【誤射】(ごしゃ)

Friendly Fire.

銃火器ミサイル等の発射時に誤って味方を撃つ等、意志外の標的を攻撃してしまうこと。
爆撃で発生した場合は「誤爆」と言う。

厳密には、攻撃する意志があり、射手の認識や命中精度を原因とする場合のみを指す。
攻撃する意志なく操作ミスや機械的欠陥によって生じた場合は「不時発射」「暴発」と呼んで区別する。

誤射が発生する根源的原因には、これらが挙げられる。

  • 人間の心理
    「敵かもしれないが撃つな」という命令を実施した場合、自身やその周囲へ直接的な命の危険が放置されることとなる。
    一方で「敵ではないかもしれないが撃て」という命令の場合、味方であった場合は法律上の責任を負う事になるが、命の危険は確実に排除できる。
    よって、多くの兵士は前者の命令を無視し、未確認目標は誤射であったとしても攻撃する傾向にある。
    この性向は訓練・法律・社会道徳によって矯正されることとなっているが、兵士が自身やその周囲の者の生存を望む限り、完全には抑止できない*1

  • 条件反射
    脊髄反射で逃走・応戦する未確認の標的に対処する際、論理的判断を終えてから撃つのではほぼ間に合わない。
    このことから、大抵の射手は標的に似たものの正体を理解する前に、脊髄反射でまず撃ってしまう。
    十分な実戦軽減のある射手であっても、銃を構えた後から誤射を回避する事はほぼ不可能であり、むしろ熟練者ほど危険である*2

こうした事故を防ぐ技術として、「BRASS」という射撃手順が知られている。
深呼吸し(Breathe)、リラックスして(Relax)、構えて(Aim)、照準し(Sight)、引き金を引く(Squeeze)。
この一連の作業によって数秒の猶予を確保し、その間に状況認識を正し、条件反射での誤射を回避する。
……とはいえ、あらゆる状況でそれほど余裕ある射撃が行えるわけではないのだが。

  • 生理反応
    予期しない誤射の多くはこれによって発生する。
    人間は一般に強いストレス環境下では瞬発力や筋力が向上する反面、知覚認識に齟齬が生じる*3
    緊急時には視野狭窄による事実誤認や、触覚・身体感覚の鈍麻による不時発射などが多発する。

航空機・艦船における誤射

長距離での戦闘が主体となる近代的な航空機艦艇においては、標的の直接視認が困難な為に誤射の危険が大きかったが、近年、その多くは防止策としてマスターアームスイッチ敵味方識別装置等各種安全装置を装備している。
しかし、そういった装備が存在したとしても、陸上戦支援の場合にそのような装置はほとんど機能しない*4
このため、戦場における誤射・誤爆の大半は近接航空支援間接砲撃などの制圧射撃によって発生する。

一方、技術的に敵味方の識別をほとんど人間に頼らざるを得ない時代、航空機高射砲艦艇による誤射が多発した。

対抗策として、機体の一部をわざと目立つデザインに塗装して敵味方の識別を簡単にする、というものがあり、世界各国の空軍がこれを実施した。
有名な例として、ノルマンディー上陸作戦頃からヨーロッパの連合軍機の標準塗装となった「インベイジョン・ストライプ」がある。


*1 そもそもどの程度まで矯正すべきなのか、という倫理学上の問題についてはあえて言及を避ける。
*2 「撃ってはならないものを視界に捉えた瞬間に条件反射で射撃を中止する」技術を修めた超人的な射手が存在し得る事は否定しない。
  しかし、トップアスリートの世界でさえ反射的な判断ミスは起こり得る。ましてや一介の兵士や狩人となれば。

*3 脳のメカニズムに齟齬が生じる関係上、後から思い出した記憶についても多大な齟齬が生じ得る。
  このため、後日に軍法会議などで戦闘状況について問われた時「覚えていない」と主張したり、事実に反する証言を行う者は非常に多い。

*4 陸上戦は状況が複雑化して敵味方の区別が困難となることが多く、また敵の状況を事前に予測できない事も多いため、敵味方の識別によるタイムロスは誤射よりも戦況にとって致命的となり得る、と判断される。

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