Last-modified: 2024-02-24 (土) 00:55:39 (60d)

【P-39】(ぴーさーてぃないん)

Bell P-39 Airacobra.

ベル・エアクラフトが開発し、第二次世界大戦中のアメリカ陸軍航空隊ソ連空軍などで運用された単発レシプロ戦闘機
愛称の「Airacobra(エアラコブラ)」は空飛ぶコブラの意。

開発

1936年の高高度迎撃機計画に基づいて開発された「XP-39」試作機は1939年4月に初飛行した。
ターボチャージャー過給のアリソンV-1710-17(E2)液冷エンジンを搭載したこの機体は、その開発意図通り優れた高高度性能を発揮、さらに良好な飛行性能を示した。

続いて試作されたXP-39Bはより実用的な機体として生産性・信頼性を向上させるため、高高度性能低下と引き換えにスーパーチャージャー過給のV-1710-37(E5)エンジンを搭載した。
この機体の試験結果を高く評価した米陸軍航空隊は、同年8月にXP-39Bを原型とする実用型を「P-45」として制式化、80機の量産指示を下した。
その後、P-45は軍での運用開始以前に「P-39C」として再制定されることとなる。

特徴

操縦席の横開きドア、重心安定・視界確保を目的に胴体中央に搭載されたアリソンV-1710液冷エンジン、その出力をプロペラに伝える延長軸、その内部から発射される37mm機関砲、前輪方式など、特異かつ実用的な設計を多数取り入れつつ、小型で運動性も良好という革新的な機体だった。

しかし、過給能力の低かったアリソンV-1710エンジンのスーパーチャージャーを主因に、高高度における飛行性能は同時期の機体としては低いものだった。
また、全長の短いコンパクトな機体は機動中にヨー方向の安定性を損ないやすく、回復の困難なフラットスピン?に陥る事例が多発した。
さらに、防弾装備の増設、武装強化に伴う重量増加により、試作機が示した優秀な飛行性能は次第に損なわれていった。

なお、これらの問題点を解決するために開発された改良型として、P-39の基本構造を受け継ぎつつも、ほとんど新規設計の機体となったP-63「キングコブラ」が存在する。

戦史

英軍

XP-39の高性能に注目した英空軍は、1940年に675機のベル・モデル14(本国版のC型に相当)を発注、「カリブー」として制式化。1941年には「エアラコブラ」として再制定した。
しかし、運用試験の結果、英軍は期待値以下であったエアラコブラの飛行性能を低く評価。
1940年のダンケルクの戦いで一度のみ対艦攻撃に用いた以後は、全く実戦に投入しなかった。
1942年にスピットファイアへ置き換えられて余剰となったエアラコブラはその後、試験用の1機を除いた全てがソ連へ送られた。

米軍

第二次世界大戦中、米軍はP-39を主に太平洋戦争の最中にあった南太平洋で運用し、特にガダルカナル島のヘンダーソン飛行場「カクタス空軍*1」ではF4FP-40と並ぶ主力戦闘機の一角として、度々零式艦上戦闘機一式陸上攻撃機と交戦した。

P-39は日本軍のパイロットから機首の尖った形状を比喩して「カツオブシ」と呼ばれた。

軽量、運動性に優れる零戦に対して比較的鈍重なP-39は苦戦を強いられ、多くが撃墜されたものの、充実した防弾装備から被撃墜後も一命を取り留めたパイロットは少なくなかった。

P-39やその派生型であるP-400の飛行性能は相対する敵機にほとんどの点で劣り、前線のパイロットにとっても期待はずれなものであった。
そして、P-400についてこのようなジョークが生まれたという。
「なぜP-400なんて名前なんだい?」
「ケツにゼロが喰いついたP-40だからさ!」

赤軍

P-39は米英軍から高高度性能の不足や飛行安定性の欠陥を主因として次第に忌避されるようになり、生産機の大部分は1942年5月からレンド・リース政策に基づいてソ連赤軍に送られることとなった。
そして、同軍で運用された機体は米英軍とは異なり、非常に高く評価された。

そもそも、バルバロッサ作戦奇襲を受けて大きな損害を被り、未だ戦力を十分に回復できないままに防戦を展開するソ連軍にとって、数と質の両方を伴って届いたP-39は非常に重要な航空戦力であった。

そして、本機にはソ連のパイロットにとって好都合な点がいくつもあった。
まず、基本的な武装形態である37mm機関砲の軸内装備は、敵機に肉薄、狙いを定めて一斉射する彼らの基本戦法に合致したものとなっていた。 また、飛行中の視界もエンジン位置の関係で多くの国産機よりも良好であった。
さらに、小型な機体はソ連の戦闘機と類似しつつも、それらより頑丈かつ十分な防弾装備を備えていた。
加えて、高高度性能の低いP-39にとっても、低高度戦闘を主体とした独ソ戦中の航空戦は最高の戦闘条件であった。
結果、本機に搭乗したエースパイロットがソ連で多数誕生した。

第二次世界大戦中のソ連軍トップエースの一人であるアレクサンドル・ポクルイシュキン(Алекса́ндр Покры́шкин)は、その撃墜記録のほとんどをP-39と共に達成した。

その後、ソ連軍には多くの国産新型機が配備され、P-39は性能的に旧式化した。
それでも本機に搭乗し続けたパイロットは多く、東部戦線の終結まで運用は継続された。

P-39を気に入ったあるソ連軍パイロットは、本機を「ベルリンまで乗り続ける」と宣言したという。

生産数・退役

最終的に9,588機が生産され、うちソ連で運用されたのは4,733機だった。
戦後の1951年、イタリアでの運用終了を以って本機は完全に退役した。

スペックデータ

型式XP-39YP-39
乗員1名
全長8.74m9.07m
全高3.35m3.61m
全幅10.92m10.36m
翼面積19.8719.79
空虚重量2,055kg2,287kg
全備重量2,646kg3,175kg
エンジンアリソンV-1710-17(E2)
液冷V型12気筒×1基
アリソンV-1710-37(E5)
液冷V型12気筒×1基
過給機ターボチャージャー1段1速スーパーチャージャー
出力1,150hp/858kW(高度7,619m)1,090hp/813kW(高度4,054m)
プロペラ3翅定速プロペラ
最高速度628km/h(高度6,096m)592km/h(高度4,145m)
上昇性能-4,572mまで4分36秒(16.6m/s)
実用上昇限度9,753m10,150m
航続距離628km-
翼面荷重133kg/160kg/
馬力荷重
(通常出力)
324W/kg256W/kg
武装なし軸内:M4 37mm機関砲×1門
胴体:ブローニングM2 12.7mm機銃×2挺
胴体:ブローニングM1919 7.62mm機銃×2挺
装弾数なし37mm機関砲:15発
12.7mm機銃:各200発
7.62mm機銃:各500発
追加武装なし


型式P-39CP-39DP-39N
乗員1名
全長9.19m
全高3.61m3.78m
全幅10.36m
翼面積19.79
空虚重量2,300kg2,477kg2,566kg
全備重量3,209kg3,402kg3,347kg
最大離陸重量3,301kg3,720kg3,765kg
エンジンアリソンV-1710-35(E4)
液冷V型12気筒×1基
アリソンV-1710-85(E19)×1基
出力1,150hp/858kW(高度3,657m)
1,490hp/1,111kW(高度1,311m、WEP*2時)
1,200hp/895kW(海面高度)
1,420hp/1,059kW
(高度2,743m、WEP時)
プロペラ3翅定速プロペラ
最高速度610km/h(高度4,907m)592km/h(高度3,658m)642km/h(高度2,956m)
上昇性能3,048mまで2分42秒
(18.8m/s)
3,048mまで3分41秒
(13.8m/s)
4,571mまで3分49秒
(20m/s)
実用上昇限度10,119m9,784m11,665m
航続距離1,111km(最大)966km/1,770km(最大)483km/1,569km(最大)
翼面荷重162kg/173kg/169kg/
馬力荷重
(通常出力)
267W/kg252W/kg267W/kg
武装軸内:M4 37mm機関砲×1門
胴体:ブローニングM2
12.7mm機銃×2挺
胴体:ブローニングM1919
7.62mm機銃×2挺
軸内:M4 37mm機関砲×1門
胴体:ブローニングM2 12.7mm機銃×2挺
翼内:ブローニングM1919 7.62mm機銃×4挺
装弾数37mm機関砲:15発
12.7mm機銃:各200発
7.62mm機銃:各500発
37mm機関砲:30発
12.7mm機銃:各200発
7.62mm機銃:各500発
追加武装胴体:114kg/227kg爆弾×1発胴体:114kg/227kg爆弾×1発
翼下:114kg/227kg爆弾×2発


型式P-39Q
乗員1名
全長9.19m
全高3.78m
翼幅10.36m
翼面積19.79
空虚重量2,425kg
全備重量3,347kg
最大離陸重量3,800kg
エンジンアリソンV-1710-85(E19)
液冷V型12気筒×1基
出力1,200hp/895kW(海面高度)
1,420hp/1,059kW(高度2,743m、WEP時)
プロペラ3翅定速プロペラ
最高速度620km/h(高度3,353m)
失速速度153km/h(パワーオフ、フラップギアダウン)
急降下制限速度845km/h
上昇性能高度4,572mまで4分12秒(18.1m/s)
上昇限度10,700m
航続距離845km(機体内燃料のみ)
翼面荷重169kg/
馬力荷重
(通常出力)
267W/kg
武装軸内:M4 37mm機関砲×1門
胴体:ブローニングM2 12.7mm機銃×2挺
翼下:ブローニングM2 12.7mm機銃×2挺
装弾数37mm機関砲:30発
胴体12.7mm機銃:各200発
翼下12.7mm機銃:各300発
追加武装胴体:114kg/227kg爆弾×1発
翼下:114kg/227kg爆弾×2発


型式

米軍

  • XP-39(1機):
    プロトタイプ。非武装。社内呼称はベル モデル11。
    アリソンV-1710-17(E2)(1,150hp(860kW))エンジンとGE製B-5ターボチャージャーを搭載。
    後にXP-39Bに改修された。

  • XP-39B(1機):
    XP-39を改修した機体。
    キャノピーとホイールドアの形状変更やオイルクーラー/エンジン冷却ラジエーターのインテーク位置の変更、胴体を3.3cm延長し翼幅を5.6cm減少させた。
    1段1速のスーパーチャージャー付きアリソンV-1710-37(E5)(離昇1,090hp(813kW))エンジンを搭載。

  • YP-39(13機):
    実用試験機型。社内呼称はベル モデル12。
    アリソンV-1710-37(E5)(離昇1,090hp(810kW))エンジンを搭載し、XP-39Bより幅が広い垂直尾翼を持つ。

  • YP-39A(1機予定):
    アリソンV-1710-31エンジンを搭載予定だった型。通常のYP-39として引き渡された。

  • P-39C(20機):
    量産型。社内呼称はベル・モデル13。。
    アリソンV-1710-35(離昇1,150hp(858kW))エンジン以外はYP-39と同等。
    機首に37mm機関砲1門、胴体に50口径(12.7mm)機銃2挺、30口径(7.62mm)機銃2挺の機銃を装備。
    以降の型式と異なり装甲と自己封鎖式燃料タンクを備えていない。

    • P-45:
      P-39Cまたはベル・モデル13の初期呼称。

  • P-39D(429機):
    C型をベースに装甲と自己封鎖式燃料タンクを備えた型。社内呼称はベル・モデル15。
    胴体の30口径機銃を廃し、翼内30口径機銃×4挺とした。

    • P-39D-1(336機):
      レンドリース向け生産型。社内呼称はベル・モデル14A。
      37mm機関砲の代わりにM1 20mm機関砲を装備している。

    • P-39D-2(158機):
      レンドリース向け生産型。社内呼称はベル・モデル14A-1。
      20mm機関砲を装備し、アリソンV-1710-63(E6)(離昇1,325hp(988kW))エンジンを搭載する。

    • P-39D-3(26機):
      P-39D-1を写真偵察用に改修した型。
      K-24とK-25カメラを後部胴体に搭載し、オイルクーラーに追加装甲を施した。

    • P-39D-4(11機):
      P-39D-2にP-39D-3と同様の改修を行った型。

  • XP-39E(3機):
    P-39Dをベースにした地上・飛行試験型。社内呼称はベル モデル23。
    様々な翼や垂直尾翼のテストに使用された。
    胴体は21インチ(530mm)延長されている。
    P-63の開発に大きな影響を与えた。

  • P-39F(229機):
    アエロプロダクト社製3枚翅定速プロペラを搭載した型。
    社内呼称はベル・モデル15B。

    • P-39F-2(27機):
      F型の対地攻撃・戦術偵察型。

  • P-39G(1,800機発注):
    P-39D-2に別のプロペラを搭載する予定だった型。社内呼称はベル・モデル26。
    後にキャンセルされ、発注された機体はP-39K、L、M、Nとして納入された。

  • P-39J(25機):
    F型のエンジンを自動ブーストコントロール付きのアリソンV-1710-59(離昇1,100hp(820kW))に換装した型。
    社内呼称はベル・モデル15B。

  • P-39K
    • P-39K-1(210機):
      アエロプロダクツ社製プロペラを装備し、アリソンV-1710-63(E6)(離昇1,325hp(988kW))エンジンを搭載した型。
      社内呼称はベル・モデル26A。

    • P-39K-2(6機):
      P-39K-1の地上攻撃・偵察型。

    • P-39K-5(1機):
      V-1710-85(E19)エンジンを搭載した型。
      P-39Nのプロトタイプとして使用された。

  • P-39L
    • P-39L-1(250機):
      P-39Kに似た機体にカーチス・エレクトリック社製プロペラを装備し、総重量を増加させた型。
      社内呼称はベル・モデル25B。

    • P-39L-2(11機):
      P-39L-1の地上攻撃・偵察型。

  • P-39M
    • P-39M-1(240機):
      エアロプロダクツ社製プロペラ、低高度性能を犠牲にして高高度性能を改善したアリソンV-1710-67(E8)(離昇1,150hp(890kW))エンジンを搭載した改良型。
      社内呼称はベル モデル26D。
      一部の機体はアリソンV-1710-83(E18)エンジンを搭載して納入された。

  • P-39N(500機):
    元々はP-39Gとして発注されていた型。社内呼称はベル モデル26N。
    エンジンはアリソンV-1710-85(E19)(離昇1,200hp(895kW))、プロペラはアエロプロダクツ社製プロペラを搭載するが減速比が異なる。
    167機目からはプロペラ直径が3.53cmに拡大され、内部燃料が330Lに減少した。

    • P-39N-1(900機):
      機首機関砲発射時の重心を調整するために内部を変更した型。

    • P-39N-2(128機):
      P-39N-1の写真偵察型。
      腹部装甲と後部胴体のカメラを追加した。

    • P-39N-3B(35機):
      P-39Nの写真偵察型。
      腹部装甲と後部胴体のカメラを追加した。

    • P-39N-5(695機):
      装甲重量を105kgから88kgに減じ、パイロット後方の防弾ガラスを装甲板に変更、SCR-695無線機を搭載し、新たに酸素システムを追加した型。

    • P-39N-6(84機):
      P-39N-5の写真偵察型。
      腹部装甲と後部胴体のカメラを追加した。

  • P-39Q(1機):
    最終生産型。

    • P-39Q-1(150機):
      翼内7.62mm機銃を廃止、両翼下のポッドに12.7mm機銃と弾薬各300発を搭載、装甲を強化した型。社内呼称はベル モデル26Q。

    • P-39Q-2(5機):
      P-39Q-1の写真偵察型。
      機体後部にK-24、K-25カメラを搭載する。

    • P-39Q-5(950機):
      装甲を薄くして燃料搭載量を増加させ、A-1型爆撃照準用アダプターを追加した型。
  • TP-39Q-5(1機):
    複座練習機型。非武装。
    尾翼が拡大され、浅い腹部フィンが追加されている。

  • P-39Q-6(148機):
    P-39Q-5の写真偵察型。
    機体後部にK-24、K-25カメラを搭載する。

  • P-39Q-10(705機):
    装甲を強化し、燃料搭載量を増加させた型。
    油圧系統への防寒対策、自動ブースト制御やエンジンのラバーマウントの追加が施されている。

  • P-39Q-11(8機):
    P-39Q-10の写真偵察型。
    機体後部にK-24、K-25カメラを搭載する。

  • P-39Q-15(1,000機):
    機体各部隔壁の強化やバッテリーソノレイドの位置変更などを行い、酸素システムを4本から2本に削減した型。

  • P-39Q-20(1,000機):
    マイナーチェンジ型。
    翼下の50口径機関銃ポッドが省略されることもあった。

  • P-39Q-21(109機):
    P-39Q-20にエアロプロダクツ社製4枚翅プロペラを装着した型。

  • P-39Q-22(12機):
    P-39Q-20の複座練習機型。

  • P-39Q-25(700機):
    P-39Q-20に似るが、後部胴体と水平安定板の構造を強化した型。

  • P-39Q-30(400機):
    3枚翅のプロペラに戻した型。

英軍

  • エアラコブラ機3機):
    P-39Cのイギリス空軍での呼称。

  • エアラコブラA(675機):
    イギリス空軍向け。社内呼称はベル・モデル14。
    30口径機銃をイギリス仕様の303口径のものに換装。

  • P-63「キングコブラ」(3,303機):
    発展型。詳しくは項を参照。

*1 Cactus Air Force:「サボテン空軍」の意で、進撃する日本軍に痛撃を与えるため、海軍海兵隊の航空戦力を急遽結集したガダルカナル島防空部隊。
*2 War emergency power:戦時緊急出力。

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