*&ruby(ようさい){【要塞】}; [#q5d69305]
Fortress.~

攻撃を受ける事、そして長期にわたって[[撤退]]不可能になる事を想定して建造された軍事施設。~
類義語に「砦」「城砦」「城塞」「城」「堡塁」など。

関連:[[橋頭堡]] [[軍事革命]]

**要塞の意図 [#g4a77fa2]

[[戦略]]的に考えた場合、要塞は3つの意図をもって設計される。~
そのどちらの意図を重視するかは場合によるが、ほぼ全ての要塞はそれら3つの機能を兼ね備える。~
兼ね備えていなければ、敵側の決断次第で容易に無力化されてしまう。

***防性防御 [#b6d425a0]
要塞の第一の意図は、敵が仕掛ける攻撃に耐え、反撃を行い、増援が到着するまでの時間を稼ぐ事である。~

通常、要塞に立て籠もるよりも野外で[[ゲリラ戦]]に徹した方が最終的な損耗は少ない。~
よって、あえて要塞に立て籠もるのは機敏に[[撤退]]する事が許されない場合のみに限られる。~
すなわち、[[撤退]]する事で甚大な[[戦略]]的不利を被る場所を[[死守]]する事が防性防御の目的である。

防性防御を重視して建造された要塞の最たるものは、[[国境線>領土]]である。~
当然の事だが、[[領土]]の奪い合いはまず最初に国境で始まる。そして何事も最初が重要である。~
侵攻側・防御側のいずれにせよ、[[撤退]]すれば追撃を受けて蹂躙され、勝てば要塞の中で悠々と増援を待つ事ができる。~
国境を突破された軍隊は相手の[[攻勢限界点]]まで耐え凌ぐ事を余儀なくされ、領内で甚大な戦災が発生する。~
翻って攻撃側から見た場合、最初の要塞を突破できなければ開戦直後に[[攻勢限界点]]へ達し、敵の逆侵攻を受ける事となる。

また、戦争が想定されない場合でも、密輸業者・[[スパイ]]・亡命者の眼前に壁となって立ち塞がる事には大きな意味がある。~

***攻性防御 [#tbd9e367]
要塞の第二の意図は、敵が要塞を回避し、無視し、奥に[[浸透]]しようとする時にこれを阻止する事である。~

とはいえ、国境線の全域を分厚い壁や頑丈な柵で覆うのは非現実的である。~
国境線上の全域にわたって兵力を分散させるのはさらに非現実的である。~
よって、要塞を回避し、または無視して先に進むのはそれほど難しい事ではない。

そのような場合、駐留していた兵力が要塞から出撃し、通り過ぎた敵に背後からの奇襲を仕掛けるのが常道である。~
また実際、ほとんどの指揮官は要塞からの奇襲を予期して要塞の前で踏みとどまる。~
しかしその場合でも、防御側の増援が到着する前に急いで要塞を陥落させなければならない。~
戦っている最中に新たな敵が出現すれば挟み撃ちを受ける事になるからだ。

***兵站拠点 [#f80b35b6]
要塞の第三の意図は、上記2つの意図による[[作戦]]が終了するまで[[兵站]]を維持する事である。~

防性防御にせよ攻性防御にせよ、それを実施するためには一定数の兵員が必要不可欠である。~
よって必然的に、要塞は[[部隊]]を滞在させ、生活させ、平時には訓練させなければならない。~

また、攻勢防御に際しては[[指揮統制>C3I]]や火力支援、[[後送]]された[[部隊]]の休養・[[再編成]]の拠点ともなる。~
~
いざ戦闘となれば周辺道路を敵軍に封鎖される事態が予想されるため、大量の物資を蓄える必要がある。~
武器類はもちろん照明や衣服などの生活必需品、食糧、そして何より水を確保しなければならない。

防御戦闘中に[[兵站]]資源が尽きれば、残された決断はただ[[降伏]]のみである。~
よって一般に、増援の見込みがない籠城はただ[[降伏]]を先延ばしにするだけの時間稼ぎに過ぎないとされる((攻撃側が杜撰な[[作戦]]計画で侵攻したため[[兵站]]が尽きて勝手に自壊したという例もなくはない。))。

**中世以前の要塞 [#nbb130b5]
中世以前の土木技術と経済規模では、要塞を建造し維持管理するのは甚大な負担であった。

このため、中世以前の為政者はたいてい自ら治める都市の近隣に要塞を建設した。~
巨大な建造物を二つ三つと建てて維持するような余裕はほとんどなかったためである。~

当初の城は[[傭兵]]・[[民兵]]の略奪に際して市民と共に立て籠もるための避難所であった。~
しかし、やがて平時の裁判所などの政府機能と一体化し、為政者自身の邸宅を兼ねるようになった。~
そして最終的には都市全体を要塞とする城塞都市へと発展していった。

>ただし、そうした都市の8割は人口1000人に満たなかった事を付記しておく。~

古代、中世、あるいは近代にあっても[[兵站]]が十分でない時、要塞は丸太を組み上げて作るものだった。~
しかしそのような木製の柵でも、人が[[狙撃]]を掻い潜りながら突き崩すのは容易な事ではない。~

また、比較的に裕福な王侯貴族は石材を積み上げて堅固な城塞を構築した。~
そうした本格的な城塞は、[[野戦砲]]が登場するまで事実上破壊できない無敵の要塞であった。~

そうした時代の要塞を攻略するにあたっては、弱点に対する集中攻撃が行われた。~
人が出入りする門扉は必ず存在し、城の陥落とは即ち門を破って雪崩込んだ敵兵との[[白兵戦]]であった。~
また、内通者が勝手に門を開ける、増援部隊や避難民を装って堂々と入城、などの策略に陥れられて占領された例もある。

>変わった所では、陥落時に逃げるための隠し通路から逆に敵兵が突入してきたという場合もある。~
また、トイレのダストシュートをよじ登って糞尿塗れになりながら突入した、などという事例も。

しかし、そうした城壁に頼る戦術は、[[野戦砲]]が実用レベルで投入されると共に廃れていった。~

**近代要塞 [#af662cd0]
近代以降の要塞は、中世までの要塞とは微妙に異なる思想で構築されている。~

まず第一に、近代要塞は[[野戦砲]]による集中砲火をなんとしても回避しなければならない。~
現代に至るまで、これに対する対策は[[アウトレンジ]]から敵の[[砲兵]]を始末する以外にない。~
近代の要塞は巨大で[[有効射程]]の長い[[要塞砲]]を備え、それによって敵を迎撃していた。~

また同時に、古来より用いられてきた[[歩兵]]の[[浸透]][[戦術]]を防ぐ策も必須である。~
これに対する近代の回答も、古来の城壁を効率的に進歩させた[[障害システム]]である。~
[[塹壕]]などの新発想で作られた障害物が歩兵を足止めし、それを[[要塞砲]]で仕留めた。

一方、要塞の設計思想が進化するのと同様、攻撃側の攻略法も徐々に進化していった。~
地下トンネル工事や[[爆薬]]など、中世には存在しなかった新たな戦術も編み出されている。~
要塞に[[浸透]]して道を切り拓く[[戦闘工兵>工兵]]も高度に専門化され、洗練されていった。

とはいえ、それも[[第二次世界大戦]]までの話だったが。

**現代の要塞 [#kce937ed]
独裁者が[[暗殺]]の恐怖に駆られて建造した偏執的な宮殿を別とすれば、現代の軍隊は要塞を建造しない。~
かつての要塞が今も[[指揮統制>C4I]]や[[兵站]]拠点として活用されている事例は多いが、べつだん要塞でなくても構わない。~
鎮圧や制止・交通統制などのために[[障害システム]]を利用する事はあるが、軍事力としてはほとんど当てにされない。

というのも、要塞は[[大量破壊兵器]]や[[戦略爆撃]]から国民を守る役には立たないからだ。

自国の上空を敵軍の[[マルチロールファイター]]が飛び交うようになれば、どんな要塞も意味がない。~
要塞がいかに耐えた所で、いったん[[航空優勢]]を奪われてしまえば[[空爆]]に対して為す術はない。~
現代の戦場における先兵は[[航空機]]であり、[[航空機]]を阻止できるのはただ[[航空優勢]]のみである。~

>ただし、[[非対称戦争]]などの小規模な[[紛争]]では政治的都合によってかなり話が違ってくる。~
現代の[[特殊部隊]]でも、要塞化した地下坑道から要人を連行してくるよう命じられたら全滅を覚悟するだろう。~

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