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*&ruby(ちょうへいせい){【徴兵制】}; [#w2263af9]
「国民は外敵から国を守る義務を負う」という主張に基づき、一定の年齢に達した自国の国民を軍隊へ強制的に徴集して数年間の軍役に服させる制度。~
各国の憲法や法律によって国民に外敵から国を守る義務を科すこと。~
また、その法令に基づいて自国民を[[軍隊]]へ強制的に徴集し、数年間の軍務(兵役)に服させる制度。~
~
徴兵の拒否は重大な違法行為となり、軍隊における脱走や[[敵前逃亡]]に準じて、命令不服従、脱走罪、敵前逃亡罪として、その国の刑法に定めた最高の刑罰(死刑・終身刑)に処する国家もある。~
現代では、当人が希望すれば兵役の代替として公共に益する労役(介護や清掃、消防活動など)に従事する「[[良心的兵役忌避]]」を認める国も多い。~
この制度が敷かれている国において、兵役の拒否は犯罪とされる。~
兵士の命令不服従・脱走・[[敵前逃亡]]は多くの国で重罪であり、それは訓練を受ける前に犯した場合でも変わらない事が多い。~
兵役拒否に対する典型的な刑罰は数年程度の懲役だが、状況や法体系によっては終身刑・死刑もあり得る。~

>思想的・宗教的な理由での拒否は特に罰則が重く、属する思想・宗教集団による組織犯罪とみなされる事もある。~
ただし、軍以外で公共の労役に就く事を以て兵役の代替とする事を認める「[[良心的兵役忌避]]」の制度を運用する国家もある。

徴兵制を敷く国家でも、士官学校などのルートを通じた本人の自由意志による志願入隊は可能なのが普通。~
特に指揮官を含む高度な専門技術者は徴用のしようがなく、[[尉官]]以上の[[階級]]([[士官]])はおおむね職業軍人のみで充足する。~
~
一般的に、徴兵制のある国では対象者は事前に「兵役検査」を受けて来歴、身体能力、健康状態をチェックされ、兵としての任に耐えない(あるいは兵士にするよりも他の訓練や職業に就かせた方が良いか、強制収容所に隔離した方が良い)と判断されると入営の対象から外される((この選定基準は必然的に「''大地主・政治家・高級官僚・学者のドラ息子は戦争に行かなくてもよい''のに、一般庶民の息子はどこかの奥地で一巻の終わりになってしまう」というような情勢を作り出すため、恣意的な人種差別・階級差別であるとする批判が根強い。))。同様の理由から女性も入営の対象とならない場合が多い。~
そしてこの検査に合格すると数年間(概ね1〜3年間)軍務に服役、期間満了後も一定の年齢に達するまでは「予備役」「後備役」(いわゆる「在郷軍人」)として、いつでも軍隊に復帰できるよう待機することを義務付けられる(このことによって、軍は長期の戦争における戦死傷者の補充要員を確保できるのである)。~
関連:[[赤紙]] [[良心的兵役忌避]]

**基本的な制度運用 [#bb9ea4dc]
徴兵制を採用する国家では、特定の年齢に達した若者(おおむね18歳〜20代)を対象とした「兵役検査」が実施される。~
だが、全ての国民が軍事訓練を受けて武装するわけではなく、兵士として不適格な者は徴兵を免除される。~
詳細な徴兵免除の基準は国や軍隊によって様々だが、おおむね以下の通り。

:健康状態|
兵としての任に支障をきたす持病・身体的障害・器質的疾患を持つ者は徴兵を免除される。~
兵役を逃れるために詐病(特に精神疾患を装う)を行ったり、意図的に体を壊す者もいる。~
~
なお、国によっては政府が作成する「候補者名簿」への登録手続が義務化され、その名簿から呼び出しを受けて入営する、という国もある。~
>アメリカでは"Selective Service System"としてこの方式を採用しており、[[国防総省>ペンタゴン]]で徴兵対象者(米国籍、もしくは永住権を持つ外国人の18〜25歳までの男性)の名簿を作成している。~
ただし、1973年に徴兵制自体の運用を停止しており、現在はこの名簿を使用することはなくなっている。
そうした不正行為のほとんどは兵役検査中の健康診断で発覚し、処罰や再検査の対象となる。~
また、実際に持病がある場合でも兵役に耐える年齢のうちに完治すれば再び徴兵対象となる。
:女性|
徴兵は成人男性のみを対象とし、女性は招集しないのが歴史的原則(これは徴兵制以前、古代文明の軍制からずっと続いている)。~
国家危急の事態が長期に渡って継続している場合には、例外的に女性も徴兵対象となる場合がある。~
ただし、その場合でも後方の[[兵站]]業務に優先的に割り当て、[[前線]]での戦闘任務は可能な限り避けられる。~
:国家戦略上きわめて有為な人材|
最高学府の学生、官僚、工業専門技術者など、兵士よりも国防上有益とされる職に就くものは徴兵されない。~
この選定基準は国家の視点で見れば継戦能力を確保するための合理的な[[戦略]]だが、個人の視点では階級差別以外の何物でもない。~
特に、多民族国家では教育水準・政治的影響力の格差が反映されるため、人種差別としか言いようのない状態を生じさせがちである。~
:忠誠への疑義|
兵士としての忠誠に多大な疑問を生じさせるような来歴の人間は、保安上の理由から徴兵を避けられる。~
犯罪歴および犯罪容疑での指名手配・敵国への渡航歴・[[スパイ]]容疑など。~
ただし、殺処分を目的とした懲罰部隊を編成し、生還を期待できないような任務を割り当てて意図的に戦死させる場合もある。
:局外者・二等市民|
国家中枢と異なる氏族集団・民族・宗教に属する者。特に[[植民地]]・海外領土における先住民。~
[[内乱>内戦]]や[[敵対勢力への内通>スパイ]]が想定されるため戦時には隔離政策が採られ、強制収容所などに隔離される事が多い。~
また、[[ハーグ陸戦条約]]では軍事占領地の住民に忠誠の宣誓を強制することを禁じている。~
~
とはいえ、[[国家総力戦]]に際してこの条件は曖昧になりやすい。~
また、政策として意図的に局外者・二等市民を重点的に招集する場合もある(これも殺処分を兼ねている場合が多い)。~
非主流集団は貧困に陥りやすく、貧困層ほど給与目当ての軍役で戦死する可能性が高いため、戦争は間接的にジェノサイドを招く。
:[[良心的兵役忌避]]|
合法的な制度に基づいて正式に申請して兵役から逃れられる場合もあれば、そんな制度はない場合もある。~
制度上認められない場合でも事実上「刑務所への収監と犯罪歴」をもって兵役の代替となる事が多いが、自発的にそれを望む者は多くない。
:検査官による不合格判定|
徴兵検査官は、恣意的な不合格判定を下して特定個人を徴兵から逃れさせる事が可能である。~
これは賄賂の問題である場合もあるし、親戚や地元名士や上官による社会的圧力の結果である場合もある。~
~
徴兵対象者の人数は膨大であり、全ての場合について厳密な判断・監査を行うのは現実的ではない。~
従って、恣意的な不合格判定それ自体が発覚する事は滅多にない(贈収賄や恐喝が発覚する可能性はある)。
:抽選|
軍が求める補充人数よりも徴兵対象者の方が多い場合、全員を徴兵する事はない。~
通常、能力的に適性の高い者を集中的に選別した後、それほど有能そうでない者から抽選で選ぶ。~
国民感情の関係で能力的選別を行わず、不合格者を撥ねた後に一律で抽選対象とする場合もある。

徴兵制を敷く国家でも、本人の自由意志による志願入隊は可能なのが普通。特に高度な専門技術が要求される海軍や空軍はおおむね志願兵のみで充足する。~
徴兵対象者はおおむね1〜3年ほどの軍歴を経て社会に復帰する(志願すれば、定年まで続けられる場合もある)。~
戦時中でなければ、その期間はほぼ訓練と時折生じる災害派遣などで終わる。~
~
関連:[[赤紙]] [[良心的兵役忌避]]
軍歴終了後は[[予備役]](在郷軍人)として登録され、身体的に可能な限り軍隊に復帰できるよう待機と定期訓練を義務付けられる。~
発展途上国ではこうした軍役が社会保障を兼ねている場合があり、職業訓練を受けながら社会的信用を獲得する手段として重宝される向きもある。~
こうした[[予備役]]は[[国家総力戦]]に突入した場合や、局地的な人員不足が発生した際の補充要員として確保されている。~
~
なお、「徴兵候補者名簿」への登録手続のみが義務であり、その名簿を基に呼び出しを受けて入隊する、という国もある。~

>[[アメリカ国防総省]]の"Selective Service System"では、徴兵対象となる米国籍ないし永住権を持つ18〜25歳までの男性の名簿を作成している。~
ただし、アメリカは1973年に徴兵制の運用を停止しており、現在はこの名簿を使用することはなくなっている。

**戦略的意義 [#xf6623d5]
現代における徴兵制の萌芽は、1800年前後のフランスにおいてナポレオンにより確立されたものとされる。~
それまでの軍制は、中世の封建時代以来、王侯貴族や寺院・教会などといった特権階級が各自で集めてきた[[民兵]]や[[傭兵]]を束ねて戦争に投入する方式が主体であった(この点は、中央集権の進んだ絶対王政国家においても基本的に変わらなかった)。~
徴兵制で集められた兵士は、それら旧来の制度で集めた兵に対して取り立てて[[士気]]が高いわけではなく、訓練が行き届いているわけでもなく、むしろ弱兵と呼んで良いものであった。~
現代における徴兵制の萌芽は、1800年前後のフランスにおいて、ナポレオンによって確立されたものとされる。~
~
しかし徴兵制には~
「常時一定数の戦力を維持できる」~
「損耗からの回復が早い」~
「高級軍人になっても政治的後ろ盾を得られない――反逆や参戦拒否や他国への内応が困難である」~
などの利点があり、これによって[[民兵]]や[[傭兵]]には絶対に許容できないような多大な損害を伴う[[強襲]]作戦を可能にした((裏を返せば死傷する兵士の数が激増したことも意味するし、そうと気づいた所で参戦を拒否できなくなったということでもある。))。~
この戦略的利点は他の制度では決して対抗できないものであったため、近代に至るまでに世界各国が徴兵制を推進していった。~
(この裏で、旧来の[[民兵]]や[[傭兵]]を擁して封建制や絶対王政を支持する諸勢力と中央政府の[[紛争]]も頻発しているが、どの国でも、これらの在来勢力が最終的な勝利を得ることはなかった。)~
中世の封建時代以来、兵士の主体は王侯貴族や寺院・教会など特権階級が各自で集めてきた[[民兵]]や[[傭兵]]であった。~
徴兵制はそれら旧来の制度に比して[[士気]](モチベーション)が低く、訓練が行き届いているわけでもなく、おおむね弱兵である。~
一人一人の兵士の質が低く、忠誠に欠ける問題は徴兵制の根本的欠陥であり、この点は現代に到るまでほとんど改善されていない。~
~
とはいえ、軍人の専門職化が進んだ現在では職業軍人でなければ十分な訓練を行うことが難しくなってしまい、また、単純な兵士数の多寡が必ずしも勝敗を左右しない[[低強度紛争>紛争]]の脅威が増大していること、[[大量破壊兵器]]の登場と[[相互確証破壊]]理論の確立によって長期間にわたる[[全面戦争>国家総力戦]]が起きにくくなっているなど、時代の要求に即した制度とは言い難い面が多くなっている。~
加えて、徴兵の対象となる10代末期〜20代前半の世代は、人間の生物学的能力(身体能力・知的能力)の成長がピークを迎える時期でもある。~
そうした世代の若者を、政府が組織的・網羅的に非生産的活動へ送り込んでしまうことで彼らの学究・技能キャリアを断絶させ、社会全体の生産力を低下させ、人件費の上昇と税収の損失を招くなどといった弊害を引き起こし、長期的に見ると国力を疲弊させる原因ともなっていると指摘されている。~
このため、先進国を中心に~
「[[良心的兵役忌避]]の合法化・兵役代替措置の創設」~
「徴兵免除となる対象の拡大」~
「服役義務年限の短縮」~
などの措置を取って運用を縮小したり、制度自体を廃止・停止する国が増えている。((ただし、そうした国でも有事には政府が迅速に制度を復活できるような法的オプションを残している場合がある。))~
徴兵制の価値は兵士の質ではなく、その潜在的な兵士の絶対数と、運用の柔軟性である。~
~
兵士として現実的に投入可能な人員の全てを実際に投入可能な体制を整えたこと。~
戦力化された一定数の兵士を常に国家の管理下に置くことで、損耗した兵士を素早く補充可能にしたこと。~
特権階級から軍を編成する権利を没収し、軍人から反逆・参戦拒否・他国への内応を行う機会を奪ったこと。~
そして全ての指揮系統を一手に集約させ、合理的に運用可能にしたこと――すなわち、[[国家総力戦]]を可能にしたこと。~
~
徴兵制の歴史的意義は、そのような形で司令部や[[参謀]]が[[作戦]]を立案する際の効率に寄与した。~
個々の兵士の能力や待遇はむしろ悪化したとさえいえるが、運用の柔軟性はその代償を補ってあまりあるものだった。~
~
事実、徴兵された兵士はしばしば甚大な損害を伴う[[強襲]]作戦に投入された。~
損害を厭う[[民兵]]や[[傭兵]]にはそのような酸鼻極まる無惨な作戦は実行できない、という事実が極めて重大な戦略的利点であったためである。~
この利点は他の制度では決して対抗できないものであったため、近代には世界各国が徴兵制を推進していく道を辿ることとなる。~
[[民兵]]・[[傭兵]]を招集する権利を巡っての[[紛争]]は頻発したが、在来勢力が徴兵制の軍を打倒して最終的な勢力を得ることはなかった。

**主要各国における徴兵制の現状 [#z9f6bc03]
日本外務省やアメリカ合衆国中央情報局([[CIA]])の発表資料などによると、現在、世界で[[軍隊]](またはこれに類する国防のための武装組織)を持つ約170の国家のうち、徴兵制を採用しているのは67ヶ国、とされている。~
以下に、主要国における徴兵制の採用・不採用をまとめた。
**徴兵制の問題点 [#jf3735f1]
徴兵制の最大の問題は、徴兵を前提とする[[戦略]]が本質的に[[人海戦術]]であり、数多くの兵士が単に「死ぬため」に動員されるという点にある。~
今日までの戦争の大半はそれ以外に選択の余地がないものであったが、今日においてはその前提が崩れつつある。~
~
21世紀の現代、軍隊ではさまざまな装備品が機械化・自動化され、[[兵站]]が複雑怪奇を極め、軍人の専門職化が進んでいる。~
また、[[ゲリラ戦]]や[[スパイ]]の応酬、[[自爆テロ>テロリズム]]から[[大量破壊兵器]]まで、軍事的脅威のほとんどは「単に銃を持っただけ」の人間には対処不能なまでに進歩した。~
ここに至って、大量の[[予備役]]を確保する事は軍隊の継戦能力にほとんど寄与しなくなってきている。~
今日の戦争で求められる軍隊は「長年にわたって高度な研鑽を積んできた専門家の集団」であり、「利発な若者の隊列」ではない。~
~
また付け加えると、強制的に徴用された若者はおおむね囚人のように無気力・無責任になる傾向にあり、「利発な」兵士とは言い難い。~
そして非常時の混乱、自暴自棄に陥る危険性、人数分だけ増える[[兵站]]負荷と予算など、兵士が多いという事はそれなりの代償を伴う。~
~
加えて、徴兵を行うことが国家経済に及ぼす悪影響も指摘されている。~
徴兵対象となる10代末期〜20代前半は人間の生物学的な成長がピークを迎え、肉体的にも精神的にも活気に満ちた時期である。~
これはもちろん兵士として戦わせるのにも最適な時期ではあるが、若者の活力は軍隊のみならず国内全ての産業・学問が必要としている。~
政府が若者を網羅的に軍隊に徴用すれば、その分だけ若者の未来が閉ざされ、人的資源の枯渇は経済的不況を招いて政治的安定性を損なう。~

-徴兵制非施行国~
日本・イギリス・カナダ・オーストラリア・フランス・イタリア・スペイン・ポルトガル・ベルギー・サウジアラビア・ヨルダン・パキスタン・バングラデシュ・アイルランド・ニュージーランド・アイスランド・インド・赤道ギニア・アルゼンチン・コスタリカ・チェコスロバキア・ハンガリー・ニカラグア・ルーマニアなど
--歴史上、一度も徴兵制を施行したことがない国~
ニュージーランド・アイスランド・インド
--軍隊を保有していない国~
アイスランド・コスタリカ((ただし、憲法上では政府に軍の再結成権を認めている。))など
> 庶民に言わせれば「エリートのドラ息子は戦争に行かなくても済むのに、俺たちの息子はどこかの奥地で一巻の終わりになってしまう」となる。~
実際に戦争が起きて多数の死者が出た場合、労働者階級がこう考え出して反政府的な思想が広まるのは避けようがない。~
これは戦時の国内情勢において深刻な政治問題であり、対処を誤れば[[クーデター]]や[[内戦]]を引き起こす恐れがある。

-徴兵制施行国~
ドイツ・スウェーデン・デンマーク・フィンランド・ノルウェー・スイス・ロシア・韓国・北朝鮮・イスラエル・トルコ・台湾・エジプト・マレーシア・シンガポール・ポーランド・カンボジア・ベトナム・タイ・アルジェリア・キューバ・ギリシャなど~
--女性も徴兵の対象となる国~
イスラエル((女性の兵役期間は男性よりも短い。))・マレーシア((実際には女性に対して軍事教練は行われない。))~
--兵役の代替役務が用意され、[[良心的兵役忌避]]が合法化されている国~
ドイツ・スウェーデン・デンマーク・ノルウェー・スイス・台湾((今後、10年以内に廃止するとの方針を示している。))・ロシア・フィンランド・ギリシャ~
--[[良心的兵役忌避]]を認めていない国~
韓国((産業機能要員や専門研究要員、義務消防、義務警察など軍隊以外での勤務により兵役を4週間に短縮する一種の「代替役務」が存在するが、ドイツや台湾などと異なり、一定の資格取得や指定された防衛関連産業への就職・3年間の勤務が求められるなど条件が厳しく、良心的兵役拒否を希望しても無条件で代替役務が認められるものではない。))・北朝鮮・トルコ
新兵の教練過程は強烈なストレスを伴うため、戦時でなくとも[[戦争神経症]]をはじめとする精神疾患、自殺、犯罪への影響を無視できない。~
それらは巡り巡って人口の減少、人件費の高騰、税収の減少を招き、国力を疲弊させる結果へと繋がっていくものと推定されている。~
~
このような問題から、[[良心的兵役忌避]]の認可・徴兵免除の対象拡大・兵役期間の短縮など徴兵制の段階的縮小を試みる国は少なくない。~
また、徴兵制を完全に廃止して職業軍人のみの軍隊に移行している国々もある。~

-徴兵制の運用が停止されている国~
アメリカ((1973年に運用停止。))・中国((法制度としては存在するが、志願者だけで定員が充足されるので事実上運用停止となっている。))・ミャンマー((国内事情により実質運用停止中。ただし、義務教育における軍事教練は行われている。))
>徴兵制の廃止は兵士の数が足りなくなる危険性と不可分であるため、将来的な軍拡に備えて徴兵制の復活を可能にしている場合もある。~
また、人的資源の不足を補うために外国籍の人間を軍に雇い入れる「外人部隊」制度や、[[民間軍事会社]]のサービスを利用する国も一部にある。

**現在の日本における「徴兵賛美・復活待望論」 [#j84422d8]
上記のとおり、日本では現在徴兵制は行われていないが、近年、保守派の政治家・知識人・文化人などの一部から(たいていは、発言者の「主観」と「個人的見解」に基づき語られるが)徴兵制を賛美し、または将来における復活を望む旨の主張が出てきている。~
ただしこれらは、以下に述べるような理由から強い批判に晒されており、支持者はごく少数にとどまっているのが現状である。~
-ほとんどの発言者が「仮に今後、''徴兵制が再施行されたとしても徴集の対象になりにくい''」人物であり、''発言者自身は徴集されない''ことが容易に予想されること。~
発言者のほとんどが、30代以上の中高齢男性や女性、(職業属性上では)政治家・知識人・文化人などであり、当事者としての視点が欠落している、とされる。
その一方で、主に文化的見地から徴兵制を賛美し、その復活を唱える個人・団体も存在する。~
これは特に先進国の保守反動勢力に多いが、それらの主張はおおむね冷笑を以て受け取られている。~
多くは不自然に懐古趣味的であり、現実的な未来予測のモデルを伴う徴兵制肯定論は近年ほとんどない。

-軍隊と教育機関を混同して考えている((事実、自衛隊でも隊内の強ストレス環境下での生活が原因の精神疾患や、隊員の自殺・犯罪などが多く報告されており、むしろ教育上逆効果との批判もある。))など、本来の趣旨とはかけ離れた観点からの主張がほとんどであること。~
概ねこれらは~
「軟弱な若者を兵舎での軍事教練と規律ある共同生活で鍛え、『国家・社会への忠誠心』『強靭な肉体と精神』『協調性』『高い規範意識』などを持った強い国民にすべし」~
という趣旨からなされているが、中には「(少子高齢化緩和の観点から)男性を『男らしく』するための精神・肉体の鍛錬に必要である」というものもある。((これは、徴兵制施行国では兵役の対象が概ね男性のみになっていることに着目し、兵役によって男性の性的魅力を高めることで「婚姻率の増加と初婚平均年齢の引き下げ」を図ろうというものである。&br;  しかし、現実には徴兵制施行国では''兵役がむしろ婚姻の阻害要素''になってしまっているという。))
> 曰く、「軍隊生活はひ弱な若者を逞しく鍛えてくれる」。~
曰く、「兵舎での規律ある共同生活が、モラルや協調性、国家・社会への忠誠心を育ててくれる」。~
いずれも20世紀以前に[[徴兵制]]を施行する都合上唱えられたプロパガンダであり、近年の学術研究はこれと逆の事を示唆する傾向にある。~
加えて、政治的意向として[[徴兵制]]を賛美する必要があったという事実は、そのような論調が当時においても不自然であった事を示している。

なお、現在の日本では内閣法制局が''「徴兵・兵役は日本国憲法で禁じられている『意に反する苦役』にあたり違憲」''との見解を出している。((''日本国憲法第18条:''何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。))~
更に[[防衛省]]・[[自衛隊]]においても、自衛官の募集・採用にあたっては分野に応じた多数のコースを設定し、各コースごとに志願者の中から能力・適性のある者を選抜して採用する指針を取っているが、その競争率は、最も低い「任期制2等陸海空士」コースでさえ3倍前後、[[防衛大学校]]の一般入試枠では最高で80倍前後と、''合格者よりも不合格者の方が圧倒的に多い''ため、予測可能な将来の範囲内で、憲法を改正しない限り''徴兵制が採用される可能性は皆無に近い''といわれている。~
**主要各国における徴兵制の現状 [#z9f6bc03]
現在、世界で[[軍隊]]に類する武装組織を持つ約170の国家のうち、徴兵制を採用しているのは67ヶ国とされている。~
以下に、主要国における徴兵制の採用・不採用をまとめた。

|CENTER:国名|CENTER:徴兵制|CENTER:[[良心的兵役忌避]]|CENTER:特記事項|
|アイスランド共和国|不採用|必要なし|軍隊を保有した事がない(政府機関が最低限の武装を持つ)|
|アイルランド共和国|不採用|~||
|アルゼンチン共和国|~|~||
|アメリカ合衆国|採用|できる|運用を停止している|
|イスラエル国|採用|女性のみ可|女性も徴兵対象。ただし兵役期間は男性より短い(男子は3年、女子は1年9ヶ月)|
|イタリア共和国|不採用|必要なし||
|インド|~|~|徴兵制を施行したことがない|
|スペイン|~|~||
|オーストラリア連邦|~|~||
|カナダ|~|~||
|ギリシャ共和国|採用|できる||
|グレートブリテンおよび&br;北部アイルランド連合王国|不採用|必要なし||
|コスタリカ共和国|採用||常備軍を持たない&br;有事の徴兵(軍隊の編成)が可能だが、実施された例はない|
|サウジアラビア王国|不採用|~||
|シンガポール共和国|採用|できない|各種公共機関と共同で人員を招集する&br;(配属先を選ぶ自由はない)|
|赤道ギニア共和国|不採用|必要なし||
|スイス連邦|採用|できる||
|スウェーデン王国|不採用|必要なし|2010年7月1日に徴兵制を廃止|
|タイ王国|採用|できない||
|大韓民国|~|~||
|中華人民共和国|採用|~|運用を停止している|
|中華民国(台湾)|不採用|必要なし|運用を停止している&br;(2012年1月1日に停止)|
|朝鮮民主主義人民共和国&br;(北朝鮮)|採用|できない||
|デンマーク王国|~|できる||
|ドイツ連邦共和国|採用|できる|運用を停止している|
|トルコ共和国|採用|できない||
|ニカラグア共和国|不採用|必要なし||
|日本国|不採用|必要なし|憲法上の理由で軍隊を持たないと自称&br;(実態としては[[志願制の軍隊>自衛隊]]を持つ)|
|ニュージーランド|不採用|~|徴兵制を施行したことがない|
|ノルウェー王国|採用|できる|2015年からは女性も対象となった|
|パキスタン・イスラム共和国|不採用|必要なし||
|ハンガリー共和国|~|~||
|バングラデシュ人民共和国|~|~||
|フィンランド共和国|採用|できる||
|フランス共和国|不採用|必要なし||
|ヴェトナム社会主義共和国|採用|不明|1979年以来運用が停止されていたが、2011年に運用再開|
|ベルギー王国|不採用|必要なし||
|ポルトガル共和国|~|~||
|マレーシア|不採用|必要なし|2003年より「国民奉仕制度」なる軍事的意図のない招集が行われている。|
|ミャンマー連邦|採用|不明|運用を停止している&br;義務教育世代への軍事教練は存続|
|ヨルダン・ハシミテ王国|不採用|必要なし||
|ルーマニア|不採用|必要なし||
|ロシア連邦|採用|できる||
~


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