【歩兵】(ほへい)

Infantry.

徒歩で移動し、槍、剣、銃などで戦う兵士(原義)。
近代以後の軍隊においては、小銃機関銃手榴弾などの小火器で武装し、徒歩で機動しながら戦闘行動を行なう兵士のことを指す。

古代、戦争という概念が発生した最初期から存在する兵科で、特に防御において必要不可欠とされる。
歩兵の存在意義は武装した人間がその場に存在する事と、人間の集団に可能な雑務が全て可能である事である。
歩兵の弱点は、武装した人間以上の何かではなく、人間にできない事は全て不可能であるという事である。

生身の人間にはできない職務は専用の機械を使って行う事になるが、それでも多くの職務は生身の人間に可能なものである。
また、機械を用いる作業は少数の操作員だけで執り行えるが、生身の人間が行う軍事行動のほとんどは多人数の集団を必要とする。
このため、戦闘員の総数に占める歩兵の割合は非常に高い。

関連:特殊部隊(軍事) 普通科

他兵科との比較

歩兵以外の全ての兵科は、歩兵にはできない何かが可能である事を利点とする反面、特化した特性以外の全てにおいて歩兵より非効率である。

騎兵は視界の広さと機動力において歩兵に優越するが、その利点は(動物に乗って)走る事でしか活かされない。
砲兵は破壊力と有効射程において歩兵に優越するが、敵を砲撃する事以外の何かを期待すべきではない。
工兵は普通の人間にはできない専門的な土木作業を行えるが、そのような専門技術者を不必要に銃撃戦で喪うべきではない。
戦車カノン砲馬力装甲を備えるが、稼働させるために膨大な兵站支援を必要とする。
トラックや鉄道は人間には到底運べない量の物資を輸送できるが、歩兵による護衛なしに戦闘に巻き込まれれば為す術もない。
航空機は空を飛ぶ事にかけては他の追随を許さないが、空中では実行できない作業が戦場には山ほどある。
戦略核兵器は歩兵には絶対に不可能な規模の大破壊を可能とするが、そんな大破壊を実行する必要性はどこにもない。

能動的に攻撃を仕掛ける場合、事前に最適な兵科が選択できるため、歩兵を投入する必要性は少ない。
逆に、敵から攻撃を受ける場合は特化した兵科ほど無効化・無視されやすく、生身の人間が防御しなければならない場面が格段に増える。

航空優勢を確保し、空爆し、間接砲撃し、戦車が壁となり、最後に歩兵が突撃するというのが近年の戦争の定石となっている。
最後に歩兵が必要になるのは、敵地を占領する過程で、小規模な奇襲を受けて防御戦闘が発生する事が事実上不可避だからである。
ほとんどの防御戦闘では、他の兵科が来援するまでの間、歩兵が踏み止まって耐える事を強いられる(来援があるとすればだが)。

雑務と低脅威

戦場の危険性は一様ではなく、極端に危険な戦域もあれば、日々警戒を続けるだけの長閑な占領地域もある。

戦場である以上、戦闘が発生する可能性を想定しないわけにはいかない。
しかし実際問題として、優先順位が著しく低く、十全な戦力を配置しておくほどの価値のない場面も多い。
これは例えば過疎地への偵察や、捕虜収容所や基地施設内の警備、主戦場から遠く離れた兵站の警備などが該当する。
そのような重要性の低い場面で万が一のために待機する戦力は、おおむね歩兵である。

あらゆる兵器は動かすだけでコストが発生するため、生身の人間が赴くだけで済む場面にあえて機甲部隊を持ち込むのは効率が悪い。
効率が悪いという事は、本当に危険な場面に投入できる戦力が減少する事を意味する。
よって、必要性の薄い場面では必要最小限の装備だけを持った歩兵を、必要最小限の人数のみ配置する。

また同様に、あらゆる兵器は動かす際にコストがかかるため、重装備であるほど生身の人間より初動が遅く、また挙動を察知されやすい。
このため、小規模なアンブッシュが発生した場合、応戦できるのは現地にたまたま居合わせた兵士のみである事も少なくない。

特にゲリラ戦においては、主戦力が関与できないような場所で突発的な小規模戦闘が多発する事になる。
生身の人間が潜伏して奇襲を仕掛けてきた場合、それに対処するには生身の歩兵による警戒監視がどうしても必要となる。
また、敵が潜伏している可能性は戦場である限り完全には払拭できないため、戦闘が一切なかった場合でも警戒要員は必要である。

機械化歩兵

自動車が本格的に普及し始めた20世紀後半以降、歩兵は機械化し始めている。
戦場で移動する際は歩兵戦闘車装甲兵員輸送車・トラックなどを用いる事が多く、生身で歩く場面は減っている。
また、データリンクを通じて主力戦車自走砲攻撃ヘリコプターなどと緊密に連携して動き、歩兵だけで動く事も少ない。

とはいえ、機械化された部隊においても生身の人間が身をさらす事はどうしても必要とされる。
機械化は歩兵の生存性を向上させるが、それは主として射線から離脱する機動力と重火器での反撃によるもので、装甲には限界がある。
設置された地雷IED、あるいはRPGを構えた敵歩兵を見過ごせば、それだけで兵員は車輌ごと爆死する危険にさらされる。
近接距離における偵察を歩兵より効率よくこなす兵科は未だないため、機械化歩兵は下車して索敵する必要に迫られる事がある。

また、密林・山岳・市街地の屋内など、生身の人間でなければ十全に機動できない場所で戦闘が発生する可能性もある。
どこに潜伏しようとも一度発見されれば近接航空支援間接砲撃の標的になり得るが、逆に言えば歩兵でも攻撃機砲兵を拘束できる。
限りある火力支援が生身の人間を数人殺すためだけに忙殺されれば、圧迫された前線が支援を受けられずに崩壊する危険性も出てくる。
あらゆる兵器は動かすだけでコストが発生するため、生身の人間が赴くだけで済む場面なら、生身の歩兵によって解決する事が望ましい。


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