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【スペースシャトル】 †
Space Shuttle.
アメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していた宇宙船。
任務ごとの使い捨てではなく、機体総重量の約90%が再利用可能となっている点が特徴だった。
人工衛星の打ち上げや衛星軌道上での学術実験、宇宙ステーションの建設及び人員・資材の搬送に用いられていた。
実験機の
このうちコロンビア号・チャレンジャー号は事故により喪失(後述)、他は運用寿命により2011年に退役したため、稼働状態のスペースシャトルは現存しない。
後継機としてロッキード・マーチン社のX-33?
現在も新たな後継機の開発は進められているが、見通しはまだ不透明である。
関連 オービター エンタープライズ NASA ブラン
略史 †
- 1960年代
- NASAが「再利用が可能な宇宙船」についての構想を計画。
- 1972年
- プロジェクトが始動。
- 1977年
- エンタープライズ号による滑空試験を開始。
- 1981年4月12日
- コロンビア号(STS-1)が打ち上げ成功。以降、本格的なミッションがスタートした。
- 1986年1月28日
- チャレンジャー号(STS-51L)が打ち上げの上昇中の事故により爆散。乗員は全員死亡。
- 1992年
- 最終号機「エンデバー」号がロールアウト*2。
- 2003年2月1日
- コロンビア号(STS-107)が大気圏?再突入時の事故により空中分解。乗員は全員死亡。
- 2011年3月
- ディスカバリー号が運用寿命を満了し、退役。
- 2011年5月
- エンデバー号が運用寿命を満了し、退役。
- 2011年7月
- アトランティス号が運用寿命を満了し、退役。
最後の一機が退役に至ったため、これをもって全プロジェクトが終了。
構造・性能 †
オービター1機、固体燃料ロケットブースター2基、外部燃料タンク1基で構成される。
オービターは100回*3、ブースターは10〜20回程度の再利用を想定して設計されているが、外部燃料タンクだけは使い捨てで、衛星軌道への上昇中に切り離され、大気との摩擦で燃え尽きる。
任務終了後、オービターは大気圏へ突入し、グライダーのように滑空・着陸が可能だったが、上昇用エンジンの燃料が外部燃料タンクからしか供給されないため、着陸後、単体での再離陸は不可能だった。
そのため、着陸後は専用の輸送機*4に載せ、発射地であるケネディ宇宙センター(フロリダ州・ケープカナベラル所在)に空輸されていた。
ただし、実際にはケネディ宇宙センターとカリフォルニア州・ロジャース乾湖のNASAドライデン飛行研究センター付属飛行場にしか着陸できなかった*5。
これは、大気圏再突入時の摩擦熱が設計時の想定を越えており、専用の強制冷却装置が必要になったためである*6。
理論上は滑走路と冷却装置さえ設置すれば着陸可能なのだが、上記二箇所の飛行場以外には設置されなかった。
また、機体の輸送コストが余分にかかるため、ドライデンへの着陸も忌避されており、プロジェクトの後期にはケネディ付近の天候が不順の場合、地球への帰還を出来る限り延期してケネディに着陸させるようにしていた。
構成 †
- オービター
- スペースシャトル・システムの核となる部分。大気圏への再突入が可能。
前部に乗員の生活・生命維持設備、中央に貨物室、後部にエンジン・飛行制御部品を配置。 - 外部燃料タンク(ET)
- オービターのエンジン用推進剤、液体酸素・液体水素が入っている。
打上げ9分後(高度約150km)に切り離され、唯一再利用されない部分。
発射台上でオービターとロケットブースターを繋ぐ役割も果たす。 - 固体ロケットブースター(SRB)
- 推力偏向装置を搭載。
外部燃料タンクに2本取り付けられ、打上げ2分後(高度約45km)に切り離される。
落下後回収され、再利用される。
発射台上ではボルトで固定され、発射の瞬間までスペースシャトル全体を支えている。
全長 | 全高 | 全幅 | 重量 | 推力 | |
オービター | 37.2m | 17.2m | 23.8m | 78〜79t | 170t(大気圏)/213t(真空) |
ET | 47.0m | - | 8.4m | 35t(自重)/720t(推進剤) | - |
SRB | 45.5m | - | 3.7m | 88t(自重)/502t(推進剤) | 1200t |
スペースシャトルの事故 †
チャレンジャー号(STS-51L)の事故 †
1986年1月28日、チャレンジャー号(STS-51L)が打ち上げの上昇中に爆発、乗員全員が死亡した。
推定される原因は、ロケットブースターのつなぎ目を密封するOリングの低温硬化であった。
これによって、隙間からガスが漏れ出してブースターの固定具が溶解し、不安定になったブースターが燃料タンクに突き刺さり爆発に至った。
当日の打ち上げ延期を求める現場の声もあったが、それを無視したNASAの管理体制を問題視された。
また、この事故の教訓から、大気圏内の事故を想定した緊急脱出装置が装備されることとなった*7。
そしてこれにより、スペースシャトルの安全性そのものに疑問が投げかけられ、爾後しばらくの間、人工衛星の打ち上げなど、宇宙へ物資を輸送する交通手段は従来の使い捨て式ロケットに回帰することになった*8。
コロンビア号(STS-107)の事故 †
2003年2月1日にコロンビア号(STS-107)が大気圏?再突入時に空中分解を起こし、乗員全員が死亡した。
推定される原因は、発射時に外部燃料タンクから脱落した断熱材の破片が衝突したこと。
これにより、左主翼の強化カーボン製パネルが損傷し、大気圏突入時にその断面から高温のプラズマが侵入し、左翼の構造材が溶解・強度低下したことにより空中分解に至った。
*1 この他、ほとんどのケースでカウントされないが、地上実物大模型の「パスファインダー」号も存在する。
*2 1986年の爆発事故で失われたチャレンジャーの補充代替として、ストックされていた予備部品をもとに建造された。
*3 実際には、1回のミッションを終えるごとに機体全体のオーバーホールが必須とされていた。
*4 Space Shuttle Carrier Aircraft=SCA。
ボーイング747-100(もとアメリカン航空)及び747SR(もと日本航空)を改造したもの。
*5 ケネディ付近の天候が悪化した際の代替着陸場として設定されていた。
なお、プロジェクトの開始当初は他の場所への着陸も検討されており、候補地の中には日本の嘉手納空軍基地もあった。
*6 強制冷却を行わないと、そのままでは耐熱タイルの帯びた熱が機体に移り、機体主構造を傷める恐れがあった。
*7 それまで、打ち上げ時・大気圏突入時の事故は想定されていなかった。
*8 ちなみに、現在運用中の国際宇宙ステーションへの人員・資材輸送にはロシアの「ソユーズ」や日本の「こうのとり」など、使い捨て式の宇宙船が使われている。