【T-72】(てぃーななじゅうに)

ソ連が1971年に開発した主力戦車
旧共産圏にて、1970年代からソ連崩壊の1991年までもっとも多く配備された。

技術的にはM60パットンレオパルト1チーフテンと同じ第2世代にあたる。
生産当初は41tと西側諸国の主力戦車と比べて非常に軽量であった。

主砲は2A46 125mm滑腔砲を装備。
西側の主力であるL44 120mm滑腔砲と遜色ない威力を持ち、有効射程は1,800〜2,000mである。
また、戦車砲弾以外にも射程5,000m程度の対戦車ミサイルを発射可能である。*1
NBC対策として空気浄化システムと加圧機能を搭載し、自動装填装置は回転装填式自動装填装置「カセトカ」を搭載している。

1991年、湾岸戦争でイラクのT-72がM1チャレンジャー戦車と交戦したが、数多の惨敗を喫した。
この悲劇的*2戦訓を受け、T-90など後継機種への置換が始まっている。

西側の戦車との交戦ではアウトレンジ攻撃を受けて一方的に破壊される事が多々あったという。
数少ない例外でも、エイブラムスの砲塔に直撃弾を撃ち込んだものの、傷一つつけられなかったという。
この悲惨極まる惨敗の原因は色々と指摘されているが、まずT-72を始めとするソ連製戦車の設計思想と実際の戦闘で行われた戦い方が合わなかった事、輸出用に性能が意図的に落とされた「モンキーモデル」*3であった事、電子装備などで西側戦車に劣っていた事が大きいとされる。
ソ連は大量の戦車を揃えて、一度に進撃する事で鉄の津波となって敵を圧倒する事を想定していたが、湾岸戦争では散発的な迎撃戦しか出来なかったため性能の差が如実に表れる結果となってしまった。

スペックデータ

乗員3名
全長9.53m
全高2.19m(T-72A)
2.23m(T-72M1・T-72B)
2.22m(T-72S)
全幅3.59m
戦闘重量46.5t
懸架方式トーションバー方式
エンジンV-84 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージドディーゼル
(出力840hp)
登坂力60%
超堤高0.85m
超壕幅2.8m
最大速度60km/h(路上・整地)
45km/h(不整地)
航続距離450km
600km(外部燃料タンク使用時)
装甲複合装甲
200mm(車体前面)/280mm(砲塔前面)(T-72A)
236mm (車体前面)/296mm(砲塔前面)(T-72B)
400-600mm(均質圧延鋼板換算(推定))
兵装2A46 51口径125mm滑腔砲×1門(携行弾数45発)
NSVT 12.7mm重機関銃×1挺(対空用,携行弾数300発)
PKT 7.62mm機関銃×1挺(主砲同軸,携行弾数2,000発)


バリエーション

  • T-72「ウラール」:
    初期型。
    ステレオ式測遠機を装備する。

  • T-72A:
    サイドスカートや追加装甲レーザー測遠機・射撃統制装置・夜間暗視装置・発煙弾発射機を装備する型。

  • T-72B:
    装甲の強化及び前面部に複合装甲を追加し、9M119「レフレクス」または9M120「スヴィーリ」レーザー誘導型対戦車ミサイル発射機能を追加した型。

  • T-72AV/BV:
    1985年から生産されたT-72AおよびT-72Bに爆発反応装甲を追加した型。
    当初は「コンタークト1」を227基装備していたが、後に新型の「コンタークト5」に換装している。

  • T-72B1:
    T-72Bからレーザー誘導型対戦車ミサイル発射機能を排除した型。

  • T-72BK:
    T-72Bに偵察機能や指揮通信機・通信アンテナの増設を施した指揮戦車型。

  • T-72B(M):
    1988年から生産されたT-72Bの強化型。T-72BMとも呼ばれる。
    改修版の爆発反応装甲砲塔部に複合装甲を搭載する。
    爆発反応装甲は「コンタークト5」を装備する。

  • T-72S:
    輸出向け派生型。
    「コンタークト1」ERAを155基装備する。

  • T-72M:
    T-72Aの輸出向けモンキーモデル。
    ソ連、ポーランドとチェコスロヴァキアで生産された。

  • T-72M1:
    装甲を厚くした輸出モデル。
    ソ連、ポーランドとチェコスロヴァキアで生産された。

  • T-72B2「ロガートカ」:
    2006年に公開された改修型。愛称は「投石器」のこと。
    第三世代の爆発反応装甲「レリークト」や1,000馬力のV-92エンジン、新型射撃管制装置「ソスナー」、赤外線型夜間射撃暗視装置などを装備する。

  • T-72B3:
    2013年に調達を開始した最新の改修型。
    T-90の性能に近づけたもので、新型の射撃管制装置、T-90Aと同じ1,000馬力のエンジンとAPU機関を装備し、一部の車両には砲塔上に車長用サイトを装備したものも確認されている。

  • T-72B4:
    T-72B3に全周旋回式車長用サイトを装備した型。これによりハンターキラー能力を獲得した。
    エンジンはT-90MSと同じV-92S2F(出力1,130馬力)を搭載し、併せてT-90MS同様にハンドル式の操縦装置とオートマチック・トランスミッションの変速装置が採用されているとされる。

派生型

  • TOS-1「ブラチーノ」
    T-72の車体に30連装220mmロケット弾発射機を搭載した自走ロケット砲。
    詳しくは項を参照。

  • BMP-T
    T-72の車体をベースにした装甲戦闘車両。
    詳しくは項を参照。

  • MTU-72:
    架橋戦車型。

  • BMO-T:
    ロシア軍海兵隊の火炎放射部隊向け重装甲兵員輸送車。2001年に制式化された。
    内部にサーモバリック爆薬焼夷弾を放てるRPO「シュメーリ」ロケットランチャーを32本搭載する。
    オプションで爆発反応装甲を追加装備できるほか、防御装備に「シュトーラ<<Штора>>」光電磁撹乱システムと902A発煙弾発射機を搭載する。

  • T-90
    T-72の車体とT-80の砲塔を組み合わせた、湾岸戦争で失墜したT-72の名誉挽回を目指した型。
    詳しくは項を参照。

  • SPM:
    ロシアの戦車工場「Omsktransmash」が開発した消防車。
    T-72やT-80をベースとしている。
    貯蔵施設での火災などで使用される。

  • T-72M3CZ/M4CZ:
    チェコの近代化改修型。
    イタリア・ガリレオ社製TURMS-T射撃統制装置や環境センサー、NBA-97 GPS航法装置、DITA-97自己診断装置を追加装備し、砲管制装置と弾道コンピューターを一体化。
    主砲操作がジョイスティック式となり、主砲には砲口照合装置を追加し、シンセシア社製APFSDS-T弾が発射可能になった。
    砲塔はポーランド製の「ダイナ」爆発反応装甲が装着され、POC SSCiレーザー警報装置と独製キッデ・ドイグラ自動消火装置を装備。
    この他、車体には磁気反応式の対戦車地雷を無力化するというメトラ・ブランコスSPシステムを装備し、赤外線映像へのカモフラージュになるというエナメルU2500が塗布されている。
    エンジンは、M3CZはV-46にターボ圧縮機を追加したV-46TC(858馬力)に、M4CZは英パーキンス社製CV-12(1,000馬力)に換装され、パワーパック化されている。

  • PSP T-72MP:
    チェコのPSPボヘミアAS社が提案した近代改修型。
    車体前部と砲塔爆発反応装甲を装着し、「シュトーラ1」アクティブ防護システムやSEGAM SAVEN 15MPデジタル射撃統制装置を装備。
    射撃サイトも仏製のレーザー測距機・パッシブ暗視装置付きのタイプにし、エンジンを6TD-1(1,000馬力)または6TD-2(1,200馬力)に換装している。
    主砲は2A46の改良型である2A46M-1を搭載し、サーマルスリーブと砲口照合装置を標準装備する。

  • T-72M1「モデルナ」:
    スロヴァキアのZTSテース・マルチン社による近代化改修型。
    爆発反応装甲を車体前部と砲塔に装着し、射撃管制装置を電子化、射撃サイトを換装した上、砲塔左右にエリコン・コントラバス製KAA-001 20mm機関砲を1丁ずつ装備している。

    • T-72M1-A:
      「モデルナ」の改良型。
      射撃統制装置を国産のEFCS-72Aコンピューターに換装し、車長サイトをSGS-72Aスタビライズ・パッシブサイトに換装、レーザー警報装置を追加装備している。
      また、エンジンはS12U(850馬力)に換装し、トランスミッションも改良されている。
      その代わり、対空機関砲は撤去されている。

    • T-72M2「モデルナ2」
      「モデルナ」の改良型。
      射撃統制装置と射撃サイト・弾道コンピューター・CRTディスプレイをリンク化し、砲塔右側に2A42 30mm機関砲を独立して装備している。

  • ズサナT-72M1:
    スロバキアのズザナ社製の155mm自走榴弾砲
    ズザナ砲塔をT-72M1の車体に搭載している。
    インド軍に提案されたものの不採用となったが、その後、スロバキア陸軍、キプロス陸軍が採用している。

  • M-84
    ユーゴスラヴィアでライセンス生産された型。詳しくは項を参照。

  • M-92「ヴィホル」:
    クロアチアで生産された型。

  • Lion of Babylon(バビロンのライオン):
    1988年のバグダッドの兵器ショーで、国産型と称して展示発表されたT-72のイラクモデル。
    実際は半完成品の輸入部品をくみ上げた、T-72Gのノックダウン生産品であった。

  • PT-91「トファルディ*4」:
    ポーランド製のT-72M1の改修型。詳しくは項を参照。

  • WZT-3:
    ポーランド製の装甲回収車型。PT-91ベースの車両もある。
    車体上にTD-50 15tクレーンやドーザー・ブレード、ウインチなどを装備。
    ポーランド陸軍のほか、インド陸軍が採用している。

  • T-72MIZ:
    ポーランドでのT-72M1の改修型。
    南アフリカのデネル社製タイガー射撃管制装置、爆発反応装甲、レーザー警報装置を装備し、エンジンをS12Uに換装するなど、PT-91に準じた改修がされている。

  • PT-16:
    ポーランドがT-72M1のシャーシをベースに、主砲をNATO規格のAPFSDS-T弾を使用できる国産の120mm滑腔砲を装備した改修型。

  • TC-90:
    ポーランド製の戦車橋モデル。
    最大19mの間隔に20mのシザース式戦車橋を架けることが可能。

  • TR-125:
    ルーマニア版T-72。プロトタイプ数両のみ製造。
    エンジンやサスペンションが改良されている。

  • T-72AM:
    ウクライナで配備されたT-72Aの改修型。
    T-72BMに準じた規格であるが、装備品の一部をウクライナ製のものに換装している。
    「コンタークト5」爆発反応装甲と自動制御式の射撃管制装置が特徴となっている。

  • T-72MP:
    ウクライナのKMDB社のT-72の近代改修キット。
    T-80UDT-84の技術をベースにしており、エンジンの出力強化や射撃統制装置の改修・装甲の強化が施されている。

  • T-72AG:
    ウクライナのKMDB社の近代改修キット。
    主砲の有効射程が延長され、対戦車ミサイルの運用が可能になった。
    また、砲手用サイトをスタビライズを強化した1G46に換装され、暗視装置を強化、車長用サイトにはオーバーライド機能が追加された。
    その他、射撃統制装置が1V528自動入力式弾道コンピューターに換装され、エンジンをT-84と同じく6TD-12に強化、装甲をT-84と同等の爆発反応装甲とゴム板が追加した。

  • T-72-120:
    ウクライナのKMDB社の近代改修キットで、同社の開発したヤタハーンに準じた性能を保証している。
    NATO規格の120mm滑腔砲対応の主砲、および自動装填装置を装備し、120mm砲対応の対戦車ミサイルも発射可能である。

  • アジェヤMK-1:
    インド版T-72。1993年にT-72M1と同性能に改修。

  • アジェヤMK-2:
    インド版T-72M1。
    GPS機能、爆発反応装甲・レーザー警報機能・射撃管制機能の強化・赤外線型夜間暗視装置・ポーランド製1000hpエンジンを搭載。

  • TANK-X:
    インドで開発されたT-72の車体に自国開発のアージュン?戦車の砲塔を搭載した。
    プロトタイプのみ。

  • BMT-72:
    ウクライナのKMDB社で開発された歩兵戦闘車型。
    姉妹型車輌にBTMP-84がある。

  • M-2002「暴風号(ポップンホ)」:
    朝鮮民主主義人民共和国の独自改良型。
    砲塔側面に楔形増加装甲が取り付けられている。


*1 9M119「レフレークス」または9K120「スヴィーリ」を搭載。
  ただし、一発500万円ほどの高価な装備であるため、ほとんど発射された記録はない。

*2 全く歯が立たないばかりか、装甲を貫通した砲弾が内部で弾薬に誘爆して砲塔が打ち上がる様をアメリカ軍の戦車兵に「ジャック・イン・ザ・ボックス(びっくり箱)」などと呼ばれる有様だった。
  これは砲塔下部に砲弾を収納する仕組みになっていたため、貫通弾でたやすく誘爆を招く弱点が露呈したものでT-62、T-80、T-90に共通した弱点である。

*3 本来複合装甲が施されている部分に普通の圧延鋼板溶接装甲が使用され、徹甲弾もタングステン芯ではなく鋼鉄のものであった。
*4 Twardy:ポーランド語で「堅い、不屈の」という意味。

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