【エコノミークラス症候群】(えこのみーくらすしょうこうぐん)

旅客機エコノミークラスで多発した、循環器系急性疾患の一種。
医学における正式名称は「急性肺動脈血栓塞栓症(きゅうせいはいどうみゃくけっせんそくせんしょう)」。
「旅行者血栓症」「ロングフライト血栓症」などという別名もある。

本来、「症候群」とは原因が未解明の疾病を指す言葉であり、既に原因が解明されている疾病をこう呼ぶのは適切ではない。
とはいえ、患者や報道関係者に「急性肺動脈血栓塞栓症」という正式名称で説明して理解を得るのもいささか難しいものである。

通り名の通り、この症状は長距離国際線のエコノミークラスで最初に確認された。
とはいえ、ビジネスクラスファーストクラス、また鉄道や自動車でも発症し得る。
実際、トラックやタクシーなどの職業運転手や、車内で避難生活を送る災害被災者などが発症した例がある。

また、手足の衰えや中枢神経障害などで歩けなくなった場合にベッドの上で発症した例もある。
刑務所や精神病院などで危害行為者を拘束した場合にも発症する可能性がある。

直接の原因は、脚が圧迫される事による局所的な水分不足である。
水気の不足によって粘度を増した血液は固まって血栓を作り、血管に付着して血流を阻害する。
こうした血栓は脚が圧迫から解放された時に血管から剥がれ、肺動脈に詰まって循環系にダメージを与える。
それによって呼吸困難・胸焼け・動悸・冷や汗・血圧低下などの症状を呈し、最悪の場合は死に至る。

また、血栓が脳や心臓に流れついて脳梗塞や心筋梗塞を引き起こした事例も確認されている。

なお、災害や空爆に際し、瓦礫などで手足を挟まれて動けなくなった場合にも類似の症状を呈する(作用機序は異なる)。
特に重篤な場合は手足が完全に壊死し、塞がれていた血流が戻った途端に破壊された組織から流れ出たカリウムなどの影響でショック死する危険がある。
クラッシュ症候群」と呼ばれるそうした重篤な症例において、救助が遅れて壊死が始まってしまった場合手足を切断せずに命を救う方法は未だ知られていない。

「下半身を動かして体をほぐす」「適度に水分を取り、アルコールやカフェインの摂取を控える」などを心がける事で予防できるとされる。
従って、湿度の低い環境や除湿された室内、小さな座席に押し込められるような狭い乗り物では特に発症しやすい。
また、スポーツによる脚の故障、下肢の疾病、妊娠、経口避妊薬、肥満、喫煙後などは特にこの疾病を誘発する。

暗殺

上記の症候は、人為的に発症させる事が可能である。
暗殺における死因偽装の技術として、血栓症を誘発するような環境を構築して間接的に殺害する手法が知られている。
また、拉致・誘拐・監禁・医療に際して意図せぬ血栓症を引き起こして被害者を死なせてしまう可能性もある。

注射器で静脈に空気を送り込めば、それだけで人は血栓症に陥って死ぬ。
この事実は医師・看護師には必ず周知されている技術的前提であり、検死においても心疾患は事件性を疑うべき死因の一つに挙げられる。

もちろん、司法機関による捜査・検死を欺くのは計画的暗殺においても容易な事ではないが、不可能であるとも言い切れない。
腐敗・火災・生物捕食などによって遺体が激しく損壊した場合、死因を特定するのは著しく困難な場合がある。
また、政府機関による白色テロとしての暗殺では、医療機関や司法当局の職員が暗殺に加担している場合がある。

故に、著名人が血栓症で死亡した場合、公的に事件性が認められなかった場合でも、地域の政情や生前の来歴によっては暗殺を疑われる。
疑わしい事例全てが暗殺だと考えるのは偏執としか言いようがないが、未発覚の暗殺事件が存在しないとも考えにくい。


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