Last-modified: 2023-08-10 (木) 02:16:33 (261d)

【良心的兵役忌避】(りょうしんてきへいえききひ)

Conscientious objection(英).

国民が個人的かつ正当な理由で法律上の義務を拒否する事。
「正当」とは行政・司法において正当な手続きを踏んで拒否する事を意味し、倫理思想上の正当性を意味しない。

原義ではあらゆる法的義務に適用されるが、日本語訳では軍事的文脈に限定されている(反戦運動家が語彙を濫用した形跡がある)。
とはいえ、実情として大半の事例が徴兵制に対する拒否で占められているのも統計的事実ではある。

徴兵拒否

徴兵制は個人(この場合、それまで私兵を囲っていた有力者)の意志を無視して強制的に兵員を供出させるための制度である。
兵役が望ましいものか否かは元々の経済状況で異なるが、兵士より豊かな層が兵役を拒否するための努力を尽くしてきたのは万国共通の傾向である。

ところで、正当な理由もなく義務を拒否する者が反逆者として処罰・差別されるのは制度上避けられない。
従って、兵役拒否者は古くから教養の限りを尽くして自己正当化の努力を続けてきた。
自称される動機として最も多いのは宗教的な信念、特に殺人への嫌悪であるという(ただし、これは歴史的に異端・邪宗ないし個人の悪徳と見られてきた)。
民族や思想上の理由から「差別的な人々」との共同生活に耐えられない、として兵役を拒否する人々もいる。
また、政府の外交・軍事政策に対する批判や哲学的な信念などの表明として兵役忌避を行う者もいる。

何を言い繕おうとも結局はお前個人が死にたくないだけだろう、というのが一般的な社会的偏見であり、これを論駁できた例はほとんどない。
現代においても「良心」「正当」とは兵役忌避を歓迎する人々の阿諛であって、思想哲学として考えるなら特に良心的とも倫理的に正当とも言えない。
義務を拒否するためにクーデターを企てて紛争内戦・圧政を引き起こすという本末転倒な事例も歴史上散見される。

何をもって正当とするのか、という法的な規定は国によって異なる。
良心的兵役忌避に関する規定がなく、徴兵拒否を全て敵前逃亡として扱い死刑・終身刑を宣告する国家もある。
法的処罰が軽微な国であっても「前科者」「臆病者」として著しく不名誉な扱いを受け、差別により行政処理・地域交際・就職・結婚に支障が生じる事も珍しくない。
宗教団体などによる組織的な兵役拒否は、属する組織自体が何らかの法的な制裁を受ける事になる。

一方、徴兵を拒否しつつ自発的・能動的に社会奉仕活動を行った宗教団体・徴兵拒否者支援団体もある。
そうした集団は「敬意に価する例外」としての立場を勝ちとり、良心的兵役忌避の制度を作る中核ともなった。
社会的有力者たちが我が子を兵役から逃れさせるための陰謀の駒として利用したという考え方もできる。

兵役拒否が「良心的」に行われうる、という政治思想は20世紀末から制度として具体化した。
今日では欧州諸国を中心に、基本的人権の一部である「良心の自由」に基づいて兵役拒否を認める国も出てきている。
ただしこれは政情の安定した地域のみに限られた傾向で、紛争地帯においては全く顧みられていない。

「政情が安定すると軍政は失権する」というのは歴史的によくある傾向で、その逆もまたよくある傾向である。
良心的兵役忌避も含めて、近年の平和主義は戦乱の時代が訪れたら御破算となる可能性が高い。

なお、徴兵制を敷く国家における兵役は憲法に明記された国民の義務である場合が多い。
その場合、兵役忌避の法的処理は「法的には兵役に従事したものとみなせる」ものでなければならない。
これは普通、兵役の代替措置として政府が定めた事業に従事し、一定期間の労働を行う事を意味する。
兵役の代替に何が行われるかは国によって異なるが、以下のような事業が一般的。

  • 高齢者介護などの社会福祉事業
  • 環境保護事業
  • 消防・防災活動
  • その他、各種行政サービスに関する労役
  • スポーツの国際競技会、およびそのために必要な試合・練習
    • 国家代表選手およびその候補生が、技量維持と競技会出場を理由として兵役を拒否する
    • 軍の内部に競技会のためだけのスポーツ部隊が用意されていて、軍属として競技に出場する

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