*&ruby(えむわん(せんしゃ)){【M1(戦車)】}; [#l0094cc6]
M1 Abrams~
[[アメリカ陸軍]]・[[海兵隊>アメリカ海兵隊]]で使用されている第三世代[[主力戦車]]。~
[[愛称]]「エイブラムス」。1970年代に没したクレイトン・ウィリアムズ・エイブラムス・ジュニア[[陸軍大将>大将]]にちなむ(([[第二次世界大戦]]における戦車戦において数多の功績を挙げて名声を博した[[アメリカ陸軍]]の名将。&br;  [[参謀]]を経て高級指揮官として立身しつつも、1974年に病没。享年59歳。))。~
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[[M60「パットン」>M60(戦車)]]の後継として1980年代に登場し、現在までに8,000両近くが生産された。~
アメリカの他、エジプト・サウジアラビア・クウェートなどの中東親米国家やオーストラリアにも輸出されている。~
また、[[イラク戦争]]終結後はイラク軍治安部隊にも多数供給される予定。~
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[[湾岸戦争]]や[[イラク戦争]]に投入されたため、同世代の[[主力戦車]]の中で最も実戦経験が多い。~
[[湾岸戦争]]ではイラク軍の[[T-72]]・[[T-62]]・[[T-55]]等に対して圧倒的な性能優位を見せつけた。~
一方で否定的な[[戦訓>バトルプルーフ]]も多く集まり、車両の改善点のみならず、戦車の運用教則にも多大な影響を与えている。~

>例えば、主砲の[[有効射程]]が長大すぎて[[索敵>偵察]]能力が追いつかず[[誤射]]が多発したという報告がある。~
このため、後期モデルでは[[敵味方識別装置]]が搭載されている。

性能面での最大の特徴は、戦車としては珍しい[[ガスタービン]][[エンジン]]の採用((本車以外でガスタービンエンジンを採用しているのは、旧ソ連の[[T-80]]やスウェーデンの[[Strv.103]]だけである。))。~
これは瞬発力を高め[[機動力]]・登坂能力の向上に寄与しているが、反面で[[航続距離]]、特に低速走行・停車時の燃費を大きく悪化させている。~
停車時のアイドリングだけで45リットル毎時の[[燃料]]を消費するため、待機中は主機を落として[[APU]]のみを稼働させる事が推奨されている。~
また、車体後部から人が死ぬほど高温の排気ガスが放出されるため、[[歩兵]]が盾にする際に厳重な注意を必要とする。

推定される経済燃費は約420m/リットル。~
他国の同世代戦車の2倍近い容量の燃料タンクを持つにも関わらず、作戦行動を行えば約8時間で燃料切れを起こす。~
つまり、「[[前線]]の敵地まで大型トラックが1日3往復して給油する」という悪夢のような[[兵站]]負荷を生じさせる。~
~
関連:[[劣化ウラン弾]] [[湾岸戦争症候群]] [[バルカン症候群]]

**スペックデータ [#ge925e3a]
|乗員|4名(車長・操縦手・砲手・装填手)|
|全長|9.83m|
|車体長|7.92m|
|全幅|3.66m(スカート付)|
|全高|M1A1:2.44m&br;M1A2:2.37m(砲塔上面まで)|
|空車重量|34.50t|
|戦闘重量|M1:54.45t&br;M1IP:57t&br;M1A1:57.15t&br;M1A1(HA):61.5t&br;M1A2:62.1t&br;M1A2 SEP:63.2t|
|懸架方式|独立懸架トーションバー方式|
|[[エンジン]]|ハネウェル AGT1500[[ガスタービン]](出力1,500hp)|
|登坂力|60%|
|超堤高|1.06m|
|超壕幅|2.74m|
|最大速度|67.6km/h(路上)&br;48km/h(不整地)|
|[[行動距離>航続距離]]|M1:495km&br;M1A1:465km&br;M1A2:426km|
|[[装甲]]|[[砲塔]]及び車体前面:400mm([[複合装甲]])&br;車体:均質圧延鋼板|
|兵装|M1/IPM1:M68A1 105mmライフル砲×1門&br;M1A1/A2/A2 SEP:M256 44口径120mm滑腔砲×1門(弾数40発)&br;[[M2 12.7mm重機関銃>ブローニングM2]]×1挺(対物・対空用、弾数1,000発)&br;[[M240 7.62mm機関銃>MAG]]×2挺(主砲同軸、弾数12,400発)&br;M1A2SEP/V2/V3:M153「CROWSII」[[RWS>リモートウェポンシステム]](車長ハッチ前方、[[ブローニングM2]]を装備)&br;6連装発煙弾発射器×2基|
|使用砲弾|M829 [[APSFSDS>装弾筒付翼安定式徹甲弾]]&br;M830 [[HEAT-MP-T>多目的対戦車榴弾]](西独ラインメタル社製DM12A1の[[ライセンス生産]]((ジェネラル・ダイナミクス社が担当。)))&br;M1028 キャニスター弾|
~
**主なバージョン [#j9d14183]
-XM1:~
[[MBT-70]]計画の後継として開発されたM1の試作車。~
初期はXM815と呼ばれた。~
~
-M1:~
最初期型の基本タイプ。~
対[[HEAT>成形炸薬弾]]対応の空間装甲を装備。~
主砲はロイヤルオードナンス社製L7 105mmライフル砲の[[ライセンス生産]]品であるM68A1を搭載。~
~
--M1IP/IPM1:~
M1の改良型。~
[[装甲]]の強化及び主砲基部・変速機・サスペンション・ショックアブソーバーの改良が施されている。~
~
-M1A1:~
主砲をM256 44口径120mm滑腔砲(ラインメタル社製L44の[[ライセンス生産]]品)に換装。~
装甲を対鉄弾芯[[APFSDS]]対応の無拘束セラミックス装甲に換装。~
搭載される電子機器類の換装や車内配置の変更が施された。~
相当数が生産され、[[湾岸戦争]]にも参戦した。~
~
--M1A1HA:~
[[APFSDS]]対策として、[[砲塔]]および車体前面部の[[複合装甲]]に劣化ウラン装甲材を導入。~
[[湾岸戦争]]前夜に改造用キットが大量に調達・支給された。~
~
--M1A1HC:~
アメリカ[[陸軍>アメリカ陸軍]]・[[海兵隊>アメリカ海兵隊]]の部品共通化プログラムへの対応や燃費の改善、補助動力装置を装備した型。~
~
--M1A1D:~
M1A1用の「Digital enhancement package」を適用し、共同作戦対応能力を付与した型。~
~
--M1A1M:~
M1A1のアップグレード型。主にイラクへの輸出用。~
~
--M1A1AIM((Abrams Integrated Management(エイブラムス統合管理)の略。)):~
AIM改修を施したM1A1の近代化改修型。~
~
--M1A1SA(("Situational Awareness"の略。)):~
M1A1AIM V2とも呼ばれる近代化改修型。~
第三世代の[[劣化ウラニウム>劣化ウラン]][[装甲]]を装備。~
車外通話電話、車長用防護キット、装填手用機銃シールド等が追加されている。~
~
--M1A1FEP(("Firepower Enhancement Package"の略。)):~
[[アメリカ海兵隊]]の近代化改修型。陸軍のM1A1SA / AIM V2に相当する。~
主な改修内容は、電子機器の更新や車外有線電話の設置、新型砲弾の搭載などである。~
~
--M1A1KVT:~
カリフォルニア州フォート・アーウィン国立訓練センターのアメリカ陸軍仮想敵部隊(OPFOR)が運用するM1A1。~
ロシア製戦車に似せた[[アグレッサー]]。~
~
-M1A2:~
M1シリーズの最新型。[[C4Iシステム>C4I]]など車内の電子機器をグレードアップした。~
戦車長用の暗視装置付きペリスコープや自己位置特定システム、戦術[[データリンク]]などが追加された。~
~
--M1A2SEP:~
M1A2向けのシステム拡張パッケージ(System Enhancement Package)をA1型に適用した型。~
陸軍戦闘指揮システムFBCB2(Force XXI Battlefield Command Brigade and Below.)に対応したほか、向上形冷却装置を搭載する。~
現在米軍が保有するM1、M1A1はこのM1A2やSEPと呼ばれるA2に近い内容に改修されている。~
~
---M1A2SEP V2:~
SEPの改良型。~
砲塔上へのM153「CROWSII」[[RWS>リモートウェポンシステム]]の追加やAN/ULQ-35「デューク」[[IED]]起爆妨害装置を搭載。~
装甲の追加や最新の発煙弾発射機の搭載、各種電子装備の更新、高性能エアコンの設置などが施されている。~
~
---M1A2SEP V3:~
現在のM1シリーズ最新型。~
電子機器やソフトウェアを更新。~
主砲をM829E4 [[APFSDS>装弾筒付翼安定式徹甲弾]]およびXM1147次世代多目的弾に対応させた。~
改良型[[FLIR]]の搭載、折り畳みが可能な新型RWS(CROWS-LP)の装備などの改修が施されている。~
~
--M1A2S:~
サウジアラビア向けモデル。~
電子装備の改修やAIMの改修も施されているが、劣化ウラン装甲は取り外されている。~
~
-M1A3:~
現在開発中の型式。~
・軽量120mm戦車砲へ換装し、[[自動装填装置]]を組み込み~
・車内電気配線の[[光ファイバー]]化~
・新型軽量[[装甲]]の挿入~
・[[エンジン]]および駆動系の換装
・重量を60t未満に軽量化
といった予定。2020年までの開発完了を目指している。~
~
**その他の派生型 [#tf42dc07]
-M104「ウルヴァリン」HAB((Heavy Assault Bridge.)):~
M1A2 SEPベースの架橋戦車型。~
~
-M1ABV((Assault Breacher Vehicle:突撃啓開車輌。)):~
[[アメリカ海兵隊]]で運用されている[[工兵]]車両型。[[愛称]]「ブリーチャー(Breacher:切り開く者の意)」。~
想定される任務は[[地雷]]と[[IED]]の除去処理。~
[[砲塔]]部に地雷原啓開用導爆索システム(M58 MICLIC(Mine Clearing Line Charge.) )を、車体前方にチタン製の除雷鋤を装備。~
武装として、[[ERA>爆発反応装甲]]付きの[[砲塔]]に[[TWS]]付きのリモコン式12.7mm[[機関銃]]を装備している。~
~
-M1「グリズリー」CMV((Combat Mobility Vehicle.)):~
M1の車体にドーザー、バケットなどの装備を取り付けた工兵車両型。~
366輌生産される予定だったが、中止された。~
~
-M1「パンサー」MCV((Mine Clearing Vehicle.)):~
[[M60「パンサー」>M60(戦車)]]地雷処理車の後継として開発された地雷処理車両。~
砲塔を撤去したM1の車体にマインプラウ若しくはマインローラーを装着したもので、リモコンによる無人遠隔操作で行動できる。~
~
-XM2001「クルセイダー」:~
M1の車体を流用して開発された自走榴弾砲。~
密閉式砲塔にXM297 長砲身56口径155mm砲を搭載し、高度に自動化された射撃・再装填システムを持つ。~
重量やコストの問題により2002年に開発中止。~
~
-M1 Abrams LIBERTY AIR-DEFENCE SYSTEM:~
M1の車体を元に、対空機銃や[[地対空ミサイル]]を搭載した対空戦車型。計画中止。~
~
-M1 Abrams AGDS:~
主砲を撤去して2連装の「ブッシュマスターIII」35mm機関砲とADATS[[地対空ミサイル]]を搭載した[[自走高射砲]]。~
計画中止。~
~
-M1 TTB:~
試験戦車。~
120mm砲を装備した無人砲塔を搭載し、乗員は車体前部に集中配置されている。~
主砲は自動装填式になったため、乗員は3名に減っている。~
~
-M1 CATTB:~
先進要素技術試験戦車。~
自動装填式140mm砲・[[ステルス]]性・新型[[ガスタービン]]などの新技術などが試験されている。

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