【B777-3SBER】(びーなななななな さんえすびーいーあーる)

Boeing B777-3SBER.

日本国政府が導入し、航空自衛隊が運用する政府専用機
ボーイング社の大型双発旅客機B777-300ER*1から改装した機体である。
「B777-3SBER」はボーイング社の顧客コードを付した型式表記で、日本国内の公文書では「特別輸送機『B-777-300ER』」と表記している。

ボーイング社の顧客コードは同じ顧客でも契約ごとに一定しない傾向にあり、コード「SB」も本機が初出*2

従来のB747-47Cの後継として2018年に導入。
2019年度から2機(機体記号:80-1111/80-1112)が防衛省航空自衛隊により運用開始された。
主たる用途は皇族・要人・賓客等の外遊、および国外の事変に際して自衛官・避難民及び物資を緊急輸送する事。

法令上、皇族・内閣総理大臣・国賓・衆議院議長・参議院議長・最高裁判所長官が利用してよい事となっている。
しかし、防衛省所管の国有財産であるため使用要件は厳しく、単に要人が移動するだけの理由では使用許可が下りないという。
また、道路・鉄道網が高度に発達している日本の国土事情では空路を選択する機会自体それほど多くない。

関連:B777 B747-47C エアフォースワン VC-25A シグナス(コールサイン) ボーイングビジネスジェット

運用体制

現在の機体の所属は航空支援集団特別航空輸送隊・第701飛行隊。根拠地は千歳基地
部隊の庁舎は基地側にあるが、本機の格納庫・専用スポット及び整備拠点は新千歳空港側にある。

乗員および整備員は全て航空自衛官から選抜されている。
一方、重整備・改装・国内の空港におけるグランドハンドリングは一部がANAホールディングス全日本空輸)に委託されている。

また、航空自衛隊B777の運用教則を保有していないため、以下の訓練項目についてはANAホールディングス全日本空輸)の関連会社に出向して受講している。

機長副機長
B777-300ER限定の事業用操縦士資格。
本機は自衛隊機であるため航空法の適用を除外されているが、実務上の理由から習得が求められる。
フライトアテンダント*3
要人の饗応などに際して必要となる、客室乗務員としての教育。
航空整備士
B777限定の航空整備士資格。
操縦士と同様、本機は自衛隊機であるため航空法の適用を除外されているが、実務上の必要から習得が求められる。
また、部外の有資格者を技術空曹として入隊させている場合もある。
機上無線員(参考)
総務省が認定する航空無線通信士*4資格*5
本機は自衛隊機であるため、無線設備の取り扱いについては電波法の適用を除外されているが、(搭乗する要人の政治的秘密通信も扱う)実務上の理由から習得が求められる。
また、航空整備士と同様、部外の有資格者を技術空曹として入隊させている場合もある。

機体自体は2マンクルーだが、要人輸送という任務の性質上、偵察航法幹部機上無線員を搭乗させる場合がある。

本機による要人輸送時、機体は基本的に2機一組(主務機*6・副務機)で行動するが、副務機は目的地からの帰路、主務機が任務を果たせると判断した場合には羽田に立ち寄らず、直接千歳帰投することが多いという。

機内構成

コックピット
操縦系統は通常のB777と同じ2マンクルー操縦輪方式だが、偵察航法幹部機上無線員の席も用意されている。
軍用機としてIFFミサイル接近警報装置・軍用UHF無線機*7などを装備していると推定される(機密につき詳細非公開)。
なお、前作のB747-47Cにあった天測用ハッチはないため、駐機中の国旗はコックピットの窓から出すことになっている。
運航要員区画
座席はエコノミークラス相当(推定)。機体の前部にあると推定される。
貴賓室等
配置は非公開だが、状況証拠からL2・R2ドア近辺に存在するものと推定される。
(L2・R2ドアの上部に日章旗が描画されており、また賓客はL2ドアから出入りしている。加えて、R2ドアは常時締め切られている)
会議室
6席。パーテーションで区切ることで2室に分けることができる。
事務室
ファクシミリやコピー機、ワークステーションなどが置かれているとみられるが、詳細は不明。
随行員区画
座席はビジネスクラス相当・21席。
一般区画
座席はプレミアムエコノミー相当・85席(通常)。
マスコミ関係者などの民間人が搭乗する際には運賃が請求される(エコノミークラス相当とされるが金額は非公開)。
ギャレー(数か所)
一般のエアライン向け旅客機と同様、機内食・ドリンクの準備などを行う。
食材は日本国内で調達するものと現地調達するものがあり*8、栄養ドリンクなども供される。
貨物室(階下)
B747-47Cと同様、任務に必要な貨物が随時積み込まれる他、海外の寄港先で不具合が生じた場合に備えてスペアパーツ類が搭載されているという*9

上記、座席のグレードは全日本空輸の基準による。

前任のB747-47Cには座席ごとの娯楽設備はなかったが、本機の座席には、現代の国際線の旅客機相応の娯楽設備が設けられている。
また、機内Wi-Fiによるインターネット接続も可能*10で、飛行中のインターネットを通じた情報収集や発信が可能となっている。

このためか、B747-47Cに備えられていた「記者会見席」は廃止されている。

導入の経緯

日本政府は1992年以来、B747-400をベースとしたB-747-400(B747-47C)を政府専用機として用いていた。
しかし就航から20年以上の時間が経過した事により運用寿命が近づいてきた。

加えて、当時日本でB747の重整備を行えた二社の航空運輸業者(全日本空輸(ANA)日本航空(JAL)*11が(運航コストの問題などから)いずれもB747*12の退役を決定。
(前記の理由から、両社ともB747の最新モデル・B747-8*13は発注しなかったため)これによってB747-47Cの運航体制は維持できなくなると判断され、日本政府は2014年に後継機種の選定に着手した。

後継機種としては以下の三機種が選定の対象となった(機種名の後のカッコ書きはビジネス機仕様の型番)。

ボーイング B787BBJ 787
航続性能が高く、国内民間航空会社での運用実績もあったものの、「兵員・避難民の輸送」を想定する場合にペイロードが不十分。
加えて、構造材に新規の複合材を多用している、就航後まもなく火災事故*14を続発させたなど、長期運用における信頼性に乏しい。
これらの理由から不採用。
エアバス A350-900ACJ350*15
2014年当時は国内での運用実績がなく*16、関連企業に運航支援を依頼できる状況になかった。
航空自衛隊エアバス旅客機を取り扱った経験がなく、運航体制の構築が著しく困難だった。
また、エアバス社自体も日本国内との接点が比較的薄く*17、要望対応などに際して遅延などの問題発生が予測される。
加えて、操縦系統が操縦輪ではなくサイドスティックであるため、それに合わせたパイロットの転換訓練も必要となる*18
以上の理由から不採用。
ボーイング B777-300ERBBJ 777(-300ERモデル)
上記二機種と比較して、ペイロード*19航続性能に優れ、また国内航空会社でも運用実績があり、支援体制も整えやすい点が評価されて採択され、B747-47Cと同数の2機を発注*20
機体はBBJ 777(-300ERモデル)として2016年に完成し、スイスのバーゼルでVIP輸送機及び軍用機*21としての改装を受けた後に千歳基地回航された。
1号機「N509BJ(→80-1111)」の到着は2018年8月、2号機「N511BJ(→80-1112)」の到着は同年12月。

なお、アメリカのVC-25Aの後継機候補となっていたB747-8IC(BBJ 747-8)A380(ACJ380)は当初から選定対象外だった*22

また、これと併せて、運航支援にあたる業者も公募。
B777-300ERで応募した二社が選定の対象となり、ANAホールディングスが採用された。

日本航空
B777を保守する設備・技術を喪いつつあるものと判断され、不採用。
当時、老朽化したB777(及びB767)の代替としてA350-900/-1000を導入する計画を持っていた。
ANAホールディングス
納期やサポート体制に関して日本航空に優ると判断され、採用。
当時、日本航空と同じ目的でB777系列の近代化モデル(B777-9)を導入する計画を持っていた。

*1 正確にはビジネス機仕様のBBJ 777(-300ERモデル)
*2 これは、「日本政府のために作られたワンオフモデル」の機体だったB747-47CE-767の時とは異なり、本機がボーイング社のビジネス機ボーイングビジネスジェット」の一機体として受注され、日本政府がその「新規顧客」として扱われたことも影響しているという。
*3 ロードマスターのスキルを持っている隊員から選ばれる。
*4 エビエーターの資格としての「航空通信士」とは無関係。
*5 一般には機長副操縦士がこの資格を取得して業務にあたっている。
*6 基本的に1号機(80-1111)が務めるが、例外的に2号機(80-1112)が務める場合や、単機で運用される場合もある。
*7 民間機は通信にVHFを用いている。
*8 アメリカの大統領専用機とは異なり、機内食への毒物混入の危険性について考慮されているかについては疑わしい面がある。
*9 このため、単機での要人輸送も可能であるが、万が一の事態を考慮して基本的に2機一組で運用されている。
*10 このため、機体上部には衛星通信用のアンテナがある。
*11 B747の運用自体はこの二社の他に日本貨物航空(NCA)が行っていたが、同社にはB747の重整備を行える施設がなかった。
*12 この時点で現役に残っていたのは-400/-400Dだった。
*13 B747-8B747-400を基にしているため、B747-400の運航・整備資格を持っている乗員整備員であれば短期の転換訓練で移行できるよう配慮されていた。
*14 電源として搭載されていたリチウムイオン電池が原因であった。
*15 なお、ACJ350はその後、2019年にドイツ空軍政府専用機として採用している。
*16 その後、日本航空が2019年に採用している。
*17 この当時、東亜国内航空/日本エアシステム(その後、日本航空との経営統合に伴って引継)にA300/-600全日本空輸スターフライヤーピーチ・アビエーションバニラエアジェットスター・ジャパン及びエアアジア・ジャパン(2代目)にA320スカイマークA330を販売・リースしていたが、フラッグキャリア日本航空への販売実績はなかった。
*18 操縦輪サイドスティックでは操作感覚が激変するため、それに対応した訓練を行わなければならないが、少数の採用しか見込めない機体のために新たに訓練施設を設置する必要があるなど、トータルコストが非常に高くなる。
*19 原型のB777-300ERは、モノクラスならば(B747-400に匹敵する)550席まで収容可能なペイロードを持ち、加えて、機内に客室・貨物室とは別に乗員用の休憩室を設けることが可能だった。
*20 本来、政府専用機には3機(主務機・副務機・非常時待機)以上が必要とされているが、日本国の財政事情とB747-47Cの運用実績から2機のみの発注にとどまっている。
*21 アメリカ空軍空中給油機輸送機として提案されていた「KC-777」が不採用となったため、本機がB777初の軍用機型となった。
  なお、前任のB747-47Cアメリカ空軍輸送機として提案された「C-33」が不採用となり、B747-400初の軍用機型となった。

*22 両機種ともA350と同様、国内航空会社での採用がなく、運航支援体制の構築が困難だったことに加え、後者は2階部分の客室に接続できるボーディングブリッジが必要になるなど、運用可能な空港飛行場が制限されることも原因とみられる。

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