【彩雲】 †
中島 C6N「彩雲*1」。
第二次世界大戦中の1940年代、日本の中島飛行機製作所（現在のSUBARU）が開発し、日本海軍に納入された艦上偵察機。
アメリカ軍によるコードネームは「
また、第二次世界大戦世代の機体としては唯一の「航空母艦から運用される（純然たる）偵察機」でもあった。
それまで、日本海軍では艦隊における前方海面の偵察には水上機や飛行艇・陸上攻撃機*2が、航空母艦を擁する艦隊では艦上攻撃機が偵察機の役割を兼務するのが普通であった。
とはいえ、艦上偵察機が作られなかったわけではなく、大正時代には「一〇式艦上偵察機（C1M）」、昭和時代には「九七式艦上偵察機（C3N）」が製作されたこともあったが、それぞれ「一三式艦上攻撃機（B1M）」「九七式艦上攻撃機（B5N/B5M）」で代替された*3ため大量生産されなかった。
しかし、作戦海域が広大になるにつれて、航空母艦から発進して高速偵察を行える（専任の）艦上偵察機が必要となり*4、1942年のミッドウェー海戦では艦上爆撃機として試作されていた彗星を「二式艦上偵察機」として採用するとともに、中島飛行機で「N-50」として試製が予定されていた機体を「十七試艦上偵察機」として発注することにした。
これにこたえ、中島は1942年6月から試作に着手。
1943年に完成した試作機は速度性能を満たせなかったため、エンジンを改良するとともに層流翼などを取り入れた改良型は試験飛行時に639km/hの速度を記録し、当時の日本海軍航空機の中では最高速度を記録した。
1944年半ばに「艦上偵察機『彩雲』」として制式採用されたが、そのころには海軍の空母運用方針が変更されていたため、陸上基地から運用する偵察機として用いられた。
デビュー当初、メジュロ環礁やウルシー環礁、サイパン島などへの偵察に出向いた際、本機がその高速性を生かして迎撃してきたF6Fを振り切った際に打電したとされる「我に追いつくグラマンなし」*5という電文は有名である。
本来の用途である艦載機として挙げた戦果はないが、本機は戦争末期のマリアナ諸島東方や房総半島南方海域の哨戒に活躍している。
また、本機は高高度性能もよかったため、B-29迎撃用に斜め銃を搭載した機体も作られた。
末期には本機の高速性能を生かした特攻機としての運用が考えられ、運用部隊として第723海軍航空隊が編成されたが、終戦により実施されなかった。
なお、爆装状態では時速500km/hを出すのが精一杯だったと言われ、運動性も大きく下がり本機の高速性能を生かせなかった。
1945年8月の終戦時、本機は173機が本土に残存していた。
これは総生産数398機の半数近い値である。
現在では夜間戦闘機型（C6N1-S）*6がアメリカ・国立航空宇宙博物館に保存されている。
日本ではミクロネシア・ウエノ島で回収した残骸が、河口湖自動車博物館・飛行館に保存されている他、エンジンのカウリング部分が愛知県半田市の部品メーカー・輸送機工業*7で保存されている。
スペックデータ †
| 乗員 | 3名 |
| 全長 | 11m |
| 全高 | 3.96m |
| 翼幅 | 12.5m |
| 翼面積 | 25.5�� |
| 翼型 | root：K151、tip：K159 |
| 空虚重量 | 2,968kg |
| 総重量 | 4,500kg |
| 最大離陸重量 | 5,260kg |
| 発動機 | 中島 誉一一型空冷星型18気筒×1基（出力：1,991馬力/1,485kW） |
| プロペラ | ハミルトン定速3枚翅 |
| 最高速度 | 610km/h（高度6,100m） |
| 巡航速度 | 390km/h |
| フェリー航続距離 | 5,300km（補助タンク付き） |
| 上昇限度 | 10,470m |
| 上昇力 | 6,000mまで8分9秒 |
| 翼面荷重 | 176kg/�� |
| パワー/マス | 0.33kW/kg |
| 武装 | 一式7.92mm機関銃*8×1挺（後方旋回） |
バリエーション †
- 十七試艦上偵察機/試製彩雲（C6N1）：
プロトタイプ。
プロペラは初期型は4枚翅だが、後期型は3枚翅のものが装備された。
エンジンは誉ニ二型を搭載（試作6号機は誉二一型を搭載）。
- 彩雲一一型（C6N1）：
量産型。誉二一型（公称1,825馬力）発動機を搭載。
- 彩雲二一型（C6N1-B）：
雷撃機への転用型。計画のみ。
- 彩雲一一型（夜間戦闘機型）（C6N1）：
夜間戦闘機への改造型。
斜銃として五式30mm機関砲×1門を搭載した型と九九式20mm機関砲×2門を搭載した型があった。
- 試製彩雲改/彩雲一二型（C6N2）：
4枚翅プロペラ、誉二四ル型発動機（1,980馬力）を搭載した試作機。
- 試製彩雲改一（C6N3）：
高高度夜間戦闘機型。20mm連装機関砲を装備。計画のみ。
- 試製彩雲改二（C6N4）：
排気タービン付の三菱 ハ43一一ル型発動機（2,200馬力）搭載型。
- 試製彩雲改三（C6N5）：
雷撃機への転用型。提案のみ。
- 試製彩雲改四（C6N6）：
機体を全木製化した型。計画のみ。部分木製化の計画もあった。
*1 虹色に輝く雲を意味する吉兆天象の事。瑞雲?（ずいうん）、慶雲・景雲?（けいうん）、紫雲?（しうん）とも。
*2 この他、陸軍の九七式司令部偵察機の海軍型である「九八式陸上偵察機」も少数投入された。
*3 これは、航空母艦の狭い格納庫スペースを有効活用するという理由では妥当な判断でもあった。
*4 艦上攻撃機には（敵目標発見後の戦闘に備えて）爆弾や航空魚雷を搭載するため、その分、速度が犠牲になっていた（当時の日本には、非力な1000馬力級エンジンしかなかった）。
*5 「我に追いつく敵機なし」とも。
*6 終戦後、技術的評価のために日本からアメリカに送られた145機の1機。
*7 富士重工業の子会社。かつては中島飛行機の半田製作所であった。
*8 ラインメタル?MG15? 7.92mm機関銃のライセンス生産型。
