Last-modified: 2023-11-12 (日) 13:51:51 (167d)

【民間軍事会社】(みんかんぐんじがいしゃ)

Private Military and Security Company(PMSC)
Private Military Company / Private Military Contractor(PMC)
Private Military Firm(PFM)
Private Security Company / Private Security Contractor(PSC)

表記が一定しないのは法的なグレーゾーンに属し、制度的標準化が困難であるという事情に因る。

軍事的な人員・サービスを提供する企業。
事実上は「組織化された傭兵の集団」であるが、傭兵は国際的に非合法であり、法的には警備会社・人材派遣会社・民兵組織などの名目を掲げる事が多い。
独立採算制を採って複数の顧客と契約を結ぶ場合もあれば、専属の子会社・下請けとして活動する(企業やマフィアが私兵を擁している)場合もある。

国家総力戦思想の広まりと、それに立脚した国民皆兵制度の確立によって地位の低下した傭兵組織が、政府の警察力が機能しない地域に業務の中核を移したのが始まりと言われる。
列強各国の資本家が植民地から富を吸い上げる過程ではどうしても軍事力・警察力が必要となり、それはしばしば民間軍事会社によって賄われていた。
例えば南北アメリカやアフリカに置かれた農園・鉱山・油田、外洋交易船などは近年まで(場合によっては現代でも)事実上の無法地帯であり、財産を保護するために傭兵が必要であった。

植民地開拓においては、先住民に対する強盗殺人などを行う者が後を絶たなかったが、その際の実働兵力も多くは傭兵によって提供されている。

「米ソ冷戦の終結前後、軍縮と地域間紛争の頻発に伴って出現した」と見る向きもあるが、これは必ずしも正しくない。
実際にそのような経緯で設立された民間軍事会社も皆無ではないが、それら新興企業による供給を受け入れるだけの需要と市場はその時点ですでに存在していた。
かつての植民地が独立・近代化して傭兵の需要が縮小し、民間軍事業界が転換期を迎えたために諸問題が表面化したものと見るべきだろう。

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典型的な業務形態

多くの民間軍事会社は退役した高級軍人が中核となって設立される。
ただし、正規軍の経歴を必須とするような高度技能職を除けば、ほとんどの業務は現地で雇用・訓練された民兵レベルの人員によって行われる。
大規模な企業、特に歩兵部隊を擁する企業の全職員を退役軍人から調達するのは不可能である。

従って、現地の民兵組織と民間軍事会社はしばしば区別が付かない。
軍事力を維持するコストを誰かが支払わなければならない以上、庇護や護衛に際して報酬を要求せず、スポンサーの意向を真っ向から無視するような民兵組織は存在し得ない。
また、準軍事組織に属する個人は支給される給与によって生活を営んでおり、組織全体の意向がどこにあろうと金銭目当てで行動する可能性が常にある。
よって、組織に属する個人や一部署が営利目的で活動する事は、その組織が傭兵である事を意味しないのである。
それが、民間軍事会社が「我々は傭兵ではない」と主張する根拠である。

また、民間軍事会社の全てが軍事作戦に直接関与するわけでもない。
補給・輸送・兵器整備などの兵站業務のみを行うもの、訓練教官や参謀を派遣するだけの業態も見られる。
特に零細な企業では、需要のある業務全てを包括的に行うことなど不可能なため、特定の業務のみに特化する企業はさして珍しいものではない。

比較的身近な例としては、紛争地域に赴く先進国の人間、例えばNPO団体やTVクルーなどの身辺警護も民間軍事会社の代表的な業務である。
また、アメリカ国務省では、紛争地域に派遣される職員の護衛に軍人を割けないことを理由に、民間軍事会社の社員を必要に応じて雇い入れている。

現実問題として、そのような人々が職業軍人なり傭兵なりの力を借りずに目的を達して生還するのは不可能に近い。

法的・倫理的問題

民間軍事会社を雇う主な利点は、「正規軍を正規の作戦行動として派遣できない場合でも軍事的支援を要請できる」という点にある。
そして、不正規な軍事行動はほとんどあらゆる場合に政治問題の種となる。
民間軍事会社は根本的には傭兵であり、歴史的に傭兵が差別され排除されてきた事由は全て民間軍事会社にも当てはまる。

最も根本的な問題として、民間軍事会社は戦時国際法において非合法戦闘員とみなされる。
酒に酔って現地人と喧嘩して軽傷を負わせた場合から、敵中に孤立した職員を見捨てる場合まで、政治的管制の不在はあらゆる戦争犯罪を助長する。
加えて、民間の労働契約以外に任務に就く上での強制力がないため、倫理的に見て敵前逃亡としか言いようのない状況でも契約破棄が発生し得る。

また、民間軍事会社は退役軍人に軍事的キャリアを活かせる就職先を提供するが、そうした転職先の存在は、当然ながら正規軍からの退役・転職を促進する。
人材を厚遇できない腐敗した組織から人材が流出するのは当然の経済的帰結だが、国防のための公的組織を”自由経済”の渦中に置いてよいものかは議論の余地がある。

主な民間軍事会社

  • アメリカ
    • ATAC
    • ダインコープ・インターナショナル
    • ドラケン・インターナショナル
    • コンステリス・ホールディングス(旧トリプル・キャノピー)
    • Academi(旧ブラックウォーターUSA

  • ロシア
    • スラヴ軍団
    • ワグナー・グループ(ワグネル)

  • イギリス
    • G4S
    • イージス・ディフェンス・サービシーズ
    • アーマー・グループ
    • エリニュス・インターナショナル
    • サンドライン・インターナショナル(解散)

  • 南アフリカ

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