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【SA-2】 †
旧ソ連が開発した、初期の固定式中距離地対空ミサイル。
ロシア国内ではS-75「ドヴィナー*1」と呼ばれる。
NATOコードではSA-2「ガイドライン」と呼ばれ、日本ではこちらの方が有名である。
元々固定式として開発されたSA-2は、固定式発射機と移動式レーダー車・補給車・指揮車・電源車・通信車・整備車等で構成されている。
レーダー車は「スプーンレスト」早期警戒レーダー(中隊レベルで保有、探知範囲275km)と「サイドネット」探知・測高レーダー(連隊レベルで保有、探知距離180km)・「ファンソング」戦闘レーダー(中隊レベルで保有、最大6目標までの同時追尾でき、そのうち1目標との交戦が可能)の三種類が存在し、どれかが欠けた場合でも運用する事は出来ない。
その他レーダーとして、「ナイフレスト」警戒レーダー(初期のレーダー、「スプーンレスト」よりやや能力が劣る)・「フラットフェイス」警戒レーダー(探知範囲275km)がある。
運用方法は、まずスプーンレストとサイドネットが目標を捕捉・識別し、敵機と判断した場合、その情報(有線か無線で行なう)をファンソングと指揮車が承諾しミサイルを発射、初期誘導〜終端誘導まで全てUHF(極超短波)による指令誘導?で目標を追尾し近接信管で撃墜する「ビームライディング誘導」という方法である。
命中率はECM等の妨害が無ければかなり高いと言われているが、お世辞にもいいとは言えずCEPは70mを超える。
なおミサイルの最大速度はマッハ3.0、迎撃高度は最高で28,000m、最大射程は30〜50km、弾頭は159kgのHE破片効果弾頭を使用する。
実戦ではゲーリー・パワーズ事件で、当時撃墜不可能と言われたU-2を撃墜すると言う衝撃的なデビューを飾った。
その後、キューバ危機・ベトナム戦争・第三次中東戦争・第四次中東戦争・第二次印パ戦争?・湾岸戦争等に実戦投入され、イスラエル軍機やアメリカ軍機と壮絶な死闘を繰り広げ、「世界一多くの実戦を経験したSAM」、「史上最も多く発射されたSAM」と呼ばれた。
初期では勝っていたSA-2だがのちに航空機搭載の対SAM用ECMが登場すると命中率はたちまち低下。ベトナム戦争の例で言えば、命中率は2%となっている。
(このように高いバトルプルーフを得られたおかげか)輸出の方は好調で、中国・旧北ベトナム・アルバニア・シリア・エジプト・シリア・北朝鮮・イラク・旧ユーゴスラビア・ポーランド・キューバ・インド・リビア等に輸出され、中国(HQ-1・HQ-2)・イラク(V-75…旧ソ連の物とは別物)・エジプト(Sabah)インド等では独自の改良型を製作した。
また、中国では本ミサイルをベースにした地対地ミサイル型も開発されている。
現在は当時よりは数は少ないものの、まだまだ世界各地で使用されている。
関連:ゲーリー・パワーズ事件 地対空ミサイル SA-1?
スペックデータ †
全長 | 10.8m |
直径 | 50cm/65cm(ブースター) |
翼幅 | 1.7m/2.5m(ブースター) |
発射重量 | 2,287kg |
射程 | 6〜30km |
速度 | Mach3.5 |
飛行高度 | 100〜25,000m |
推進方式 | 2段式液体・固体推進 |
弾頭 | HE破片効果(159kg) |
誘導方式 | UHFによる指令誘導 |
各ミサイル諸元 †
型番 | 全長 | 直径 | ブースター 直径 | 発射重量 | 射程 (最小/最大) | 速度 | 射高 (最小/最大) | 弾頭 | 誘導方式 |
V-750/750V (S-75) | 10.6m | 50cm | 65cm | 2,287kg | 8km/30km | M3.5 | 3,000m/20,000m | HE破片 (195kg) | 指令 |
V-75VK/VN (S-75) | 10.8m | 50cm | 65cm | 2,287kg | 10km/34km | M4.0 | 500m/30,000m | HE破片 (195kg) | 指令 |
V-750M (S-75M) | 10.8m | 50cm | 65cm | 2,287kg | 9km/43km | M4.0 | 400m/30,000m | HE破片 (195kg) | 指令 |
V-750AK (S-75M) | 11.2m | 50cm | 65cm | 2,450kg | 7km/43km | M4.0 | 400m/30,000m | HE破片 (195kg) | 指令 |
V-750SM (S-75M) | 10.8m | 50cm | 65cm | 2,450kg | 7km/43km | M4.5 | 400m/30,000m | HE破片 (295kg) 核弾頭 (15kT) | 指令 |
主な種類 †
- S-75「ドヴィナー」(SA-2):
量産型。
ファンソングAレーダー(探査範囲60km)を使用し、ミサイルはV-750もしくはV-750Vを使用する。
- S-75M-2「ヴォールホフ*2M」(SA-N-2A):
艦対空ミサイル型。
1960年代にスヴェルドロフ級巡洋艦「ジェルジンスキー」に載せてテストが行われたが、重量過大と判断され採用には至らなかった。
- S-75「デスナー*3」(SA-2B);
1959年より配備の始まったタイプ。
レーダーはファンソングB(探査範囲60km)を使用し、ミサイルはV-750VKもしくはV-750VNを使用する。
ミサイルは全長10.8mとやや長くなり、より強力なブースターを搭載しているため、射程はより長くなり、射高は500〜30,000mとなっている。
- S-75M「ヴォールホフ(SA-N-2Aと同じ)」(SA-2C) :
1961年より配備の始まったタイプ。
レーダーはファンソング(探査範囲75km)を使用する。
ミサイルは最大射程が43kmまで伸び、最低射高は400mとより低くなった。
- SA-2D:
ECCM能力を高めたファンソングEレーダー(探査範囲75km)を使用する型。
ミサイルはV-750SMを使用する。
V-750SMは、これまでのタイプと異なる位置に誘導指令受信アンテナがあり、気圧測定に用いるノーズプローブはより長くなっている。
また、飛行持続用のモーター・ケーシングもやや異なるほか、重量が2,450kgに増加している。射程は4〜43km、射高は250〜25,000mになっている。
- SA-2E:
D型と同じくファンソングEレーダーを使用する型。
ミサイルはV-750AKで、ロケットはD型とほぼ同じだが、前部フィンが消失し全長が11.2mに延長され、弾頭は球根上のずんぐりした形状になっている。
また、炸裂時の危害半径を増大させるため、弾頭は15ktの核または295kgHEの2者を選択できる。
- SA-2F:
前年に勃発した第三次中東戦争でS-75が無力化されたのを見たソ連が1968年より開発を始めたタイプで、 新型のファンソングFレーダー(探査範囲60km)を使用する。
ミサイルはV-750SMで、ECCM能力を高めたほか、誘導方式も変更され、敵の警戒レーダーによる探知を防ぐことができる。
ジャミングがあまりに激しい場合にはカメラによる目視誘導を行う。
- S-75M「ヴォルガ*4」:
1995年より使用された最終バージョン。
- 紅旗1(HQ-1):
中国のライセンス生産型。少数配備。
- 紅旗2(HQ-2):
HQ-1の改良型。ECCM能力を高めている。
- Sayyad-1:
紅旗2のイランでのライセンス生産型。
- Sayyad-1:
- 東風7(CSS-8):
中国が紅旗2をベースに開発した地対地ミサイル(短距離弾道ミサイル)。
射程150km、弾頭には榴弾または科学弾頭を用いる。輸出型はM-7と呼ばれる。
- Tondar69:
M-7のイランでの名称。
- Tondar69:
- V-75:
イラク仕様の改良型。
- Sabah:
エジプト仕様の改良型。
*1 Двина:ロシア北部を流れる同名の川の名前から。
*2 Волхов:ロシア北西部を流れる同名の川の名前から。
*3 Десна:ロシアからウクライナへ流れる同名の川の名前から。
*4 Волга:ロシア北部を流れる同名の川の名前から。