【A-10】(えーてん)

Fairchild A-10 "Thunderbolt(さんだーぼると)II(つー)"

フェアチャイルド社がワルシャワ条約機構ソ連・東ドイツ軍が主体)の機甲部隊を攻撃するために設計・開発した近接航空支援専用の重攻撃機
対戦車戦を想定した機体のため、低速域での操縦性に優れる低翼式直線翼を採用、コックピット周辺は厚さ1.5インチものチタニウム製装甲に覆われ、エンジンも被弾を避けるため主翼垂直尾翼に隠れるようなデザインとなっている。
多少の被弾でも問題なく飛行でき、また整備性も非常に良好で、機体の稼働率も高い。

本機は23ミリ弾に対する防御能力を持つと言われているが、これは機体が開発された当時、東側の火器管制技術において航空機に対して使用されると想定されていた「対空榴弾」での話であり、(空中炸裂しない徹甲弾ですら航空機に命中させられるほど改良の進んだ)近年の東側対空火器に対しては無力であることが、イラクにおいて証明されてしまった。

現状においてアメリカ軍は本機を大量の兵装搭載能力を生かした「空飛ぶ弾薬庫」として使用している。

本機を最も特徴づけているのは、本機専用に開発されたGAU-8/Aアヴェンジャー・30mmガトリング砲で、最大毎秒67発という発射サイクルで徹甲弾劣化ウラン弾を発射できるこの武装は、戦車・装甲車など現存するあらゆる車両を破壊可能である。
しかし、地対空ミサイルや自走対空機関砲を持つ強力な地上部隊に対する機銃掃射は自殺行為に他ならず、1991年の湾岸戦争において、「フセイン大統領警護隊」と呼ばれたイラク軍の最精鋭部隊「メディナ師団」に攻撃を敢行したA-10部隊は、同師団の防空部隊が装備していたSA-13で立て続けに2機を失い、その任務をF-111へと引き継いだ。
そのほかにも、AN/AAS-35「ペイヴ・ペニー」レーザー目標指示器・ペイブウェイ誘導爆弾やAGM-65 マーベリックによる精密攻撃能力を持つ。

しかし速度が非常に遅い、などの問題点を揶揄するように
「鳥に追突される」
「機関砲の射撃の衝撃で機体が減速したり(ここまでは本当。実際にはわずかに減速する程度*1)、ボルトが緩む」
などと冗談が言われるほどで、配備当初はすぐに退役させるような風潮があったが、湾岸戦争において稼働率、攻撃力の高さ、機体のタフさ*2が示され、現在も攻撃機FAC機として空軍・州空軍で活躍中である。
近年では、FAC任務用に地上部隊と直接交信可能な無線機を追加したOA-10、グラスコックピット化を行い、精密誘導兵器を運用可能にしたA-10Cと呼ばれる改修型が作られている。

また、フェアチャイルド社は練習機SEAD機・海外市場向けとして、INSFLIR、電波高度計などを装備した複座の夜間/全天候型YA-10Bを開発したが、これは採用に至らなかった。

正式な愛称は"ThunderboltII"だが、"Warthog(ウォートホグ)"(いぼいのしし)という俗称もある。

なお、この機は純粋に対地攻撃用として開発された機体であるため、レーダーは装備していない。
そもそも速度の差は歴然としているため、対空戦闘をこなすよう開発された戦闘機相手では全く歯が立たないので無意味である*3
しかし、一度ホバリング中のヘリを機関砲で撃墜した実績も持つ。

関連:FAC タンクバスター ガンシップ サイレントガン Il-2

スペックデータ

乗員パイロット1名
全長16.16m
全高4.42m
全幅17.42m
主翼面積47m²
空虚重量9,771kg
運用重量1,1321kg
最大離陸重量22,680kg
エンジンGE TF34-GE-100ターボファン(推力80kN・A/B?無し)× 2基
巡航速度560km/h
戦闘行動半径540nm(深部侵攻)
250nm(CAS、1.7時間のロイター)
フェリー航続距離4,100km
実用上昇限度13,640m
上昇率1,830m/min
固定武装GAU-8/A「アヴェンジャー」30mmガトリング砲×1基(装弾数1,174発)
兵装下記兵装を胴体下・翼下のハードポイントに最大7tまで搭載可能。
AIM-9「サイドワインダー」×2発
AGM-65 マーベリック空対地ミサイル×8発
Mk.77 750lb焼夷爆弾
GBU-15 TV誘導?/赤外線誘導爆弾
各種ナパーム弾(BLU-1・BLU-27)
Mk82/83/84
クラスター爆弾各種(BLU-1、BLU-27/B Rockeye II、Mk20、BL-755、CBU-52/58/71/87/89/97)
ペイヴウェイレーザー誘導爆弾
JDAM(C型)
LAU-61/LAU-68ロケット弾ポッド×4基(ハイドラ70 70mmロケット弾を搭載)
LAU-5003ロケット弾ポッド×4基(CRV7 70mmロケット弾を搭載)
LAU-10ロケット弾ポッド×6基(ズーニー 127mmロケット弾を搭載)
SUU-42A/A チャフ/フレアディスペンサーポッド
AN/ALQ-131 & AN/ALQ-184 ECMポッド
増槽(600 US ガロン)


派生型

  • YA-10A
    試作機。2機製造。

  • A-10A
    前量産型。

  • A-10A
    量産型。1976年より部隊配備。

  • OA-10A
    前線航空管制機型。

  • YA-10B
    別称Night/Adverse Weather A-10。夜間全天候攻撃型の複座実験機。
    前量産初号機 (73-1664) を改装。一機のみ試作され、2008年現在、アメリカ空軍フライトテストセンター博物館に展示されている。

  • A-10C
    グラスコックピット化。A型の改修。2005年初飛行。

    a10.jpg
    Photo: USAF

*1 反動は約2トンと言われる。これは搭載エンジンの片方分の推力とほぼ同じである
*2 湾岸戦争で80-8186号機が対空砲火で384箇所の破孔を生じながらも生還したほか(修復後任務に復帰)、イラク戦争で80-258号機がSAMによって右エンジンカウルを吹き飛ばされながらも生還している。
*3 活動するのは友軍が航空優勢を確保した場所なので、戦闘機と遭遇することがまずない。

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