*&ruby(きへい){【騎兵】}; [#x7346058]
(英)Cavalry/Trooper~
かつて存在していた軍隊の兵種で、戦場で主として馬に乗って戦う兵士((象の生息地域では「戦象」という類似の部隊もあった))のこと。~
現代では(後述の通り)自動車の発達により廃れているが、過去に騎兵部隊として編成されていた歴史を持つ部隊が、装備が[[軽戦車>戦車]]、[[歩兵戦闘車]]、[[ヘリコプター]]などに置換された後も(伝統を重んじる意味で)「騎兵」の名を名乗り続ける場合がある。~
また、迅速な[[展開]]・撤収を求められる即応集団・増援部隊・[[特殊部隊]]などを一種の慣用句として「騎兵隊」と呼ぶ事もある。

**騎兵の利点と欠点 [#ec89d2c5]
騎兵を通常の[[歩兵]]と比較した場合、以下のような利点と欠点がある。

-利点
--徒歩で移動する[[歩兵]]では到底追いつけない速度と[[機動力]]を持つため、伝令や[[威力偵察]]に適する。
--その速度と機動力によって交戦した敵[[歩兵]]の[[撤退]]を阻止し、突撃や追撃による戦果を拡大する。
--馬上で見ているため視点が高く視野も広い。これは警戒や偵察を容易にし、戦場での迂回や包囲も助ける。
--コストが高く戦果も華々しい部隊であるため、軍の内部でも高い格付けになることが多く、高度に訓練されるため総じて[[士気]]も高い。
--死んだ馬は糧食になる((平時に口減らしのために屠殺した老馬の肉は貴重な保存食であったし、最悪の事例では『死んだ人間も糧食になる』という事実から目を背ける時間稼ぎになった。))。

-欠点
--馬に重荷を負わせると[[機動力]]が落ちるため、[[歩兵]]ほど重い鎧は着込めず、攻撃を受けると脆い。~
--片手で保持できる武器しか装備できないため、[[白兵戦]]でも長槍などで重武装した[[歩兵]]には遅れを取る。
--歩兵よりも物理的に大きいので、射撃が命中しやすい。また遮蔽を取って隠れる事もできない。
--山岳や森林などの荒地や、雨天でぬかるんだ泥などが[[機動力]]を大幅に殺いでしまう。
--遮蔽物を突破できないため、屋内戦や市街戦はほとんど不可能。
--地形やバリケードを使った待ち伏せを受けると、弓兵や銃撃の[[キルゾーン>有効射程]]から離脱できなくなって容易に壊滅する。
--馬1頭を養うために人間の兵士10人分に近い食料と水が必要。
--馬と兵士の訓練(調教)に年単位の練成が必要で、平時の訓練にも膨大なコストがかかる。~
--膨大な維持費と訓練時間が必要なので、必然的に多くの数を用意できないし、損耗からの回復も遅い。

**騎兵のバリエーション [#v653168c]
当然ながら騎兵も兵士の一種であり、時代や国情ごとに移り変わる戦術・戦略を反映して様々な編成、運用が成される。

: ''古代[[戦車]](チャリオット)'' |馬の背中に兵士が乗るのではなく、兵士と武装を搭載した台車を引き摺らせて移動するもの。~
2頭以上の馬を繋げられるため積載能力に優れ、2人以上が同じ台車に搭乗可能で、落馬の危険も比較的少ない。~
反面、台車など重い荷物を運ばせるため[[機動力]]が低く、馬の行動が大幅に制限されるため[[白兵戦]]に弱い。~
また車輪の関係で地形障害に非常に弱く、地形を利用する戦術が浸透すると共に戦場から姿を消していった。~
ただしその設計思想は馬車として残り、現代でも[[自動車>機械化]]や[[戦車]]へと受け継がれている。

: ''弓騎兵'' |[[機動力]]を重視した軽い装備で、[[白兵戦]]を避けて逃げ回りつつ弓などで[[散兵戦]]を行う。~
多くは偵察部隊を兼ね、しばしば[[威力偵察]]を行ったり、敵陣の側面や後方を狙う事が多い。~
この行動方針は遊牧民族が平時に行う狩猟や牧畜と似通った面が強く、事実、遊牧民の弓騎兵は練度が高かった。~
このため遊牧民は古代から中世にかけて[[略奪を行う蛮族>傭兵]]として軽蔑され、また恐れられていた((厳密に言えば略奪を行う蛮族でない国民など[[常備軍>徴兵制]]が整備された国家にしか存在しない。ただ、遊牧民は強奪を行うリスクが低かった(生還率が高く、従って被害件数も多かった)))。

: ''重騎兵'' |4mを超える長槍などを備え、突撃して[[白兵戦]]で敵陣を突破する事を主任務とする騎兵。~
騎兵は攻撃を受けると脆いが、短時間で敵陣を突破できれば攻撃を受ける機会も減り、被害は少なく済む。~
また、騎兵槍は[[火器>ガン]]が登場するまで人間が保持できる最高の[[破壊力>デストラクションパワー]]を備えた兵器であった((馬の体重と速度による運動エネルギーが人力よりも格段に優れている))。~
大きな盾などで武装した重装歩兵も一撃で蹴散らせるため、実際の被害以上に[[士気]]への影響が大きかった。~
反面、集団密集戦術が基本となり[[散兵戦]]を行えないため射撃には非常に弱かった。~
弓矢への[[対応防御]]として人間と馬を鎧で覆う事もあったが、ただでさえ高価なコストが鎧によってさらに高騰するため実用的ではなかった。

: ''騎士'' |中世の西ヨーロッパ諸国で、王侯貴族に仕えていた騎兵。Knight.~
馬上試合や儀礼的決闘を行う事に特化し、見栄えよく取り繕われている。~
騎士同士がそれぞれ名乗りを上げて「公正」に戦い、勝者は敗者の身柄と引き替えに身代金や利権・[[領土]]を得る。~
非道な扱いをされないよう、また身代金の支払いが滞らないよう互いに礼儀を尽くし、捕虜となった騎士は愛馬ともども非常に丁重に扱われた。~
このような文化が発達した理由として騎兵を運用する事、および戦争そのものの甚大な経済的負担が挙げられる。~
敗北した場合の保険として、王侯貴族同士が互いに縁戚関係を結んで[[国家総力戦]]を避け、「危険な賭け試合」程度にまで戦争を形骸化させたのである。~
必然的に、中世後期に再び戦争が「真剣勝負」になって以降は急速に軍事的価値を失い、[[傭兵]]となったり、土地を所有して荘園領主になるなど変質していった。((英国などでは、このことから「騎士」の名が社会階層のひとつとなっている。))

: ''乗馬[[歩兵]]'' |戦場まで移動するための乗り物としてのみ馬を利用し、戦う時は歩いて戦うもの。~
長弓兵や初期の[[銃>ガン]]兵など、訓練を要するが騎兵とは両立しない兵科でよく見られる。~
また、指揮官など自分自身の交戦を想定しない場合にもよく見られる。~
戦闘に関与しないため[[撤退]]時に奪われる可能性を除けば馬の生還率が高い。~
戦国時代の日本など馬の入手に難のある地域では否応なく騎兵を乗馬[[歩兵]]としてのみ運用する事もある。

: ''馬車'' |数頭の馬に大きな車を曳かせるもの。要人、[[歩兵]]、[[兵站]]の輸送に特化している。~
物資を積載した場合は[[歩兵]]と大差ないほど[[機動力]]が落ちるため、基本的に戦場には投入しない。~
襲撃に遭った場合に馬車自体で戦う事も不可能なため、可能であれば護衛として[[歩兵]]を同道させる。~
古代ローマでは馬車による連絡網を整備する目的で長大かつ頑丈な街道が各都市間に設けられていた。

**歴史的経緯 [#pef8188d]
騎兵は中世まで[[歩兵]]と並ぶ正面戦闘部隊と位置付けられていたが、中世後半から近世に至る頃にはほぼ完全に対抗戦術が確立されたため正面戦力としての運用を避けるようになり((この時代の騎兵は[[機動力]]を駆使した[[散兵戦]]で戦列を乱したり、戦場に到着したら馬を下りて隊列を組み射撃するのが一般的だった。))、19世紀後半に[[ライフル]]と[[機関銃]]が登場すると完全に陸戦の主力から退いた。~
その後もしばらく偵察・伝令・長距離移動手段・輸送用の荷役として馬が用いられた((前三者の任務では自転車が代替されることもあった。))が、[[第二次世界大戦]]で自動車が大々的に運用され始めると同時に、兵器としての馬は姿を消す事になる((ちなみに、世界で最後に正規の乗馬騎兵部隊による戦闘を行ったのは[[日本軍]]である。))。~
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ただし、現在でもなお「国家や軍隊の歴史・名誉・伝統を後世に継承する」という儀礼的な役割を持たせた、小規模な乗馬部隊を軍や警察に備えている国もある。((現在の日本では、警視庁(交通部第3方面交通機動隊)と京都府警(地域部平安騎馬隊)に小規模な騎馬部隊がある。))~
また、スペインなどヨーロッパの一部の国では暴徒鎮圧などのために警察に騎馬部隊を持たせているところもある。~

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関連:[[カービン]]~

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