【徴兵制】(ちょうへいせい)

国家が「国を守ることは国民の義務である」とし、ある一定の年齢に達した成年国民(男子のみに課せられることが多い)を一定期間(だいたい1〜3年程度)、軍隊に強制的に入隊させて兵役に服させる制度。
しかし、一定年齢に達した全ての成年国民を兵舎に入れるのは非現実的であり、また、物理的にも不可能なので、実際には「兵役検査」で身体能力や健康状態を事前にチェックし、「訓練に耐えられる」とみなされる一定の基準を満たした者を、軍の所要人員に応じて入隊させている。
また、たいていの国では徴兵と並んで本人の自由意志による「志願入隊」も認めている*1

多くの場合、兵役期間を満了すると一定の期間「予備役」となり、有事には現役兵の戦死傷者を補充するために招集され、軍役につく(戦争が終結すると「復員」として招集が解除される)。

近代に入ってから多くの国で採用された制度だが、近年は軍事技術の高度化によって軍人の専門職化が進み*2、また、軍隊の役割もテロリストやゲリラ掃討戦などという「低強度紛争」への対処の比重が大きくなり、単純に兵士数の多寡で戦況が左右されるものでもなくなった――軍事的な実効性が失われつつあることから、先進国を中心に廃止、あるいは運用を停止する国が増えている。


日本では明治初期に施行された「徴兵令」により制度が確立されたが、種々の免除規定があり、また、平時は20歳になった男子国民に課せられる「兵役検査」で、一定の基準を満たした優秀者を優先的に現役兵として入隊させていた*3ので、1930年代になるまでそれほど厳格には運用されていなかった。
しかし1930年代、中国との戦争が長期化すると、戦地に出たまま兵役の満期を迎える現役兵が多発し「除隊即日再召集」という形で実質上兵役が延期されるようになり、また、後に戦況が悪化してくると、かつては「現役に不適」と判断されていた体格・体力の劣る者や兵役の義務を負う年齢を過ぎた中高年者、まだ兵役義務年齢に達していない10代の少年までも徴集されるようになり、太平洋戦争の最終末期には700万人以上の男子国民が徴兵されるという事態にまで立ち至った。

そして太平洋戦争の終戦後、日本を占領した連合国軍の指令による日本軍の解体で、日本における徴兵制は自然廃止され、その後現在に至るまで復活していないが、近年、保守系を中心とした一部論客から「徴兵制の復活」を求める声が上がってきている。

ちなみに、近年の日本における「徴兵制復活論」には、(少年犯罪などの)現代の日本社会におけるモラル崩壊の一因を
「戦後に徴兵制が廃止されたことにより、人々が若い世代のうちに『協調性』『忍耐』『規範意識』などを学ぶことができなくなったため」
だと捉え、「軍事教練と兵舎での共同生活により、規律ある人間が作られる」という教育的効果や「ひきこもり」「ニート」の解消策etc.といった、本来の目的からはいささかかけ離れた観点からの主張が多く見うけられる。

しかし、現在は内閣法制局が「憲法で禁じられている『意に反する苦役』*4にあたる」との公式見解を出しており、また
「世間の軍事に対する根強い忌避感情」
「(上記にあげたような)軍事技術の高度化による実効性の低下」
「『そもそも、軍隊とは費用対効率のよい教育機関なのか?』という疑問」
などもあって、支持を得るには至っていない。

関連:赤紙 良心的兵役忌避


*1 高度な専門技術が要求される海軍や空軍はおおむね志願兵で充足することが多い
*2 徴兵で入隊した兵士は基本的にその期間しか軍務につかないので、その間に技術を習得するのはほぼ不可能になっている
*3 兵役検査の受験者のうち、現役兵として入隊したのは全体の20%程度だった
*4 憲法第18条には「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」とある

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