【良心的兵役忌避】(りょうしんてきへいえききひ)

Conscientious objection(英).
徴兵制が施行されている国の国民が、個人的かつ正当な理由から兵役義務を拒否する事。
「良心的兵役(徴兵)拒否」ともいう。

動機として最も多いのは宗教的な信念、特に殺人への嫌悪であるという。*1
民族や思想上の理由から「差別的な人々」との共同生活に耐えられない、として兵役を拒否する人々もいる。
また、政府の外交・軍事政策に対する批判、政治思想や哲学的な信念などの表明として兵役忌避を行う者もいる。

何をもって「良心的」とするかは国によって異なる。
良心的兵役忌避に関する規定がなく、徴兵拒否を全て敵前逃亡として扱う国家もある。*2
法的処罰が軽微であっても著しい不名誉であり、「前科者」「臆病者」として有形無形の差別(公的サービスの提供や地域社会での交際・就職・結婚を拒絶・制限されたりなど)を受ける事は珍しくない。
宗教団体などによる組織的な兵役拒否は、属する組織自体が何らかの法的な制裁を受ける事になる。

一方、徴兵を拒否しつつ自発的・能動的に社会奉仕活動を行った宗教団体・徴兵拒否者支援団体もある。
そうした集団は「敬意に価する例外」としての立場を勝ちとり、良心的兵役忌避の制度を作る中核ともなった。

兵役拒否が「良心的」に行われうる、という政治思想は20世紀末から制度として具体化した。
今日では欧州諸国を中心に、基本的人権の一部である「良心の自由」に基づいて兵役拒否を認める国も出てきている。

ただし、良心的兵役忌避を行う者は、兵役と同等の社会貢献活動を行う事が義務付けられる。
兵役の代替措置として政府が選んだ事業に従事し、一定期間の労働を行う事で代替とする。
兵役の代替に何が行われるかは国によって異なるが、以下のような事業が一般的。

  • 高齢者介護などの社会福祉事業
  • 環境保護事業
  • 消防活動
  • その他、各種行政サービスに関する労働
  • スポーツ*3

ドイツにおける問題

第二次世界大戦後に分割された東西ドイツでは、冷戦の最前線として東西共に徴兵制が採用されていた。
しかし、旧西ドイツでは高齢者介護などの福祉業務による良心的兵役忌避が認められていた。

その後、ベルリンの壁崩壊、冷戦の終結などを経て、ドイツの情勢は軟化していった。
これに伴って徴兵制を維持する意義は薄まり、また良心的兵役忌避を行う兵役対象者も増加、ついには兵役忌避者が兵役従事者を上回るまでになった*4

そのため、ドイツではたびたび徴兵廃止が議論として持ち上がる。
しかし、福祉業務に人材を供給する目処が立たない事から徴兵を廃止できずにいる。


*1 例えばプロテスタントの一部は「すべての者は神の御前で個々の行動に対して責任を負う」として戦争への関与を拒否する。
*2 軍法会議では死刑や終身刑に処される事が多い。
*3 基本的に「国際的な競技会で国家の威信をかけて戦う代表選手」のみに限る。
*4 兵役対象者のうち、実際に入営する者は20%前後という。

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