【SS-1】(えすえすいち)

ドイツが第二次世界大戦中に開発した「V-2」を原型に、旧ソ連のコロリエフ設計局(OKB-1)が開発した、一般ではもっとも知られている短距離弾道ミサイル(SRBM)。
NATOコードScud(スカッド) 、ロシアではR-11・8K11(スカッドAの場合)と呼ばれている。

1950年代初期から開発を開始、当初ケロシン燃料等の推進剤漏れが有ったりと開発は遅れたが、1954年4月18日に試射を行い、1955年にSS-1bスカッドAとして量産が開始された。
射程は約180kmで、弾体はJS-3重戦車に乗せて移動する。

その後SS-1cスカッドBが開発され、こちらは誘導装置に慣性誘導?、燃料にはジメチル・ヒドラジン燃料を使用。
また、台車は前作のJS-3から、機動性がより向上した8輪のMAZ-543P輸送起立発射機(TEL)となり、1時間で発射可能になった操作システムと、多くの改良がなされた。
弾頭には通常弾頭・核弾頭・化学/生物弾頭を選択可能。
更にその後、射程向上型のSS-1dスカッドC(R-17・8K14)、誘導装置改良型のSS-1eスカッドD等、艦艇発射型のR-11FMが開発された。

なお、一般に知られている「スカッド」は、主としてSS-1cスカッドBの事を指している。
湾岸戦争でイラクがサウジアラビアやイスラエルの都市攻撃に使用し有名になったが、最近になってイラン・イラク戦争でも使用された事が分かっている。
また、この他にも旧南イエメンがイエメン内戦で、リビアが1986年にヨーロッパのアメリカ海軍施設に対して2発発射したが、途中で落下し目標に到達しなかった。

輸出の方は好調で、旧ワルシャワ条約機構(ポーランド・旧東ドイツ・旧チェコスロバキア・ルーマニア・ハンガリー・ブルガリア等)・CIS諸国(ウクライナ・アゼルバイジャン・グルジア・カザフスタン)をはじめイラク・イラン・シリア・リビア・エジプト・旧南イエメン・北朝鮮・キューバ・イエメン・ベトナム・アフガニスタン・UAE等に輸出され、中でもリビアは最大の保有国である。

現在では輸出先で多くの改良がなされており、アル・フセイン/アル・ファジャラ(イラク)、ノドン(北朝鮮)、ガウリ?(パキスタン)、シャハブ?(イラン)などの派生型が開発された。

スペックデータ

  • R-11(SS-1b)スカッドA
    全長:10.7m
    直径:0.88m
    発射重量:4,400kg
    弾頭:核(50kT、950kg)
    最大射程:130km
    CEP:4,000m
    推進方式:1段式液体燃料ロケットエンジン
    燃料:ケロシン+硝酸
    誘導方式:慣性誘導?
    搭載車両:JS-3戦車

  • R-17(SS-1c)スカッドB
    全長:11.25m
    直径:0.88m
    発射重量:5,900kg
    弾頭:核(70kT)/高性能炸薬/化学(985kg)
    最大射程:300km
    CEP:900m
    推進方式:1段式液体燃料ロケットエンジン
    燃料:UDMH*1+IRFNA*2
    誘導方式:慣性誘導
    搭載車両:MAZ-543

  • SS-1d スカッドC
    全長:11.25m
    直径:0.88m
    発射重量:6,400kg
    弾頭:高性能炸薬(600kg)
    最大射程:600km
    CEP:900m
    推進方式:1段式液体燃料ロケットエンジン
    燃料:UDMH+IRFNA
    誘導方式:慣性誘導
    搭載車両:MAZ-543

  • SS-1e スカッドD 全長:12.29m
    直径:0.88m
    発射重量:6,500kg
    弾頭:高性能炸薬/クラスター(985kg)
    最大射程:700km
    CEP:50m
    推進方式:1段式液体燃料ロケットエンジン
    燃料:UDMH+IRFNA
    誘導方式:デジタル画像照合付き慣性誘導
    搭載車両:MAZ-543

バリエーション

  • スカッドA
    初期生産型。ロシアではR-11、NATOコードではSS-1bと呼ばれる。
    1955年に実戦配備されたが、システムの信頼性が低かったため、、CEPは4,000mと非常に悪かった。
    1978年に退役。

  • スカッドB
    1962年に実戦配備された、スカッドAの改良型。ロシアではR-17、NATOコードではSS-1cと呼ばれる。
    誘導装置を改良したため、CEPは900mにまで向上している。
    また、使用する燃料も変更され、射程が80〜300km(核弾頭180km、通常・化学・生物弾頭300km)に伸びている。

  • スカッドC
    弾頭を600kgに減量し、射程を550kmまで延長した型。弾頭には高性能炸薬弾頭を使用する。
    NATOコードではSS-1dと呼ばれる。
    リビア・北朝鮮に輸出され、北朝鮮では独力で生産する能力を獲得した。

  • スカッドD
    誘導装置をデジタル画像照合式慣性誘導方式に変更し、射程も700kmに延長された型。
    NATOコードではSS-1eと呼ばれる。

  • R-11FM
    R-11(スカッドA)の艦艇発射型。
    ソ連初の潜水艦発射弾道ミサイルで、8A61ともいう。1955年に試作型が完成し、1959年から引き渡され、AV611型潜水艦(ズールーIV級戦略潜水艦)および629型潜水艦(ゴルフ級潜水艦)に搭載された。1967年に退役。

  • アル・フセイン/アル・ファジャラ
    イラクがスカッドBに独自に改良を施した射程延長型。
    弾頭を軽量化し、燃料搭載量を増加させることで最大射程が650kmに延伸しているが、安定性が失われたためCEPは1,000mと命中精度は低下している。
    イランイラク戦争や湾岸戦争で大量に使用され、湾岸戦争後に国連の査察団によって破棄された。

  • アル・アッバス
    スカッドBの射程延長型。
    アル・フセインと同じく、弾頭を軽量化し、燃料搭載量を増加させることで最大射程を900kmに延伸しているが、命中精度はさらに低下している。
    湾岸戦争では使用されず、アル・フセイン同様、国連の査察団によって破棄された。

IMG_3630.jpg
(スカッドB)


*1 非対称ジメチルヒドラジン
*2 赤煙硝酸

トップ 新規 一覧 単語検索 最終更新ヘルプ   最終更新のRSS