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【M1(戦車)】 †
M1 Abrams
アメリカ陸軍・海兵隊で使用されている第三世代主力戦車。
愛称の「エイブラムス」は、1970年代に没したアメリカ陸軍の名将、クレイトン・ウィリアムズ・エイブラムス・ジュニア陸軍大将にちなむ*1。
M60「パットン」の後継として1980年代に登場し、現在までに8,000両近くが生産された。
アメリカの他、エジプト・サウジアラビア・クウェートなどの中東親米国家やオーストラリアにも輸出されている。
また、イラク戦争?終結後はイラク軍治安部隊にも多数供給される予定。
湾岸戦争やイラク戦争?に投入されたため、同世代の主力戦車の中で最も実戦経験が多い。
湾岸戦争ではイラク軍のT-72・T-62・T-55等に対して圧倒的な性能優位を見せつけた*2。
一方で否定的な戦訓も多く集まり、車両自体の改善点のみならず、戦車そのものの運用教則にも多大な影響を与えている。
性能面での最大の特徴は、戦車としては珍しいガスタービンエンジンの採用*3。
これは瞬発力を高め機動力や登坂能力の向上に寄与しているが、反面で航続距離、特に低速走行・停車時の燃費を大きく悪化させている*4。
そのため、停車時の電力供給のために補助動力装置を内蔵している。
関連:劣化ウラン弾 湾岸戦争症候群 バルカン症候群?
スペックデータ †
乗員 | 4名(車長・操縦手・砲手・装填手) |
全長 | 9.83m |
車体長 | 7.8m |
全幅 | 3.65m(スカート付) |
全高 | 2.84m |
空車重量 | 34.50t |
戦闘重量 | 55.7t(M1) 57t(M1IP) 61.3t(M1A1) 62.1t(M1A2) 63t(M1A2 SEP) |
懸架方式 | 独立懸架トーションバー方式 |
エンジン | ハネウェル AGT1500ガスタービン(出力1,500hp) |
登坂力 | 60% |
超堤高 | 1.06m |
超壕幅 | 2.74m |
最大速度 | 67.6km/h(路上) 48km/h(不整地) |
行動距離 | 498km(M1) 465km(M1A1) 391km(M1A2) |
装甲 | 砲塔及び車体前面:400mm(複合装甲) 車体:均質圧延鋼板 |
兵装 | M68A1 105mmライフル砲×1門(M1・M1IP(IPM1)) M256 44口径120mm滑腔砲×1門(弾数40発、M1A1以降) M2 12.7mm重機関銃×1挺(弾数1,000発) M240 7.62mm機関銃×2挺(弾数12,400発) 6連装発煙弾発射器×2基 |
主なバージョン †
- XM1:
M1の試作型。初期はXM815と呼ばれた。
- M1:
最初期型の基本タイプ。
対HEAT対応の空間装甲を装備。
主砲はロイヤルオードナンス社製M68A1 105mmライフル砲を搭載。
- IPM1:
M1の改良型。
装甲の強化及び主砲基部・変速機・サスペンション・ショックアブソーバーの改良が施されている。
- IPM1:
- M1A1:
主砲をM256 44口径120mm滑腔砲(ラインメタル社製L44のライセンス生産品)に換装し、装甲をさらに強化(対鉄弾芯APFSDS対応の無拘束セラミックス装甲)、搭載される電子機器類の換装や車内配置の変更が施された。
相当数が生産され、湾岸戦争にも参戦した。
- M1A1(HA):
砲塔や車体前面部の複合装甲に対タングステン/劣化ウラン弾芯APFSDS対応の劣化ウラン装甲材を導入し、APFSDSにも対応した型。
湾岸戦争を目前とし、改造用キットが大量に調達・支給された。
- M1A1HC:
米陸軍と米海兵隊の部品共通化プログラムへの対応や燃費の改善、補助動力装置を装備した型。
- M1A1D:
M1A1用の「Digital enhancement package」を適用し、共同作戦対応能力を与えた型。
- M1A1M:
M1A1のアップグレード型。イラク軍が導入予定である。
- M1A1KVT:
カリフォルニア州にある、フォート・アーウィン国立訓練センターのアメリカ陸軍仮想敵部隊(OPFOR)が運用するM1A1。
ロシア製戦車に似た塗装や外見をしている。
- M1A1FEP*5:
アメリカ海兵隊が進めている火力強化計画。
主な改修内容は、電子機器の更新や車外有線電話の設置、新型砲弾の搭載などである。
- M1A1AIM*6:
AIM改修を施したM1A1の近代化改修型。
- M1A1(HA):
- M1A2:
M1シリーズの最新型。C4Iシステムなど車内の電子機器をグレードアップした。
また、戦車長用の暗視装置付きペリスコープや自己位置特定システム、戦術データリンクなどが追加された。
- M1A2SEP:
M1A2向けのシステム拡張パッケージ(System Enhancement Package)をA1型に適用した型。
FBCB2*7に対応したほか、向上形冷却装置を搭載する。
現在米軍が保有するM1、M1A1はこのM1A2やSEPと呼ばれるA2に近い内容に改修されている。
- M104「ウルヴァリン」:
M1A2 SEPベースの架橋戦車型。
- M104「ウルヴァリン」:
- M1A2S:
サウジアラビア向けモデル。
電子装備の改修やAIMの改修も施されているが、劣化ウラン装甲は取り外されている。
- M1A2SEP:
- M1A3:
現在開発中の型式。
主に軽量120mm戦車砲への換装や自動装填システム?の組み込み、車内電気配線の光ファイバー?化、新型軽量装甲の挿入、新型エンジンと駆動装置の搭載が予定されており、重量を50t台まで軽量化する予定である。
2014年までに試作車の完成、2017年までの開発完了を目指している。
- M1ABV*8:
米海兵隊で運用されているM1A1の車体をベースにした工兵車両型。
略称として「ブリーチャー*9」とも呼ばれる。
主に、地雷原を除去して兵員および車輌の進入路を啓開したり、路肩爆弾や即席爆発装置の処理に用いられる。
砲塔部分には地雷原啓開用の導爆索システム(M58 MICLIC*10)を、車体前方にはチタン製の除雷鋤を装備している。
武装として、ERA付きの砲塔にTWS付きのリモコン式12.7mm機関銃を装備している。
- M1 Grizzly CMV*11:
M1の車体にドーザー、バケットなどの装備を取り付けた工兵車両型。
366輌生産される予定だったが、中止された。
- M1 Abrams LIBERTY AIR-DEFENCE SYSTEM:
M1の車体を元に、対空機銃や地対空ミサイルを搭載した対空戦車型。計画中止。
- M1 Abrams AGDS:
M1の120mm砲を撤去し、2連装の「ブッシュマスターIII」35mm機関砲とADATS地対空ミサイルを搭載した対空型。
計画中止。
- M1 TTB:
試験戦車。
120mm砲を装備した無人砲塔を搭載し、乗員は車体前部に集中配置されている。
主砲は自動装填式になったため、乗員は3名に減っている。
- M1 CATTB:
先進要素技術試験戦車。
自動装填式140mm砲を搭載したほか、ステルス性や新型ガスタービンエンジンなど新技術を詰め込み、まったく別の車両に仕上がった。
*1 第二次世界大戦における戦車戦において数多の功績を挙げて名声を博す。
参謀を経て高級指揮官として立身しつつも、1974年に病没。享年59歳。
*2 反面、長大な有効射程ゆえに長距離射撃での誤射が多発したため、以降のモデルではIFFが搭載されている。
*3 本車以外でガスタービンエンジンを採用しているのは、旧ソ連のT-80やスウェーデンのStrv.103だけである。
*4 その他、高温の排気が吹き付けるため車体後部は立ち入り禁止で、歩兵が盾にする際に注意が必要になる。
*5 "Firepower Enhancement Package"の略。
*6 Abrams Integrated Management(エイブラムス統合管理)の略。
*7 Force XXI Battlefield Command Brigade and Below:陸軍戦闘指揮システム。
*8 Assault Breacher Vehicle:突撃啓開車輌。
*9 Breacher:切り開く者の意。
*10 Mine Clearing Line Charge.
*11 Combat Mobility Vehicle.