在しない。
この処置が可能な医療機関は限られており、また高額の設備を必要とする関係で受け入れ可能人数も少ない。

急激な気圧変化が起きないよう、上下軸への移動をできる限り遅延して体を慣らす事で予防できる。
また、事前に純酸素を呼吸する事でも症状の緩和が期待できる。
幸いな事に、人間が普通に起こし得る行動で減圧症に至る事はほとんどない。

さすがに「午前中にスキューバダイビング、午後に登山」とまでなれば発症の危険が大きい。
同様の理由から、潜水を行ってから24時間経過するまでは航空機に搭乗すべきでない。


*1 患者を棺桶に似たカプセルや、密閉された部屋の中に入れて気圧を高め、同時に酸素吸入を行う治療。気圧を高くすることで血管に生じた気泡を再び血液に溶かし込み、徐々に通常の気圧に戻していく。昔は潜水夫の間で減圧症を発症した仲間を再び水に潜らせると治癒することが知られており、やっている事は同じである。

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