【MD-11】(えむでぃーいれぶん)

McDonnell? Douglas/Boeing MD-11.

1980〜1990年代、アメリカのマクダネル・ダグラス社が開発・生産した三発ワイドボディ旅客機
DC-10を基に、各部を近代化した形で開発された。

マクダネル・ダグラスは1997年にボーイングに吸収合併されたため*1、同社が開発した最後の大型旅客機となった。

開発の経緯

1970年代、マクダネル・ダグラスが送り出したDC-10は、ロッキードの送り出したL-1011との激しい販売競争を繰り広げていた。
この競争は最終的にロッキード側の自滅に近い形*2で決着したが、「勝利」したDC-10の前途も明るいものとはいえなかった。

まず、開発当初に求められていた「超音速旅客機の補完」というコンセプトが、超音速旅客機自体の商業的挫折*3で破綻したこと。
次に、中東戦争を契機とした燃料価格の高騰で「低燃費で効率の良い」機体が求められるようになったことである。

後者の課題はエアバスA300-600A310ボーイングB767などといった双発機によって解決。
グラスコックピットを採用して2マンクルーを実現したそれら新鋭機に対して、DC-10の設計が陳腐化した非効率なものである事は明らかであった。
このため、DC-10をベースにグラスコックピット2マンクルーなどを取り入れて近代化されたのが本機である。

セールス

マクダネル・ダグラスでは本機を
「大型四発機と同じペイロードで、安い経費で運行できる機体」
「大型双発機に比べて洋上飛行の制約が少ない機体」
として売り出した。
しかし、さまざまな事情から開発が遅れたうえ「一座席あたりのコストが(B747-400に比べて)高い」「操縦が難しい」など、顧客からの評価は芳しいものとはいえなかった。
その上、双発機の洋上飛行の制約も、エンジンの信頼性向上や推力向上で問題にならなくなりつつあり*4、立ち位置を失った本機の受注は伸び悩んだ。

そうしているうち、マクダネル・ダグラスはボーイングに吸収合併されてしまう。
ボーイングでは「貨物機としての需要がある」として生産の継続を一時検討したが「貨物機については旅客型からの改修で需要が満たせること」「B777との競合」を理由に2001年2月、生産を中止。
結局、本機はわずか200機が生産されたのみで終わってしまった。

なお2016年現在、本機は旅客型として運航されている機材はなく、すべて貨物機として運用されている。

日本では日本航空が国際線専用機材として10機を導入、「J Bird」の愛称を与えて用いていたが、わずか10年で退役した*5

スペックデータ

タイプMD-11MD-11FMD-11CMD-11ER
乗員2名(機長副機長
乗客410名(1クラス)
323名(2クラス)
293名(3クラス)
-290名(1クラス)
214名(2クラス)
181名(3クラス)
410名(1クラス)
323名(2クラス)
293名(3クラス)
全長61.21m
全高17.60m
翼幅51.66m
最大離陸重量273,314kg285,990kg283,700kg285,990kg
エンジンターボファン×3基(以下から選択)
P&WPW4460(出力267kN)
P&W PW4462(出力276kN)
GECF6-80C1D2F(出力274kN)
巡航速度マッハ0.87
実用上昇限度13,000m
航続距離12,633km7,242km12,392km13,408km


バリエーション

開発された仕様

  • MD-11:
    基本型。

  • MD-11ER:
    航続距離延長型。

  • MD-11C:
    貨客混載型。
    機体前方を客室、機体後方を貨物室として胴体後部の側面に幅4.06m・高さ2.59mの貨物扉を設置した。
    客室と貨物室の比率は変更することが可能。

  • MD-11F:
    胴体前方の側面に幅3.56m・高さ2.59mの貨物扉を設置し、床を強化した純貨物型仕様。
    床上貨物室の容積は440立方メートルで、カーゴパレット26枚の搭載が可能で、床下貨物室の容積は158立方メートル。

  • MD-11CF:
    旅客・貨物転換型。
    貨物型と同様に胴体前方の側面に幅3.56m・高さ2.59mの貨物扉を設置しているが、客室窓・乗降扉もそのまま残されている。
    床上キャビン(旅客仕様なら客室、貨物仕様なら貨物室)の容積は410立方メートルと純貨物型よりやや少ない。

計画のみ

  • MD-11LR:
    長距離型。
    翼端を3.6mずつ延長した上で中央脚を4輪として、8,000マイル(14,820km)の航続距離を得る計画だった。

  • MD-11(ストレッチ型):
    胴体を主翼の前後で合計34フィート(10.36m)延長する仕様。
    3クラスで最大337席、エコノミークラスを増やした2クラスであれば474席を設けることができた。

  • MD-11(パノラマキャビン仕様):
    MD-11ストレッチ仕様の前方床下貨物室を客室として使用することで、さらに旅客定員の増加を図ったモデル。
    階下席にはビジネスクラスで2列-2列の配列で66席、エコノミークラスを2列-3列の配置とすると99席が設置できる計画であった。

  • MD-11XX:
    胴体を主翼の前後で合計12フィート(3.6m)延長した上で、後退角をやや小さめにした上でアスペクト比を高める新設計の主翼を組み合わせるもの。


*1 なお、DC-9に源流を発するナローボディ機「MD-95」はボーイングに引き継がれ「B717」として生産された。
*2 元々民需向けの販売網が弱かったところに「ロッキード事件」として知られる日本政府・全日本空輸に対する贈賄事件で信用を落としてしまった。
*3 実用化されたTu-144コンコルドのいずれも、10〜20機程度しか生産されなかった。
*4 このことについてはETOPSの項も参照のこと。
*5 これは先輩格のDC-10もより早い退役であり、歴代でもコンベア880に次ぐ短命機であった。

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