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【中速中性子炉】 †
原子炉(核分裂炉)の一種で、減速材としてベリリウムを用いることにより中速中性子での核分裂をおこない、プルトニウムへの転換率を向上させたもの。
サイズの割に発熱量が大きく、また中性子を必要以上に減速させないようにするため、冷却材として液体金属(溶融金属)を用いる。
このため「溶融金属冷却原子炉」という別名を持つが、この場合広義には高速増殖炉等を含む。
原子力開発の初期から既に将来のウラニウム資源が枯渇すると予想されたが、減速材を用いない高速増殖炉は当時の技術では難しいと考えられたために開発された妥協的存在である。*1
また、加圧水型原子炉に比べて炉が小型なうえ冷却材循環用ポンプが静粛であり、より潜水艦に適しているとも考えられていた。
アメリカではジェネラルエレクトリックによって研究されており、アメリカ第二の原子力攻撃潜水艦であるシーウルフの動力源として搭載されたが、程なく冷却材のナトリウムが漏れ、被曝事故を起こしてしまった。
ナトリウムは軽量である一方、水に触れると爆発的に発熱する危険な物質でもある。
結局シーウルフの中速中性子炉は、就役から程なくして加圧水型原子炉へと交換されてしまった。
一方、ソ連では鉛-ビスマス合金を冷却材とする中速中性子炉を「アルファ」級原子力攻撃潜水艦に採用した。
こちらは実用化され、小さな炉で強大な出力を誇り、「追尾してくる魚雷を振り切る」といわれるほど驚異的な速度性能を発揮した。
しかし鉛-ビスマス合金は比重が重いうえ、放射能を帯びやすく厳重な放射線対策が必要になるなど、厄介な性質もある。
このため循環路を特別頑丈に造る必要があり、保守性も劣悪であった。
また溶融金属に共通する問題として、通常の金属に比べれば融点が低いものの、常温では凝結してしまうため、いったん炉を停止させてしまうと循環路全体に大きなダメージを与えてしまうという難点もあった。
アルファ級の場合は、後に循環路を外部ボイラーの熱で加熱することで炉心を停止させることができるようになった。
ただしこの方法は、炉心停止中は常に母港から熱供給を受け続ける必要があり不経済であった。
また航海中に炉心停止した場合、再始動できないことに変わりない。
その後、中速中性子炉は動力炉としての活路が見出されず、艦船用の原子炉としては、ライバルの加圧水型が主流となった。
また、転換炉としては高速増殖炉などのほうが有望視されており、実用を前提とした中速中性子炉の研究は途絶えている。*2