【B747-47C】(びーななよんなな よんななしー)

Boeing B747-47C.

ボーイングB747-400旅客機のうち、特に航空自衛隊が運用していた日本政府専用機(カスタマーコード"7C"*1)を指す型式番号。
ボーイング社内における規定であり、日本国の公文書では「特別輸送機B-747-400」と呼称していた。

超大型旅客機B747-400の国際線仕様をベースに、貴賓室・会議室などが追加されていた。
ただし、アメリカ空軍が運用する同様の機体であるE-4VC-25A(共に200Bベース)と違い、空中給油には非対応であった*2
主として要人の外国への公式訪問に使用されていた他、事変に際して自衛隊や在外邦人の緊急輸送を行う事も想定されていた*3

乗務員整備士・運航スタッフは全て自衛官で占められていた*4が、航空自衛隊B747-400の運用教則を保有していなかった。
このため、乗員及び整備員の教導・機体の重整備・改装・国内の空港におけるグランドハンドリングなどは一部日本航空に委託されていた*5

なお、2011年に日本航空からB747が退役した後は、機体関連資格の取得支援業務はB747Fを運航する日本貨物航空に引き継がれた。

法令上、皇族・内閣総理大臣・国賓に類する賓客・衆議院議長・参議院議長・最高裁判所長官が利用してよい事となっていた。
もっとも、道路や鉄道網が高度に発達している日本国内の交通事情ではあえて政府専用の旅客機を手配するような公務は少なく、(ほぼ同型・同目的のVC-25Aと比較して)飛行回数は多くはなかった*6
また、用途もあくまで公務のみに限られており、単に要人が移動するからというだけの理由では使用許可が下りなかった。

このため、導入当初は「宝の持ち腐れ」との批判もあったという。

1992年の就役以来、長らく要人・賓客・自衛官などの輸送にあたってきたが、2019年3月をもって全機退役*7
これはB747-400が旧式化し、民間各社で機材更新*8が行われて保守管理が困難になった事に因る。
後継機にはB-777-300ER*9が充てられ、これに併せて機体整備などの委託先も日本航空からANAホールディングス(全日本空輸)に移された。

関連:エアフォースワン シグナス(コールサイン) VC-25A B777-3SBER

退役後の処遇について

退役後の機体は保存・展示も検討されていたが、機体の大きさなどから断念。
貴重品・軍用機器を除装した上でリサイクル業者「エコネコル社」に約14億円(2機合計)で売却され、アメリカ・アリゾナ州のピナル・エアパークに回航された。

その後、1号機(20-1101)はアメリカ籍の民間機の機体記号「N7474C」に変更され、旅客型として29億円で売りに出されている。
一方、2号機(20-1102)は同じくアメリカ籍の民間機の機体記号「N7477C」に変更され、イスラエルのテルアビブへ回航されて貨物機へ改修される予定であったが、2021年現在も1号機と共にピナル・エアパークに留め置かれている。
なお、2021年現在、両機ともパーツの一部が他機に転用されて失われているとの未確認情報もある。

なお、貴賓室の調度品は離日前に撤去され、浜松広報館および石川県立航空プラザにて保存・展示されている。

導入の経緯

本機は、日本政府が初めて導入した政府専用機である。

これ以前の公務海外旅行には、事実上のフラッグキャリアであった日本航空のチャーター便で対応していた*10
しかし、1980年代のイラン・イラク戦争の際、イラン国内邦人保護に利用できる航空機が存在しなくなるというアクシデントが発生。
加えて、当時の自衛隊も海外展開を全く想定していない体制であったため、現地に派遣可能な機体は事実上存在しなくなってしまった。
この醜態を受け、危地に送り込む事も想定した政府専用機が改めて必要となった。

この時、特別機の派遣が日本航空に要請されたが、日本航空はこの要請を安全上の理由で拒否した。
戦争当事者であるイラク政府がイラン上空を飛行禁止区域に設定し、飛翔体に対する無差別攻撃を宣言しており、派遣した機体が撃墜・拘束される危険性が高かった。
また、開戦に伴ってイランへの定期便は休止され、人員も撤退していたため、(再)乗入準備を行える体制が存在していなかった。

なお、件の邦人は結局のところトルコ政府が派遣したトルコ航空*11の特別機などにより救出されている。

1987年、ボーイング社と購入契約を締結して2機を発注、1991年に引き渡された*12
当初、本機は総理府(現:内閣府)の所有する民間機扱い*13だったが、翌1992年に航空自衛隊へ移管され、軍用機扱いとなった。

当初「民間機」扱いにされていたのは、導入当時、日本が抱えていた世界的な問題である「対外貿易黒字」の削減という一面もあったという。

当時の総理府は安全確保のために3機の導入を望み、実際に3機分の機体記号(JA8091〜JA8093*14)が予約されたが、予算の都合で2機(JA8091(→20-1101)・JA8092(→20-1102))しか導入されなかった。
その後も防衛庁は予備機*15の導入を検討していたが、予算を捻出できないままに終わっている。
これは北朝鮮の核兵器弾道ミサイル開発進展に伴い、肥大化したミサイル防衛費に予算を圧迫されていた事に因る。

内装

「VIP専用機」としてかなりの改装が施されており、座席数は150席程度と言われていた。
キャビンの構成は以下のようになっていたという(2019年3月時点の最終状態)。

一階席
貴賓室・夫人室・シャワー室などのある機体前部区画は現役当時は公開されておらず、退役後に報道陣に公開された。
貴賓室
機首部にあった(席数5席)。
衛星電話を備えた執務机やソファー(6脚)などが備えられ、ソファーは長距離飛行の際にはベッド(2床)に転換することもできた。
護衛官席
2席。機体前部L1ドア(要人たちはここから出入りしていた)*16の近くにあった。
夫人室
貴賓室に隣接しており、専用の化粧台などが備えられていた。
シャワー室・洗面台
秘書官室
11席。座席の規格はビジネスクラス相当。
会議室
4席。必要に応じて一般客室に変更可能だった。
事務室
2席。同上。
随行員室
33席。秘書官室と同様ビジネスクラス相当の座席。
一般客室
89席。プレミアムエコノミー相当の座席。マスコミなどの民間人に対しては運賃が請求されていた(金額は非公開)。
記者会見席
3席。一般客室内に対面式で設置されていた。
ギャレー
数か所。乗客に対する機内食*17やドリンク*18の準備などを行う。
二階席
コックピット
軍用機として敵味方識別装置ミサイル接近警報装置・軍用UHF無線機などを搭載。天井の天測用ハッチに国旗を立てることもできた*19
操縦系統は2マンクルーだが、機長副操縦士に加えて偵察航法幹部が乗務して3名で運用されていた。
通信室
搭乗中の要人が行う通信を担当しており、専属の機上無線員(航空通信士)が詰めていた。
なお、この部分は退役後も非公開であった。
運航要員室
25席。一部を除き国際線のエコノミークラス相当の座席。一部プレミアムエコノミー相当の座席も設けられていた。
休憩室
階下
貨物室
海外の寄港先で不具合が起きた際に備えて各種のスペアパーツが収納されていた他、タラップボーディングブリッジのない空港飛行場に着陸した際に備えて収納式のエアステアが備えられていた。

座席のグレードは日本航空の基準による。
ただし、2010〜2020年代の一般的な国際線用旅客機に見られるような「座席ごとの娯楽設備」は設置されていなかった。
また、遮音性が低いために飛行中の騒音も大きく、機内での会話には大声で話す必要があったという。


*1 ボーイングの顧客コードは同じ顧客でも契約により一定しない傾向にあり、本機の後継として日本政府が導入したB-777-300ERでは「SB」が与えられている。
  なお、これは本機とB-777-300ERの受注における事情の違い(後者がボーイングビジネス機ボーイングビジネスジェット」の一機体として受注され、日本政府がその「新規顧客」として扱われたこと)が原因と見られている。

*2 また、VC-25Aにはあった緊急離陸用の予備燃料タンクも備えられていなかった。
*3 実際に、本機による在外邦人や自衛官の輸送が行われたこともある。
*4 自衛隊機は航空法の適用を除外されているが、部外(日本航空)での教育により、B747-400限定の操縦整備資格を得ていた。
*5 日本航空が委託先に選ばれたのは、本機の就航前から日本国のフラッグキャリアとして、国内外のVIP輸送を多く経験してきたことと、B747シリーズ(-SP及び後年の-8を除く)を合計110機運用した同機最大の顧客でもあり、機体の取扱に慣れていたためでもある。
*6 もともと、軍用機は民間機に比べて地上待機の時間が長い傾向にある。
  このことと航空自衛隊の高い整備技術もあって、現在の本機はB747-400の中古機の中でも特に状態の良い機体だという。

*7 なお、本機は日本籍のオペレーターが運用していた最後のB747-400でもあった(これより以前、日本貨物航空が運用していた貨物型が全機退役していたため)。
*8 21世紀に入ってから、民間各社のフリートは小型〜中型の双発機が主流となり、また、燃料費が高騰したこともあって、大型の四発機であるB747は「燃費効率の悪い機体」になっていた。
  このため、国内大手航空会社二社(日本航空全日本空輸)とも、B747-400の直接の後継となるB747-8の発注は行わなかった。

*9 正確にはビジネス機モデルのBBJ 777(-300ERモデル)がベースとなっている。
*10 このこと自体は、「政府要人の空路移動には、その都度民間機を借り上げる」という国も多く、合理的な判断といえた。
*11 現:ターキッシュエアラインズ。
*12 新造時のアメリカでの機体記号は「N6055V(→総理府JA8091→航空自衛隊20-1101)」「N6038E(→総理府JA8092→航空自衛隊20-1102)」だった。
*13 当時は航空自衛隊から総理府に「技官」待遇で出向してきた航空自衛官が運用していた。
*14 この機体記号は2021年現在、JA8000番台の中でも数少ない未使用番号となっている。
  なお、現在、国土交通省は「タービン機の番号」であるJA8000番台の機体記号の発給を行っていない(空き番号が当番号を含めて16機分しかなく、事実上枯渇していることによる)ため、今後も使用される見込みはないものと思われる。

*15 航空自衛隊で空中給油機AWACS?として用いられているB767などが検討されていた。
*16 この真上に日章旗の図案がペイントされていた。
*17 食材は千歳基地羽田空港で調達するものと現地調達するものがあった(アメリカのVC-25Aの場合、機内食への毒物混入の危険を考慮して食材の調達はアンドリューズ空軍基地でのみ行われている)。
*18 栄養ドリンクなども供されていた。
*19 この機能は特別機として使用されることを想定した一般の旅客機にも搭載されているという。
  なお、後継のB-777-300ERにはこのハッチがないため、駐機中の国旗はコックピットの窓から出す形になっている。


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