Last-modified: 2023-11-12 (日) 18:17:32 (167d)

【鹵獲】(ろかく)

戦場において、商取引なしに物資や兵器などを入手する事。
捕虜から没収する場合と、死体から漁る場合と、撤退時に放棄された物資を回収する場合がある。

鹵獲される物資の大半は食料・弾薬・歩兵の個人装備などといった雑多な消耗品である。
戦車などの兵器は戦闘によって破壊されるため、兵器が稼動状態のまま鹵獲されるのは比較的珍しい。
陸戦では占領した基地の在庫が最も多く、捕虜の武装解除時に没収する装備がその次に多い。

戦場に落ちている来歴不明の物資を回収する事もあったが、これは近年避けられるようになった。
物資をデコイに使って路肩爆弾地雷を仕掛ける事例が多発しているためである。

鹵獲兵器として最も代表的なのは海戦で拿捕された艦艇である。
しかし、軍艦は沈没が確定する(自沈させる)まで降伏しないのが通例であり、実際に拿捕される艦は多くない。

墜落した航空機はほぼ確実に大破するため、空戦によって何かを鹵獲する事はまずない。
歩兵航空基地を占領する場合も、軍用機は事前に離陸撤退したり、機密保持のため爆破・焼却される事が多い。

鹵獲された兵器は保管・検証した後、自軍の資産として必要とする場所に移送される。
鹵獲品に何らかの工学的疑問点があればリバースエンジニアリングを行うために後送される。
全く利用価値がなければ前線で破壊・放棄されるか、後送した後に倉庫での死蔵を経て用途廃棄される。
今日、我々が博物館などで目にする旧時代の兵器の多くも、軍から譲渡された鹵獲品である。

自国の工業規格・制式との差異が兵站戦術における支障となるため、敵国の兵器をそのまま自軍で使用する事は忌避される。
とはいえ、自軍の制式に沿った兵器の供給が不十分な場合、新造品が補充されるまでの埋め合わせとして鹵獲兵器が運用される事は多い。
元より自国では生産できない兵器なので鹵獲品でも問題ない(買い付けた兵器でも鹵獲した兵器でも大差ない)という場合もある。

戦争犯罪としての鹵獲

戦時国際法では鹵獲しても良い物資を敵国の国有財産のみに限定している。
また、これを鹵獲する権利も国家の軍隊に対してのみ認めている。
従って、一般市民に対する掠奪行為や鹵獲品の横領は戦争犯罪である。

とはいえ、戦時国際法の例に漏れず、この原則は実際の戦場においてしばしば黙殺される。
特に消耗品は戦場での監査に不備が生じやすく、後から入手経路を追跡調査するのも困難である。
もしもその事実が発覚すれば軍法会議の対象となるが、憲兵が鹵獲品の明細を完全に把握するのは不可能である。

近代軍隊の兵士が蛮行に走るのは利敵行為であり、統制が維持されている限り許されない。
逆説的に、そのような事案が「あり得る」ほどに錯綜した戦況における真相究明は非常に困難である。
また、スパイによる攪乱工作、反戦団体によるプロパガンダ、賠償目当ての訴訟詐欺など事実無根である可能性も否定できない。
もちろん、実際に起きていた惨事を軍や政府が組織的に隠蔽する場合もある。

例えば、ある兵士が支給品以外の食べ物や服、銃などを所持していたとする。
この場合、その物資の入手経路としては以下のようなものが考えられる。
以下のいずれであるかは必ずしも問われないし、入手した事実そのものも報告されない事が多い。

  • 出納記録に不備のある支給品
    • 関係者のKIAMIA後送などに伴って事務的ミスが生じた場合
    • 横領・横流し品
  • 兵士個人が自宅から持ってきた私物
  • 兵士個人の家族・友人が送ってきた差し入れ品
  • 匿名の国民・市民団体から軍に寄贈され、分配を受けた慰問品
  • 戦場の片隅に放置されていた物品(デコイでも路肩爆弾でもなかった場合)
  • 戦死者の遺品
    • 儀礼的な遺品分配の手続きを取って譲渡された場合
    • 身元不明の遺体から無断で剥ぎ取られた場合
  • 作戦上の都合などで他の部隊から融通された物資
  • 基地内の酒保で購入したもの
  • 現地住民から軍票や現地通貨で購入したもの
  • 戦時の混乱に乗じた窃盗
  • 部隊単位で現地の村落や避難所を襲撃し、老若男女問わず皆殺しにした上での「戦利品」

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