【海上保安庁】(かいじょうほあんちょう)

日本政府が国土交通省の外局として設置・運営している海上警察組織。
英語表記では「Japan Coast Guard(ジャパン・コースト・ガード)(JCG)」と呼ばれている。
第二次世界大戦後の1948年、アメリカの「沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)」をモデルに、運輸省(当時)の外局として設立された。

海上保安庁公式webサイト
http://www.kaiho.mlit.go.jp/

その任務

現在、海保が行う主たる任務は次の4種類とされている。

  • 警備業務
    日本の領海及びその中にある船舶、または領海外にある日本国籍の船舶内で発生した犯罪の捜査や被疑者の検挙、重要港湾・船舶の警備など。
    (このため、現場で業務にあたる「海上保安官」は刑事訴訟法上の「特別司法警察職員?」と定められており、海上において発生した事案については警察官と同等の権限を行使でき、また、任務遂行に必要な範囲内で銃火器などの武器を携帯することが認められている*1
  • 海難救助業務
    海上で遭難した船舶・航空機及びその乗客・乗員の捜索救助、離島や船舶からの急患輸送、事故船舶の消火やそれに伴う海洋汚染の防止など。
  • 海洋情報業務
    海図の作成、潮流の測定、海底地形の調査など。
  • 交通業務
    海上交通の円滑化を図るため、灯台・航路標識・航法支援システムなどを設置・管理する。

また、この他にも領海警備や海洋調査などの「海洋権益の保全」も任務としており、四方を海に囲まれた日本の「国境警備隊」としての役割も果たしている。

海の「もしも」は118番

海上における事故・犯罪の通報は、当該船舶や付近を航行する船舶などからの無線通報によるものが多いが、2000年からは「118」(市外局番・市内局番なし)をダイヤルすることで、船舶電話や陸上の固定電話・携帯電話からも通報ができるようになった。
これをダイヤルすると、船舶電話の場合は海保本庁に、陸上の電話からは発信地を管轄する管区海上保安本部(全国11ヶ所)に接続され、その通報によって巡視船艇・航空機を出動させて事態の解決にあたる。

以前は海保本庁及び各海上保安部署の通報専用電話「市外局番−市内局番−4999」で受け付けていたが、現在でもこれは稼動しており、どちらにかけてもよい。
また、海難事件や事故の通報で110番(警察)や119番(消防・救急)に誤ってかけた場合でもすぐに海保へ取り次がれる。

しかし実際には、知名度の低さからか有効な通報は1%程度と低く、海保は頭を悩ませているという。

国内外での位置づけ

上述のように、海保は日本の領海上における治安維持組織であると同時に国境警備隊の性格も併せ持ち、軍隊に準じた強力な武装組織であることから、国際的には「準軍事組織」として扱われているが、日本政府では法律(海上保安庁法)により「軍隊ではない」としている。*2
ただし、有事の際に自衛隊に「防衛出動」「治安出動」「国民保護出動」命令が発動されたときには、自衛隊法第80条により防衛大臣の指揮下に組み込まれ、海上自衛隊と共に行動できることになっている。
(これは、モデルとなったアメリカの沿岸警備隊が有事には海軍の指揮下に組み込まれることに倣ったもの、とされている)。

なお、一部では「本来、交通・運輸政策を遂行する行政庁である国土交通省が(軍隊に準じる)武装組織を持っているのはおかしい」として、「防衛省の外局とすべきではないか」という意見も存在している。

この声自体は設立当初からあり、1950年代には「海上公安局」という組織へ改編した上で「保安庁(防衛省の前身)」の隷下へ組み込むことが検討され、そのための法律まで制定されたが、海保内部の強い反対で凍結されてしまい、保安庁の「防衛庁」への改編とともに法律も(施行されないまま)廃止となった。

創設当初、同庁の英文表記は日本語を直訳した「Maritime Security Agency(マリタイム・セキュリティ・エージェンシー)(MSA)」となっていたが、外国の海事関係者から「海洋警察なのか海事サービス組織なのか判らない」という批判が多かったため、現在は上記の通り「Japan Coast Guard(JCG)」と改められている。

海上自衛隊との関係

上記にもあるように、有事において海保は海上自衛隊とともに行動できる、とされていたが、その関係は必ずしも良好とはいえない時代が長く続いていた。
これは設立当初の事情が多く作用していた、と言われている。

現在、海保が受け持っている種々の業務は第二次世界大戦の終結まで海軍が行っていたものであるが、大戦の終結に伴って軍隊が解体されたことでこれらの業務が行われなくなっており、その解決策として海保が設立されることとなった。
設立に当たって、主な人材供給源となるべき海軍は、主だった幹部(海軍兵学校出身者が主体)がGHQの指令により公職へ就くことを禁じられていたため、人材は海軍予備学生*3や 民間船舶業界の出身者を中心に構成されていた。
しかし彼らは、戦時中に通商保護をあまりにも軽視していた海軍により多くの犠牲を払わされた経験があり、後に設立された海自を「海軍の後身」として敬遠する感情が支配的であったという。
このため、同時期に就役している巡視船艇と自衛艦で全く同じ名前が使用されるなどの不具合が起きていた。

しかし近年では、海自・海保の双方で戦争経験者の退職による人材の世代交代がほぼ完了したことや、「不審船」事案など、共同行動を要する事態が頻発していることから徐々に改善が進んでいる。*4


*1 巡視船艇に機関銃などの武装が施されている法的根拠もこれである。なお、実際の使用に当たっては「警察官職務執行法」の規定の一部が準用される
*2 海上保安庁法第25条:この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。
*3 第二次世界大戦中、旧制大学や高等専門学校の学生の卒業を繰り上げた上、士官待遇で採用したもの
*4 もっとも、それ以前からも航空要員(パイロット)の養成訓練の一部が海自に委託されるなどの事例はあった。ちなみに、警察・消防のパイロット要員の養成は陸自、あるいは民間の養成機関に委託されるケースが多い。

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