【AH-1】(えーえいちいち) †

Bell AH-1 Cobra(コブラ)
アメリカのベル?社が1960年代に開発した、世界初の実用攻撃ヘリコプター。

先にベル社がアメリカ軍に納入していた汎用ヘリ・UH-1の改良型という名目で開発されたが、対地攻撃を主任務とするという新しい概念を取り入れたため大きく設計変更され、やや尾部に面影を残すのみである。
特に胴体の幅は、できるだけ被弾面積を小さくしたため1m未満（幅990mm）しかない。（幅は型により異なる）
胴体幅を狭くしたまま操作をパイロットとガナーに分担したため、コックピットはタンデム複座式となり、武装は胴体横のスタブ翼に施した。以後このスタイルは攻撃ヘリコプターの一般的な構成となった。
また機動力を重視したため、ローターから抗力の大きなスタビライザー・バーを廃し、かわりにドアヒンジローターを採用して速度を向上させた。

何度も改修されたため、後述のように様々なバリエーションが存在している。
当初の運用者であったアメリカ陸軍では、後継のAH-64に主力の座を譲ったものの、海兵隊では最新型のZ型が運用されており、初期のタイプと比べ武装から運動性能・整備性・生存性など、あらゆる能力を圧倒的に凌駕している。

日本の陸上自衛隊では、「近代化AH-1S（AH-1F）」または「AH-1F C-NITE」に相当するモデルを「AH-1S」として採用している。
主武装には、20mmM197三砲身ガトリング砲・BGM-71（TOW）対戦車ミサイル・JM261ハイドラ70 2.75inロケット弾ポッドを装備している。

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開発の経緯 †

アメリカ陸軍は、ヘリコプターを航空隊に導入した1950年代の早い時期から「ヘリコプターに武装を施し、空中からの火力支援を行う『空飛ぶ砲兵』」としての使い方を模索していた。
しかし、空軍?が「攻撃機と任務が重複する」として難色を示していた*1こともあって、汎用ヘリに機関銃やロケット弾、ミニガンなどを搭載した「ガンシップ」という形で対応することにした。

そして、1960年代に勃発したベトナム戦争ではUH-1のガンシップ型が作られ、ヘリボーン作戦における輸送ヘリコプターの護衛や対ゲリラ掃討戦に投入されることになったが、実際に運用してみると
「いろいろな装備を載せたため、速度・機動性が大きく削がれる」*2
「生存性が著しく欠けていて、たった1発の拳銃弾でもパイロットが死亡・人事不省になって操縦不能になり、墜落してしまう」*3
といった欠陥が露呈してしまった。

これらについては「エンジン出力を強化した型を優先的にガンシップとして投入する」「コックピットの周りに装甲板や防弾ガラスを追加する」などの対策が採られたが、問題の根本的な解決には程遠かった。

そこで1960年代半ば、アメリカ陸軍は攻撃専門ヘリコプターの競争試作「AAFSS（新型空中火力支援システム）コンペティション」を実施、これに応えてロッキード社の提出した案をAH-56A「シャイアン」として採用することにした。
しかし、AH-56Aは開発が進むにつれて納入価格や技術面での種々の問題が露呈して実戦化が難航してしまったため、陸軍は、インドシナ戦線向けに即時投入できる暫定的な代替機を各社に試作させた。
この競争試作は、「既存の機体で、即時攻撃ヘリコプターに転用可能なもの」という条件で行われ、5機種*4がノミネートされたが、このうち、ベル社が提出した案「ベル209」を制式採用したのが本機である。*5
これは「場つなぎ」の採用になるはずだったが、その後、AH-56の実用化が断念されたため、本機は名実ともに世界初の攻撃ヘリコプターとなり、長きに渡って使われることになった。

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スペックデータ †

乗員2名（前席：射撃手、後席：操縦士）
全長16.18m
全高4.09m
主ローター直径13.41m
回転円盤面積141.2��
空虚重量2,993kg
最大離陸重量4,536kg
エンジンライカミング T53-L-703ターボシャフト（推力962kW）×1基
速度123kt（最大）
海面上昇率494m/min
実用上昇限度3,710m
ホバリング高度限界3,720m（IGE）
航続距離275nm
兵装M134 7.62mm機関銃×1門またはM129 40mmグレネードランチャー×2門（AH-1G）
M197 3砲身20mm機関砲×1門（AH-1S）
TOW対戦車ミサイル×最大8発
JM261 ハイドラ70ロケット弾ポッド（ロケット弾19発）×2基等


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バリエーション（陸軍型） †

  • AH-1G
    初期型。愛称は「ヒューイコブラ」。*6
    ベトナム戦争における対ゲリラ戦闘に対応した兵装が搭載されていた。

  • TH-1G
    G型に複操縦装置を搭載した練習機型。

  • AH-1Q
    旧東側（ワルシャワ条約機構）各国軍（ソ連軍・東ドイツ軍など）との対戦車戦闘向けに改修された型。
    TOW対戦車ミサイルの運用能力を有し、機関砲をターレット状に変更している。

  • AH-1R
    G型のエンジン出力向上型。S型のテストベッド機。

  • AH-1S
    AH-1GとAH-1Qを改修した型。
    エンジンやトランスミッションが強化された他、風防形状の変更や搭載機器の改良等の改修が行われた。

  • AH-1P
    AH-1S準拠の新造機で、キャノピーと計器を改善した、旧称「量産型AH-1S」

  • AH-1E
    旧称「アップガンAH-1S」
    機関砲と照準器をターレット?に装着して攻撃の自由度を強化した型。

  • AH-1F
    旧称「近代化AH-1S」
    赤外線抑制装置?の追加やレーザー測距器、火器管制装置を搭載して隠密性を向上させるなどした型。

  • AH-1F C-NITE
    AH-1Fに暗視照準器を追加した夜間戦闘対応型、通称「コブラナイト」

  • TH-1S
    S型をAH-64の操縦士訓練用に改修した練習機型。

  • YAH-63
    ローターブレードを4枚化するなどした発展型試作機。AH-64に破れ不採用。
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バリエーション（海兵隊型） †

参考リンク：http://www.mb-aero.net/contents/products/bell_defense/ah-1z.html

ah1.JPG

AH-1S(JGSDF)

*1 これはA-1、A-4、A-6、F-4といった独自の固定翼攻撃機を持つ海兵隊がガンシップ導入を渋ったのと同じ理由である。
*2 ヘリボーン作戦の護衛任務の際、（護衛対象である輸送ヘリとの）離陸のタイミングが少しでも遅れたり、途中で敵の待ち伏せ陣地を見つけて対地攻撃をしたりすると、もう追いつけなくなってしまった。
*3 ヘリコプターのパイロットは飛行中、サイクリック・コレクティブという2本の操縦桿を使うため、両手が常にふさがっている。
*4 シコルスキーS-61、カマンUH-2、ボーイング・バートルACH-47、パイアセッキ16H、ベル209
*5 ただしベル209の開発そのものは、この競争試作より以前よりベル社が独自におこなっていた。
*6 これまで米陸軍の制式採用ヘリには、大陸原住民の種族名が愛称として採用されていたが、本機ではこの慣例が破られた。

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