Last-modified: 2023-11-11 (土) 10:37:35 (168d)

【高射砲】(こうしゃほう)

Anti-aircraft gun, AA gun / FLAK

航空機などの飛翔体を地上・水上から撃墜するための火砲の分類。「高角砲」とも。
対空砲」との区別は不明瞭だが、おおむね高高度への曳下射撃が可能なものだけを指して「高射砲(FLAK)」とする。

その性質上、機動力航空機に著しく劣るため、主に防勢対航空作戦における敵機の迎撃を主任務とする。

砲の構造そのものは速射砲機関砲ガトリングガンのいずれかである場合が多い。
砲弾には主に榴弾焼夷弾を用いる。徹甲弾は効能が低いため用いられない(標的が総じて高速・脆弱であるため)。
種類によっては時限信管近接信管を用いた曳下射撃を実施、直接の命中によらず目標に損傷を与える。

戦果報告では翼やエンジン、操縦系統などを損傷して機械的故障を誘発した事例が多い。
また、操縦席を破壊して操縦士が死傷した例もある。

関連:機関砲 速射砲 FLAK AAA MIRACL CIWS

高射砲の発達史

初期の高射砲は、砲弾の起爆装置に時限信管を採用していた(榴散弾)。
これは敵機の針路・高度対地速度などを事前に計算し、指定した時期・位置で爆発させるものである。
当初はこの方式でも相応の戦果を挙げたものの、肉眼での測定と手動の弾道計算では精度の限界があった。

後年、レーダー近接信管サイバネティックスの発達によって命中精度は格段に向上した。
現代の高射砲火器管制装置は、有効射程内であれば近接信管を用いず徹甲弾を直撃させる事さえ可能とされる。
しかし、同様の技術はミサイルにも活用されており、命中精度・有効射程ともに地対空ミサイルには及ぶべくもない。

現代戦においては、地対空ミサイル戦闘機による迎撃を期待できなくなった危機的状況に備えて配備される。
防御的局面では脅威度の高い設備ほど優先的に攻撃を受けるため、レーダーSAM飛行場が無力化された状態での戦闘も発生し得る。

例えば、地対空ミサイル部隊は自身が航空攻撃を受けた時の防御用にCIWS搭載車両が随伴する。
同様に、空母航空基地イージス艦などにも近接防御システムとしての搭載が求められる。

対地・対水上火器としての活路

高射砲は本質的に機関砲速射砲の一種であり、独自の構造はそれほど要求されない。
よって、運用における目標は航空機のみに限られず、状況とその構造によっては地上や水上への攻撃も十分可能である。
実際に、その用法によって多数の車両・施設艦艇兵士を撃破した事例は戦史上に数多く有り、その有効性は証明されている。

野砲の代用として

第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけて、高射砲は野砲歩兵砲対戦車砲の代用として広く用いられた。

高射砲は自走砲の形態をとるものが多く、歩兵による撃退は極めて困難であった。
また、当時の高射砲の性能要件は戦車の主砲に匹敵するもので、ほぼ全ての陸上目標に対して有効な間接砲撃を期待できた。
そうした間接砲撃は当時の戦争の主要な死因のひとつであり、兵士から大いに恐れられた。

高射砲はハーグ陸戦条約に定められた「過度の傷害・無用な苦痛を与える兵器」に該当するものとされる。
よって、他に攻撃手段を持っている場合に高射砲を直接人間に照準・発砲する事は禁止されている。
そしてもちろん、この規定は「高射砲よりも強力かつ有効な兵器」を投入できる時にしか遵守されなかった。

また、局地的には山岳戦における重大な示唆も報告されている。

山岳においてのゲリラ戦では、しばしば崖の上からのアンブッシュが選択される。
戦車などの砲塔は、ふつう真上に撃てるようには設計されていない。
野戦砲兵もまた、そのような場所にいる敵に向かって撃つような訓練は受けていない。
従って、真上に近い角度からの奇襲は比較的安全なのだ――そこに高射砲とそれを操る高射砲兵がいなければの話だが。

艦載砲として

陸軍と同様、海軍でも高射砲を様々な用途に活用する試みが行われてきた。

大艦巨砲主義の時代の想定では、高射砲は十分な破壊力を持つ兵器とはみなされていなかった。
それでも、駆逐艦フリゲート程度の薄い装甲であれば貫通し、損傷を与えうる性能はあった。
また、浮上中の潜水艦を損傷させて潜水不能に陥れて無力化する事もできた(当時の潜水艦は酸素貯蔵量と電池寿命の限界から頻繁に浮上していた)。
さらに、一門で小型艦艇にも航空機にも対応できる汎用性はペイロードの限られる小型艦艇の艤装として適していた。

こうしたことから、駆逐艦フリゲート河用砲艦潜水艦などの小型艦は高射砲を主砲とする事が多かった。
また、敵艦との直接戦闘を考慮しない航空母艦輸送艦・測量艦・工作艦・徴用商船などの自衛用火器にももっぱら高射砲が採用された。

これは後に両用砲へと発展的解消を遂げ、現代では水上戦闘艦艇の標準的な艦載砲になっている。
レーダー艦載機対艦ミサイルの発達により、大口径の艦載砲は不要になったためである。

主な高射砲の一覧

  • アメリカ
    • M3(M1918)3インチ高射砲
    • M1 90mm高射砲
    • M1 120mm高射砲
    • M51 75mm高射砲
  • ソビエト連邦/ロシア
    • M1931 76.2mm高射砲
    • M1938 76.2mm高射砲
    • M1939(52-K)85mm高射砲
    • M1944 85mm高射砲
  • イギリス
    • QF 3インチ20cwt高射砲
    • QF 3.7インチ高射砲
  • フランス
    • M1922〜1944・M1927 75mm高角砲
    • M1926 90mm高角砲
    • M1930 100mm高角砲
    • M1945 100mm高角砲
  • イタリア
    • M1934 75mm高射砲
    • M1935 75mm高射砲
    • M39/41 90mm高射砲
  • ドイツ
    • 7.5cm FlaK
    • 8.8cm FlaK18/36/37
    • 8.8cm FlaK41
    • 10.5cm FlaK38/39
    • 12.8cm FlaK40
    • 12.8cm FlaK40 Zwilling
  • 日本
    • 陸軍(高射砲)
      • 五式15cm高射砲
      • 四式7.5cm高射砲
      • 三式12cm高射砲
      • 九九式8cm高射砲
      • 八八式7.5cm野戦高射砲
      • 十四年式10cm高射砲
      • 十一年式7.5cm野戦高射砲
    • 海軍(高角砲)
      • 40口径三年式8cm単装高角砲
      • 五年式短8cm砲
      • 40口径十一年式8cm単装高角砲
      • 60口径九八式8cm高角砲(長8サンチ高角砲)
      • 50口径八八式10cm高角砲
      • 65口径九八式10cm高角砲(長10サンチ高角砲)
      • 45口径十年式12cm高角砲
      • 40口径八九式12.7cm高角砲(12.7サンチ高角砲)
      • 短十二糎砲
      • 短二十糎砲

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