射撃指揮装置3型 FCS−3?

 

 海上自衛隊の新型射撃指揮装置でいわゆる多機能レーダー 。制式名称は00式射撃指揮装置であり、その高い能力からミニ・イージスと呼ばれることもあるが、正確にはFCS−3はイージス・システムではないためミニ・イージスとは呼ばないとも言われる。

従来の射撃指揮装置2型FCS−2を搭載する艦の個艦防空システムは対空捜索レーダー、FCS−2?、そしてシー・スパロー?ないし76mm単装砲などからなっている。このシステムの場合対空捜索レーダーで探知された目標の情報を、オペレーター判断によりFCS−2に手動で移管して追尾に移り、そして攻撃を行うというものであるが、これでは探知から攻撃までのリアクション・タイムが長く、高速化する対艦ミサイルに対処することが難しかった。さらにFCS−2ではセミ・アクティブ誘導のシー・スパロー?を1基につき1発しか誘導できず、多目標への対処は不可能であった。そのためFCS−2?の後継として新型射撃指揮装置である射撃指揮装置3型、通称FCS−3が開発されることになり、さらにFCS−3を組み合わせる戦術情報処理装置ACDS (Advanced Combat Diretion System)?と、新短SAMであるAHRIM(Active Homing RIM)も開発されることとなった。これらが実現すればFCS−3からの目標情報は自動でACDSに送られ、 意思決定もドクトリン管制により自動で行われることになり大幅にリアクションタイムが短縮され、終末アクティブ誘導を用いたAHRIMにより多目標対処能力が大幅に向上することになる。

昭和58〜60年度ごろに当時の防衛庁技術研究本部?において、それまで各種護衛艦に搭載されてきたFCS−2の後継システムの基礎検討、部内研究が行われ、それを経て昭和61年度からFCS−3の研究試作が開始された。新型射撃指揮装置のシステム・コンセプトの検討がなされた結果、射撃指揮装置には捜索機能と追尾機能を併せ持つ多機能レーダーが採用される方向で研究が進んだ。しかしこのような多機能レーダーには従来のような旋回式レーダーでは不可能なため、電波ビームを電子的に振るレーダーが必要であり、さらにアメリカでフェーズド・アレイ・レーダー?SPY−1?を含む画期的なイージス・システム?を搭載したタイコンデロガ級の就役したことにより、FCS−3にフェーズド・アレイ・レーダー方式を採用することとなった。 このフェーズド・アレイ・レーダー?を採用するに当たって課題となっのが、送信機をアンテナ素子に持つアクティブ・フェーズド・アレイ方式か、送信機をアンテナ素子外に持つパッシブ・フェーズド・アレイ方式のどちらを採用すべきかということであった。パッシブ方式は既にイージス・システムに採用されるなどの実績を持つものの技術的にデメリットも多く、またパッシブ方式で使用する高価な大出力送信用電子管を輸入に頼らざるを得ないことがあった。一方アクティブ式は欧米でも開発されておらずまったく実績などはなかったが、アクティブ方式で使用する半導体は国産入手が可能であるほか、信頼性、 冗長性、高効率性、レーダー・パラメーター設定の柔軟性、低被探知性、装備上の自由度、発展拡張性でパッシブ方式に比べ優れており、最終的に技術研究本部はFCS−3にアクティブ方式を採用することを決定した。

昭和61年度〜63年度の研究試作ではCバンドおよびアクティブ方式の基礎的な機能性能を確認するために、約300個の小型アンテナおよび送受信モジュールによって構成されるアンテナが製作された。この研究試作機は昭和63年度に海に近い陸上に設置され、予想以上の成果を収めた。研究試作の成功を受けて平成2年度から開発試作が始まり、 予算の都合上平成2年度から平成6年度にかけて分割発注された開発試作機は、完成した部分が平成5年度から陸上試験が開始され、平成6年度および平成8年度に試験艦「[[あすか]]」に搭載された。そして平成7年度〜8年度に海上技術試験、平成9年度〜10年度に海上実用試験が行われた。 海上技術試験ではF−15やT−4を用いた高機動目標に対する探知追尾性能および多目標追尾性能、曳航標的(TASS)を用いた小型かつ低高度目標の探知追尾性能、5インチ砲弾と同一形状のレーダー標的であるTRAP弾を用いた超小型・超音速目標の探知追尾および対処性能を確認したほか、ウェザー・クラッターおよびシー・クラッター抑圧、操作性、信頼性、整備性、抗堪性などの試験も行われた。特に厳しいEA戦環境下で300発近くが発射されたTRAPを全弾もれなく探知追尾に成功したといわれる。

 平成12年度には00式射撃指揮装置として制式化されたFCS−3であったが、実用化までにはかなり時間がかかることとなる。最初に搭載が検討されたのは「たかなみ」型であったが、結局「たかなみ」型は在来型のFCS−2搭載艦として実現する。「たかなみ」型にFCS−3搭載が見送られた理由としては、

1、艦載砲を76mm単装砲から127mmに変更したためFCS−3の搭載余裕がなくなった

2、開発段階でFCS−3のコストが高騰した

3、組合わせる予定だったAHRIMの開発 遅延

4、開発期間長期化によるFCS−3の陳腐化

が挙げられるが、特に後二者が最大の原因となった。 結局FCS−3が搭載されるのは「ひゅうが」型からとなり、搭載されるにあたりFCS−3は大きく改良されることなった。その改良でもっとも大きな改良点は、ACDS、ASWCS?、EWCSおよび戦術データリンク?をネットワーク化したものであるATECSに対応した点である。また民需品COTSを大幅に導入したのも改良点であり、特にプロセッサーに最新のCOTS?が導入され、「あすか」搭載試作機より二桁ほど処理速度が向上している。またFCS−3と組み合わせる予定だったAHRIMが開発 遅延の末に開発中止となったため、短SAMをAHRIMから発展型シー・スパローESSM(Evolved Sea Sparrow Missile?)に変更し、このESSMのセミアクティブ誘導に必要なXバンド素子で構成されたフェーズド・アレイ・イルミネーターが搭載されることとなった。このXバンドのフェーズド・アレイ・イルミネーター航空自衛隊F−2支援戦闘機?が搭載するJ/APG−1?の素子の技術を流用したものである。ESSMを誘導するためのICWI(間欠連続派照射)のアルゴリズムは、タレス社が開発したAPARシステム?より導入した。これによりイルミネーターによる制限がなくなり、FCS−3は多目標対処能力を持つことになる。以上の改良を受けてFCS−3は名称もFCS−3改と変更された。なお「ひゅうが」ではコスト削減のため試験艦「あすか」に搭載されていたCバンド素子3面分をそのまま流用している。また、「ひゅうが」型のFCS-3には主砲管制装置が搭載されていないのは特注である。 続いてFCS−3改が搭載されることになったのは5,000トン型護衛艦(19DD,「あきづき?型」参照)であり、それによりFCS−3改は再び改良されることとなる。「ひゅうが」型のCバンドアンテナ素子にはガリウム 砒素が使用されていたが、あきづき型のFCS−3改のCバンドアンテナにはガリウム・ナイトライドを使用することでモジュールの出力を3倍以上増加させている。また127mm砲の管制機能も付加された。さらに5,000型に続く平成23年度で計画されるといわれる次の汎用護衛艦、23DD搭載に向けてのFCS−3の改良が計画されている。アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーはパッシブ式は構造的にトップヘビーになりやすく、より小型の護衛艦となる予定の23DDにも搭載できるようCバンドアンテナをそれまでの1.5mから1.2mに縮小するほか、Xバンドアンテナに捜索追尾機能を付与して、Cバンドアンテナは遠距離を、Xバンドアンテナは近距離に専念できるようにすることにより、アンテナ縮小による遠達性の低下を補うという。


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