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*&ruby(てつ){【鉄】}; [#r8b7b64f]
元素記号Fe、原子番号26番、比重7.9の金属元素。~
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鉄器時代から現代に至るまでの長い間、工業製品の材料としてあらゆる分野に広く普及してきた。~
最も一般的に利用されているため加工技術も幅広く存在し、飲料の缶から生活用具、家具、[[鉄道]]、自動車、産業機械、建材、[[装甲]]に至るまであらゆる分野で活用される。~
しかも強磁性を持つため回収・リサイクルが容易である。~
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純粋な鉄は柔らかく脆いため、強度が求められる場合は炭素などを添加して合金として利用する事が多い。~
それらの鉄合金は総称して「鋼(Steel)」と呼ばれる。~
また、酸化しやすく重量が大きいという欠点もあるが、この性質もクロム・ニッケルとの合金にする事で克服できる(ステンレス鋼)。

**その歴史的側面 [#kb6cc0b5]
鉄が人類にとって重要な資産として利用され始めたのは、旧石器時代だと推定されている。~
製鉄技術のなかった当時にも、鉄には人類の黎明期に決定的な変革をもたらす2つの特性があった。

一つには、「酸化鉄は赤い」という事である。~
それもただ赤いのではない。鮮やかに、鮮血のように赤いのである。~
酸化鉄やそれを含む赤土は「大地の血液」とみなされ、葬送や狩猟の儀礼に広く用いられた。~
古くは40万年前から酸化鉄のクレヨンが使われており、鉄は人類最初の塗料、最初の化粧品であった。

第二に重要な特性は、「結晶化した鉄鉱石は美しく、しかも希少である」という事である。~
旧石器時代から人々はすでに宝石に魅せられていたらしく、15万年前にはすでに採鉱さえ始まっていた。~
当時まだ炉は発明されておらず、鉄鉱石は単に宝飾品として飾り立てられたに過ぎない。~
しかし、「宝物」を追い求めて旅をし、知恵を振り絞っていたという事実には実用性以上の意味がある。

とはいえ、鉄が道具として生産されるようになるまでには長い間隙がある。~
最初に工業用途に利用された鉄は「天の神々からの贈り物」、つまり隕石であったといわれる。~
これは当時の技術では他の追随を許さない耐久性と、最高峰の煌びやかな美術性を兼ね備えていた。~
隕鉄の剣は手にした男を無類の戦士に変え、天に掲げられたそれは光を反射して眩く輝く。~
それが神々の恩寵、権力の証明とみなされたのは自然な事だろう。~
実際、現代でもほとんどの文化で金属の刀剣類には宗教的・文化的価値が認められる。

時代は大きく飛んで紀元前2000年頃、炉が発明され、それによって鉄や銅の精錬が始まった。~
しかし、「大地の血液」を炎に放り込んで溶かす、という発想はどうしても涜神的なものを伴う。~
採鉱は地母神への陵辱であり、炉は人工の子宮であり、赤熱した鉄はまるで太陽の化身であった。~
未発達な技術ゆえの事故や失敗も「神の怒り」と解釈され、その事はこの信仰をさらに強く補強した。

必然、鍛冶(blacksmith)は黒魔術(blackart)であった。~
古代の鍛冶師は厳格な戒律を守り、礼拝を欠かさなかった。~
「錬金術」という言葉の通り、古代の鍛冶師は金属を錬成する魔術師を自負し、社会もそのように扱った。~
採鉱に必要な地質学を駆使し、助言者・シャーマンとして権威を得た鍛冶師も歴史上少なくない。

>ところで、一般に母権社会の鍛冶は悪鬼の類とされ、父権社会の鍛冶は芸術的創造として敬意を受ける傾向にあった。~
この事と、現代文明の基盤として存続した文化の大半が父権的特性を持つ事を関連付けて考える向きも一部ではある。

産業の発達に伴って迷信は無力化していったが、現代でもなお、鉄は権力的色彩と呪術的意味を持つ。~
共産主義の首魁でさえ、自ら「レーニン(鉄の人)」だの「スターリン(鋼鉄の人)」だのと名乗る次第である。



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