【MP5】(えむぴーご)

ドイツのヘッケラー&コッホ社が開発した短機関銃

同社の自動小銃であるG3を小型化することによって設計された。また、G3との共通部品も各部に使用されている。
それまで多くの短機関銃が単純なオープンボルト機構によるストレートブローバック方式であったのに対し、この銃はローラーロッキング機構によるディレイドブローバックを採用した。
このため短機関銃としては発射する瞬間の振動が少なく、目標に狙って当てる事ができる命中精度を持ち、特にセミオート射撃では拳銃を上回る性能を持つ。
これにより、携行性と信頼性は高かったものの命中精度は低く、近距離で弾幕を張ることによる面制圧を目的とし、精度を重視しない火器だった当時の短機関銃とは一線を画す火器となっている。
その反面、ローラーロッキングは複雑でコストが高く、手入れも煩雑で故障の危険性も大きいなど、欠点も多い。

1966年に登場したMP5であったが、高性能ゆえに高価であったのに加え、それまでの一般的な短機関銃と比較して部品数が多いため綿密な整備が不可欠で、戦場などでは信頼性が低いのが難点とされた。
その上拳銃弾を撃つにはその命中精度はオーバースペックと揶揄され、製造当初は必ずしも高い評価はされずに登場当時の配備は西ドイツ警察や国境警備隊が中心となり、輸出もごく少数で永らく日の当らぬ存在であった。
しかしながら1977年のルフトハンザ機ハイジャック事件に於いてMP5とスタングレネードを装備した西ドイツの対テロ部隊、GSG9が僅か5分間で犯人を一方的に掃討して人質を全員救出するという、高い戦果をおさめた。
この成果によりスタングレネードと共にMP5の有用性が世界に知られ、先述の過剰性能と判断された評価も「精度を要求される、特殊部隊用短機関銃」と言う位置付けへと変化、短機関銃の新しいカテゴリーの始祖的存在となり、その地位を不動の物とした。
その後軍・警察を問わず世界中の特殊部隊に採用され、20世紀後半を代表する短機関銃となった。

基本的に9mmパラベラム弾を用いるが、一部10mmや40口径のタイプも存在する。が、10mmの普及が進まなかったことと.40S&W弾の使用を前提に設計されたUMP40?が開発・生産されたことを受け、どちらも2000年に生産・供給が終了している。

スペックデータ

口径9mm
全長550mm/700mm(ストック展開時)
銃身長225mm
重量3.08kg
使用弾薬9mmパラベラム弾
装弾数10,15,20,30発
作動方式クローズド・ボルト撃発、ローラー遅延式ブローバック
発射速度800発/分
銃口初速400m/s
有効射程200m

派生型

9mm×19弾モデル

  • HK54:
    原型モデル。ストレートタイプのマガジンを持つ。

  • MP5A:
    基本形。

    • MP5A1:
      折り畳みストック型。
      弾倉に湾曲形状(バナナマガジン)の新形状のものが導入された。
      ロアレシーバーは側面にリブ上のモールドのある形状となっており、セレクターの表示はそれぞれ「S, E, F」*1となっており、この型のロアレシーバーを持つモデルは「SEFトリガーグループ」と通称される*2

    • MP5A2:
      A1の固定ストック型。SEFトリガーグループ。

    • MP5SFA2:
      A2のシングルファイア・トリガーグループ仕様。
      全自動火器の装備を認められない法的執行機関向けに開発された。
      このタイプのモデルは「シングルファイアートリガーグループ」「FBIトリガーグループ」と通称される。

    • MP5A3:
      A1の改良型。
      スライドストック、銃身を「フローティング・バレル」化して命中精度を向上させた。
      SEFトリガーグループのモデルだが、後期生産型はA4と同じデザイン(点射機能はない)のロアフレームに変更されており、このタイプは「ネイビートリガー」と通称される。

    • MP5SFA3:
      A3のシングルファイア・トリガーグループ仕様。

    • MP5A4/A5:
      A2/A3のモデルチェンジ型。A5は伸縮銃床型。
      3バースト機構を搭載。

    • MP5N:
      アメリカ海軍(Navy)向けモデル。
      アメリカ海軍特殊部隊(SEALs)の発注により生産された。
      3点バースト機構を廃し、MP5K PDWと同じ大型のフラッシュハイダーを装備する。

    • MP5F:
      A5のフランス向けモデル。
      床尾板が大型化された、反動吸収性の高い新型の伸縮銃床が導入されている。

    • MP5J:
      MP5Fの日本警察仕様。
      3点バースト機構及びB&T社製マウントベースを搭載。
      大型のフラッシュハイダーを装備し、強装弾に対応する。

MP5Kシリーズ

  • MP5K:
    基本モデル。
    ボディガードなどの隠匿所持用に、全長を可能な限り切り詰めたもの。
    • MP5KA1:
      照準器を単純な門星型にして極限までコンパクト化したモデル。
    • MP5KA4:
      A4を基体に点射機構を追加した4モードのセレクターを装備した新型ロアフレームにしたモデル。
    • MP5KA5:
      KA4の簡易照準器モデル。KA1のA4準拠型。

  • MP5K PDW:
    アメリカ軍の要請で開発されたPDW用で、減炎器と折り畳みストックを備える。

  • MP5RAS:
    ナイツアーマメント社との共同開発モデル。
    ナイツ社のRAS(レイル・アタッチメント・システム)を搭載し、アクセサリーによる発展性を持たせた。

  • MP5K コッファー:
    MP5Kをアタッシュケースに偽装した専用ケースに収納したもの*3

  • PK3:
    パキスタンのPOFがMP5KにMP5A3と同じ伸縮ストックを付けたモデル。
    主にPDWとして使用される。MP5KPDWよりかさばらずコンパクトになっている。

MP5SDシリーズ

  • MP5SD:
    減音器を内蔵したモデル。
    • MP5SD1:
      ストックレス、MP5Kと同じスリングスイベル付底板を装着している。
    • MP5SD2:
      固定ストックモデル。
    • MP5SD3:
      折り畳みストックモデル。
    • MP5SD4:
      SD1のモデルチェンジ版。
      バーストモードが追加された新型ロアフレームを装備する。
    • MP5SD5:
      折り畳みストック、バーストモード追加。
    • MP5SD6:
      伸縮ストック、バーストモード追加。

HK94シリーズ

  • HK94:
    アメリカ市場向けスポーターモデル。

  • MP5SF:
    公的機関向け単射(Single Fire)モデル。
    銃身長及び銃床形状にいくつかのバリエーションを持つ。

  • SP89:
    MP5Kの民間向けモデル。

10mmオート弾モデル

  • MP5/10(MP10):
    10mmAuto弾を使用。
    プラスチック製マガジンを使用し、弾薬のサイズ*4に合わせ、マガジンが若干大きくなっているほか、連結用の留め具が成型されているので、器具を使わずにマガジンを連結することができる。
    また、G3系としては珍しくボルトストップが組み込まれている。

.40S&W弾モデル

  • MP5/40:
    .40S&W弾を使用。
    弾薬の径は10mmと同じだが、長さは9mm弾と同じ。それ以外の特徴はMP5/10から引き継いでいる。


*1 ドイツ語の"安全"(Sicher)、"単射"(Einzelfeuer)、"全自動射撃"(unbegrenzter Feuerstoß)の頭文字。
*2 なお、初期の生産型はセレクターの表示が0(安全位置)1(単射)A(連射)となっている。
*3 初期のものは収納状態のまま発砲する「仕込み銃」だったが、命中精度が悪いため、ケースから素早く取り出して撃てる仕様に改良された。
*4 9mm弾より径は1mm、長さは3mm大きい。

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