【89式小銃】(はちきゅうしきしょうじゅう)

64式小銃の後継として豊和工業が開発・生産している、自衛隊の制式自動小銃
1978年に開発が開始され、「HR16」として完成した後、1989年に89式小銃として制式採用された。
事実上の愛称は「はちきゅう」。*1
自衛隊の他に海上保安庁や警察でも使用されている。

本銃の設計にあたっては、アーマライト社のAR-18がベースとされた。
64式小銃との主な相違点は以下の通り。

  • 材の削り出し加工を廃止してプレス加工を多用
  • 銃床や銃把などを強化樹脂で成形
  • 弾丸の小口径化およびNATO標準弾との互換化
  • 構造の単純化による整備性の向上

カタログスペックでみれば、世界的に見ても高水準な小銃の一つで、日本人の体格に合わせて設計されているため取り回しも良い。
アメリカで行われたアメリカ陸軍の兵士によるテストでも命中率の高さ、耐久性などが高く評価された。

しかし、武器輸出三原則等を掲げる日本の政治的事情から、費用対効果が絶望的に低い(一挺辺りの単価は平成17年度時点で32万円で、M16の約10倍)。

発射方式はフルオートセミオート、三点バーストの切り替えが可能。
バースト機能はユニット式で、取り外してセミオートフルオートだけにする事も可能。*2
一般的な自動小銃とは異なり、セレクターレバーは右側に取り付けられている*3
イラク復興支援部隊用として調達されたバリエーションでは左側にもレバーが追加されたが、派遣終了後は通常仕様に戻された。
しかしその後、市街地戦闘訓練を経た改善として、再び左方切換レバーの取り付けが始まっている*4
また、この改修と同時に切換レバーとの干渉を避ける溝をつけたタイプの銃床の配備も行われている。

使用弾薬はNATOの第二標準弾「SS109」(5.56mmx45)との互換性を持つ「89式弾薬」。
弾倉は箱型で、アメリカ軍のM16などの弾倉を流用する事も可能。
反動の少なく軽量な高速小口径弾であり、携行弾数も多いが、長距離の狙撃には向かない。

作動方式はガス圧を動力にピストンで駆動させるガスピストン方式であるが、これは、燃焼ガスによる機関部の汚濁に配慮して採用したとの事である。
フロントサイト下にあるガスレギュレータを調整する事で、アダプターを用いずに空砲が撃てる。
また、銃の前部に89式多用途銃剣、銃口に06式小銃擲弾が装着できる。

バリエーションとして固定銃床型の他に、空挺部隊や戦車乗員用の折り曲げ銃床型がある。
また、短銃身仕様や分隊支援火器仕様も試作されたが、正式採用には至らなかった。
補器装着は想定されていないが、サイトロン・ジャパン社などが本銃用に規格をあわせた補器類を販売している。

性能諸元

口径5.56mm
全長約920mm(固定銃床型)/約670mm(折曲げ銃床型)
銃身長420mm
重量3.5kg(弾倉除く)
ライフリング6条右転
使用弾薬89式5.56mm普通弾
装弾数20発/30発(箱型弾倉)
作動方式ガス圧利用(緩衝撃ピストン)式ターンロックボルト
銃口初速920m/秒
発射速度850発/分(最大)
有効射程500m
製作豊和工業


so22b.jpg

Photo: JGSDF


*1 公募によって決まった「BUDDY(バディ)」という愛称があるが、自衛隊兵器の例に漏れず、公的な愛称はほぼ広報でしか通用しない。
*2 セレクターレバーは「ア、レ、3、タ」、つまり安全装置、連射(フルオート)、3点射(バースト)、単発(セミオート)の順。
  人間工学的に「ア、タ、3、レ」や「ア、タ、レ、3」と並べた方が効率的ではないかという指摘もある。

*3 陸上自衛隊では匍匐前進の際に銃の左側を下に向けるため、普通の小銃では地面とレバーが接触してしまう。
  また、担いで歩く際に衣服とレバーが接触しないようにする意図もある。

*4 何故そのような経緯を辿ったのかはよくわからない。
  もっとも、兵器の開発・改修計画が部外者には全く理解不能な経緯を辿るのは珍しい事ではないが。


トップ 新規 一覧 単語検索 最終更新ヘルプ   最終更新のRSS