【VH-71】(ぶいえいちななじゅういち)

Agusta-Westland/Lockheed Martin/Bell VH-71
アグスタウェストランド社の大型対潜/輸送ヘリコプター、AW101の派生型で、アメリカ海兵隊が大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」として導入しようとした機体。
愛称は「ケストレル*1」。

海兵隊は、1975年に陸軍航空隊から大統領の近距離輸送任務を引き継いで以来、この任務にシコルスキーSH-3「シーキング」対潜ヘリをベースとした「VH-3」を使用していたが、原設計から半世紀経過した同機は老朽化・陳腐化が否めなかった。
また、この後継としてUH-60「ブラックホーク」をベースとした「VH-60」も使用されていたが、こちらは輸送機C-5C-141C-130C-17など)で容易に運搬でき、世界各地への展開が容易になった反面、キャビンの居住性が劣っていた。
これら2機種を代替すべく採用されたのが本機であった。

2005年にロッキード・マーティン社が「US-101」としてアグスタウェストランドライセンス生産契約を締結したが、ロッキード・マーティンはヘリコプターの経験に乏しく*2、機体の製作は、UH-1/AH-1ファミリーなどでヘリコプターの経験が豊富なベル社が受け持つこととされた。
当初、海兵隊は本機を27機導入し、VIP輸送飛行隊を編成する計画だったが、開発の過程で、核爆発によって起きる電磁波障害への対処やキッチンの設置など、生存性・居住性をさらに高める改修項目がどんどん追加され、開発予算総額や1機あたりの価格がオリジナルの20倍にも高騰してしまった。

最終的に、当初60億ドル程度の予定だった開発予算が総額112億ドル(1ドル=100円換算で1兆1,200億円)と、イージス艦10隻が建造できる額まで膨れ上がり、1機当たりの価格も4億ドル(400億円・F-22約2.5機分相当)と、超大型旅客機・B747をベースとしたVC-25「エアフォースワン」(3億2500万ドル=325億円)よりも高額になってしまった。

そのため、2008年の選挙で勝利したバラク・オバマ大統領が打ち出した経費削減策の一環として、2009年6月に導入の中止が決定された。*3*4
今後、同機のために積み立てられた資金はVH-3/VH-60のアップデートに活用されるというが、このことについて「老朽化したヘリを使用すべきではないし、予算をつぎ込んだプランを中止すべきではない」という意見もあるという。


*1 チョウゲンボウの意。
*2 母体のひとつであるロッキード社は、本機の約40年前に開発されたAH-56が一度は採用されたものの、最終的にキャンセルとなった経験を持っている。
*3 この時点で2機が既に完成済みであり、7機が完成間近の状態であった。
*4 時を同じくして、空軍捜索救難ヘリとして計画していたHH-47もキャンセルされてしまった。

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