【礼砲】(れいほう)

Gun Salutes.

儀礼や式典のために、破壊・殺傷の意図なく火砲を発射する事。
実際に砲弾を用いる事はなく、空包に点火して音だけを立てる(少なくとも、正規の式典では)。

かつての時代、友好関係を結ぼうとした勢力が「攻撃の意図がない」事を示すために全ての砲を使用済み・発射不能状態にした事を起源とする。
現代ではもはや実質的な意味をもたない行為だが、国際慣習として儀礼的に行われている。

この慣習が成立した当時の火砲は一発撃つ度に砲身の煤を拭い取り、装薬と砲弾を人力で装填する作業が必要だった。
また、この再装填作業は隠蔽不可能だった(砲門や砲塔では撃つ度に火砲を取り外し、装填作業後に再設置していた)。
これを踏まえ、空包を撃った火砲をそのまま再装填せずに置いておく事で、砲撃する意志がない事を示したものである。

自動装填機構を持つ現代型の火砲でも行われているが、儀礼としてあえて古式の火砲を用いている事も多い。
また、中世・近世の火砲を模した礼砲用レプリカも製造販売されている。

国際慣習としての礼砲

現在では国際的な慣習として、軍事的式典に臨席した賓客の身分に応じて一定回数の礼砲を撃つ事が定められている。
国ごとに差異はあるのだが、一般的には以下の通りとなっている。

国旗、元首(国王・天皇・上皇・大統領など)とその同伴家族21発
副大統領、首相、国賓として招かれた外国人19発
閣僚、特命全権大使、大将17発
特命全権公使、中将15発
臨時代理大使、少将13発
臨時代理公使、総領事、准将代将11発
領事7発

回数の基準は16世紀のイギリス海軍の内規が発端とされる。
最小の7発は、当時のイギリス海軍艦艇が最低7門の艦載砲を備えていた事による。
最大の21発は、単に予算上の理由で礼砲の実施回数が最大21発までと規制された事による。

自動小銃による礼砲

銃規制が緩いか機能していない地域では、冠婚葬祭に際して市民が自動小銃で礼砲を撃つ事がある。
これはもっぱら内戦紛争地帯における慣習であり、会合への襲撃に備えて地元の男達が武装して集まった事に起因する。

偶発的な戦闘を避けるために始まった国際慣習上の礼砲とは異なり、こうした市民の礼砲は日常的な戦闘行為である。
どこかに潜んでいる襲撃者(宗教上の悪魔なども含む)を追い払うための威嚇射撃であり、空包は用いず実弾を空に向けて乱射するのが一般的。
また、こうした礼砲に際しては近隣諸勢力が「返礼」を撃ち返してくるのが通例(撃ち返さないと戦力不足を疑われて強盗の標的になる)。

紛争地帯では需要のない空包は流通量が少なく高価であり、経済上の理由から安価な実弾が使われる事が多い。

もちろん、この慣習は近隣に無数の弾痕を残し、たまに他人の資産を破壊したり人間を死傷させる。
治安維持という観点で言えば明らかに有害な慣習だが、どこの家にもAK47が転がっているような情勢では差し止めようもないのが実情である。


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