【防御】(ぼうぎょ)

defense

敵性勢力から攻撃を受ける事を想定し、これを撃退する事を手段とする作戦行動。

実際の軍事において、ある部隊の行動目的が攻撃なのか、防御なのかは端からは判断しがたい。
敵の攻撃を阻止する唯一の手段は、敵の継戦能力を奪う事である。
そして敵の継戦能力を奪う最も確実な方法は、敵を殺す事である。
よって、歩兵はそれが攻撃であろうと防御であろうと、戦う時には銃を撃つ。

戦術論において、防御と攻撃の差は、置かれている状況の差にあるものと定義されている。
どのみち、敵の無力化が目的である事は攻防どちらも変わらない。問題はそこに至る経緯である。

防御においては、戦う場所を支配できる

防御作戦における最大の特徴は、どの場所で戦う事になるかを防御側が選べる事である。
攻撃側は、防御側が滞在している場所にしか攻撃できない。防御側はどこででも待てる。

この事は防御戦闘を優位に進める材料となる。
どこで戦う事になるか事前に判明していれば、詳細な地図を入手し、障害システムを配置できる。
また、戦術上有利な地形を占拠し、敵が危険な経路で行軍?せざるを得ないよう誘導する事もできる。
地勢的な優位を極限まで活用すれば、攻撃する敵が自軍の3倍や10倍であっても撃退可能であろう。

とはいえ、実際には常にそこまでの優位は得られないし、選択も自由ではない。
部隊がある場所で防御を固めるという事は、他の場所での防御を放棄するに等しいからだ。
防御側は場所を選べるが、しかし攻撃側はそれを踏まえた上で対応する作戦を練る。
侵攻側が取り得る作戦を研究し、その上で最適な守備を戦略的に配置しなければならない。

この点に関しては、フランスの対ドイツ要塞網「マジノ線」の例がよく引き合いに出される。
マジノ線はドイツからの侵攻を想定して国境で防備を固める戦略であり、まさに鉄壁であった。
……ナチスドイツがマジノ線を無視して迂回路でフランス本土に浸透し始めるまでは。

防御においては、戦う時期を支配できない

防御側にとっての最大の懸念は、戦闘が始まる時期が何時なのかわからない事である。

時期が判らない以上、敵の目的も規模も確かな事は何も言えない。
攻撃側は、攻め落とす事ができないと判断した場合は増援の到着まで待つ事ができる。
あるいは端から攻撃を放棄し、足止めに徹して後続部隊を通過させる事もできる。
敵の目的にとって防御部隊の無力化は必須条件ではないので、そもそも戦えるかどうかさえ定かでない。

この事は、本来防御を命じられていない部隊においては特に深刻な問題である。
当然の事ながら、万全の守備を固めた部隊より、襲撃を想定していない部隊の方が攻撃に対して脆い。
よって、攻撃側は可能な限り無防備に近い状況の部隊を狙おうとする。
例えば、攻撃のために展開途中の部隊であるとか、兵站を輸送する部隊であるとか。

軍隊は常に補給や後送を必要とするため、部隊の防御は常に最良の状態では維持できない。
敵は防御が綻ぶまで兵站が許す限り待ち続け、察知し得る限り最高の時期に襲撃しようとする。
よって防御作戦はしばしば展開撤退に忙殺される最悪の時期での強行を強いられる。


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