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【燃料気化爆弾】 †
Fuel-Air Explosive Bomb.
揮発性及び引火性の高い液体(酸化エチレン・酸化プロピレン・ジメチルヒドラジンなど)を、爆薬によって瞬間的に加圧・沸騰させて空気中に散布し、適度な濃度で着火して爆風と衝撃波を発生させる爆弾。
また「サーモバリック爆弾(Thermobaric Bomb)」とも呼ばれるが、これは液体燃料の代わりに固体燃料を用いて小型化したものを指す場合が多い。
危害範囲はしばしば100mを越える広範囲に渡り、かつ比較的長く爆風が残留し、人間や非装甲目標に多大な被害を与える。
高熱と爆風・衝撃波による爆散・炭化を免れても高温高圧のガスが周囲に浸透し、内臓や精密機械を焼灼・圧壊させる*1。
気密扉などで防護されていれば生存の可能性は高いが、直接の被害を免れても大気中の酸素濃度が急激に低下すると共に一酸化炭素が充満し、生存者は窒息死の危険を伴う環境に取り残される事になる。
燃料気化爆弾を最も積極的に運用するアメリカ軍は「土中の地雷原や施設内に保管された兵器を無力化するための特殊爆弾」として運用しており、人体への殺傷力と残虐性はさほど評価していない。
これらの条件と、燃え残った燃料が土壌などを汚染する点から、戦時国際法における「不必要な苦痛を与える兵器」として廃絶運動の対象ともなっている。
対NBC防護が有効である事と、戦術核に次ぐ威力を持つ点から、一部の有識者に「貧者の核爆弾」とも称される。
この「威力」というのが何の事なのかは必ずしも明瞭ではないが、生身の人間にとって「常軌を逸した『威力』」なのは間違いない。
とはいえ現代では通常爆弾そのものが既に常軌を逸した威力であり、それらと比べて突出して危険なわけではなく、むしろ運用上多くの点で通常爆弾に劣る。
廃絶運動が行われているのは化学的な有害性と不必要な残虐性を伴うからであって、威力の凶悪さは論ずるに値しない。
ベトナム戦争でアメリカ軍が実用化し、それ以後湾岸戦争やイラク戦争でも使用されたと言われる。
その爆発を見たイラク兵のみならず、イギリスの特殊部隊「SAS」の隊員までもが核兵器と勘違いをした程である。
また、その後イラク軍の前線に「同じ爆弾を投下する」といったビラをまいたところ、大勢のイラク兵が投降したという逸話がある。
なお、BLU-82、通称デイジーカッターが燃料気化爆弾であるという情報が多々見られるが、BLU-82はあくまでも通常爆弾であり、燃料気化爆弾ではない。
おそらく、スラリー爆薬の原料中に燃料気化爆弾で使用されるものが含まれている事がこの誤解の原因だと思われる。
同様に信頼性の疑わしい風説には「粉塵爆発を利用したタイプも存在する*2」「湾岸戦争で死のハイウェイを作り出した原因である」などというものもある。
主なバリエーション †
- BLU-73/B 100lb型(クラスター爆弾用の子弾)
- BLU-95/B 500lb型
- BLU-96/B 2000lb型
- BLU-72「PAVE PAT I」2500lb型
- BLU-76「PAVE PAT II」2650lb型
*1 結果、例えば「外装は無傷に見えるが、電装系やエンジンが壊れた主力戦車」の中に「外傷はないが、肺腑を灼かれて窒息死したような死体」が転がっている、などといった惨状を呈する事になる。
*2 ただし、これに類似したものは近年になって「サーモバリック爆薬」として実用化されている。