Last-modified: 2023-08-16 (水) 18:47:22 (254d)

【海賊】(かいぞく)

Pirate.

船舶に関わる犯罪行為・犯罪者の総称。
公海上の船舶に対する襲撃・強盗・営利誘拐が代表例だが、沿岸集落に上陸して襲撃を行う事もある。
広義には、港湾労働者が荷揚げ中に積荷を窃盗した場合や、税関を通過しない密輸も含まれる。

著作権侵害を指して「海賊版」と呼ぶ用法もあり、これも古くは規制や関税を逃れるための密輸に由来する。

漁師や海運業者、港湾労働者、退役・脱走した海軍将兵などが中核となって組織される事が多い。
国家総力戦の概念が浸透する以前では、そもそもそうした海の民と海賊は区別不能だった。
近代以降は脱走した水夫や困窮した失業者などを勧誘して人員を調達する事もあった。

歴史上のほとんどの時期・地域で、下級水夫は法的または事実上の奴隷として扱われている。
過酷な労働環境は船の限られたペイロードによる必然だったため、法的な奴隷解放は解決にならなかった。
水夫の待遇改善は、船内の機械化・省力化によって初めて可能になったものである。

労働者の権利に関する法規が未発達な時代、海賊は「自由な人々」として下層階級の尊敬を集める事もあった。
また実際、大航海時代以降の最盛期の海賊は、同時代の標準より先進的な労働契約を定めていた時期がある。
その関係から、誇張を伴う過去の伝説としての海賊を『自由』の思想的象徴として奉ずる人々は現在でも少なくない。

根本的に「労働契約に不満があったから反逆した人々」の集団であったため、権威に基づく不当な契約はとかく嫌悪された。
しかし一方で、過酷な洋上で活動するために規律の徹底は絶対に必要だった。
誰もが分け前と生き残りを求めて折衝と集散離合と事故死を重ねたため、結果として公正な契約慣習が成立したものと思われる。

現地当局が厳重な沿岸警備を行っているのでない限り、商船が通行すれば海賊が出現する事は避けられない。
現代に至っても、海賊対策は海洋貿易船に求められる必須事項であるし、どこの国も総じて港湾は治安が悪い。

特に、国際情勢が変動する転換期には大小様々な紛争が勃発し、それは海賊を勃興させた。
海軍が投入されるような戦争が起きれば当事国のいずれかは制海権を失い、海洋の治安も失われるからだ。
失われた制海権の復旧には年単位の月日がかかり、その間、洋上交易は常に海賊の餌食となった。
加えて、海兵隊が沿岸制圧に出れば、それ自体が戦利品の鹵獲を伴う事実上の海賊行為となった。

帆船の時代には、商船が海賊からの護衛として傭兵を雇う事がままあったが、これも海賊の温床となった。
商船護衛に長けた傭兵というのは、要するに「海賊を雇った」という事を意味していたからだ。
洋上警護の傍ら、あるいは交易商人が商売の不調を補うため、海賊行為で副収入を得る事もそう珍しくはなかった。

国際法上の定義

現代の国連海洋条約では、国家主権の及ばない地域で暴力・抑留・略奪を行った者を「海賊」とする。
(現代では公海とその上空を指すものとみなされるが、異論の余地はある)
また付随的に、故意に海賊を扇動・支援したものも、所在に関係なく海賊とみなされる。

この定義における海賊は「人類共通の敵(hostis humani generis)」と定められ、母国の主権が及ばない。
海賊を拿捕する法的権利は、文民統制に基づいて国家が保証する軍隊沿岸警備隊・警察機関のみが保有する。
しかし、その場に居合わせていればどの国の軍・警察でも関係なく海賊を拿捕する事ができる。
また、拿捕された海賊は、その海賊の国籍・船籍に関係なく拿捕した組織の母国が裁判・処刑できる。

公海上で犯行に及んだ後にどこかの国の領海内で発見された海賊の拿捕は、法的に微妙な問題を伴う。
海賊が陸上に潜伏している場合、それを捜査・連行するために他国に上陸するのはふつう認められない。
しかし政情不安定などの理由から、海賊を排除するために当地の国家主権を侵害した事例も散見される。

特定海域に海賊が跋扈している(現地政府が海賊を排除しない)事は、近代の植民地支配を正当化する開戦事由ともなった。

国家の公的機関が事実上の海賊行為を行った場合、紛争や司法の問題として国家間の外交交渉に委ねられる。
もちろん、軍事目的で敵国から略奪を行う行為は戦時国際法に抵触する可能性がある。


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