【塹壕戦】(ざんごうせん)

戦争において、当事国同士が戦場に長大な塹壕を築城し、互いに相手の塹壕を突破できずに長期に渡って戦線が膠着した状況。
俗に第一次世界大戦を指す。

これを引き起こしたのは、その10年前に起きた日露戦争の旅順要塞攻防戦における戦訓が基であった。

この戦いで、旅順要塞に籠もったロシア軍は、効率的な障害システムによる足止めと機関銃による猛烈な弾幕によって、乃木希典将軍率いる日本軍攻略部隊に大損害を与えた。
この時にロシア軍の採った布陣は、現代の基準で考えても歩兵による突破が不可能なものであり、有効な対抗戦術が確立されていなかった当時ではおよそ難攻不落以外の何物でもなかった。
参戦各国軍の将兵は、ことごとく塹壕線への無謀な突破行を試みては壊滅し、あるいは無謀だからと占領を試みずに間接砲撃だけを無意味に繰り返し、結果として史上空前の膨大な戦死傷者を生み出す事になった。

それから間もなくして、これを無力化できる新兵器――機関銃では破壊不可能な装甲を持つ「戦車」と、地形に左右されない機動力を持つ「爆撃機」が登場したことにより、塹壕戦は早くも短い歴史に終わりを告げることになる。
しかし、その短い歴史は間違いなく当時の「史上空前の惨劇」であり、「世界大戦」という異常事態を人類史最大の汚点として世界に知らしめたものである*1

その衝撃と畏怖がいかほどのものだったかは、その後の国際連盟?不戦条約の動きなどをみても明らかだろう。
いわゆる人権運動、平和主義は全て塹壕戦の惨禍に対する厭戦感情から始まったと見る向きさえある。

実際、その戦禍のあまりの恐ろしさゆえに当時の有識者達でさえ「欧州大戦を上回る戦争はもう二度と起こらないだろう」と予測していたほどだった。


*1 そのわずか四半世紀後、第二次世界大戦がすべての記録を塗り替えてしまったのだが。

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