【大量破壊兵器】(たいりょうはかいへいき)

Weapons of mass destruction(WMD).

大量の人間を殺害し、あるいは都市などの構造物に決定的な破壊を及ぼす兵器。
語源・用法ともに政治的イデオロギーの色彩が強く、厳密な定義は存在しない。

厳密な定義がないので、それが善いとか悪いとか、合法だとか違法だとかいう観念も基本的にはない。
プロパガンダでは一般に「邪悪なもの」として喧伝されるが、厳密に判断するなら、元より正邪など問題ではない。
あらゆる兵器がそうであるように、有利であれば使用されるし、不利を招くなら規制される。
大量破壊兵器の実際の取り扱いは、それがもっと具体的にどのような兵器で、どのような状況に置かれているかで決まる。

イラク戦争?では「イラクが大量破壊兵器を保有している疑いがある」事が開戦事由になった、とされる。
しかし実際の開戦事由は、「イラクが湾岸戦争における停戦協定に背いた」事である。
イラクは停戦時の国連決議で大量破壊兵器を破棄する義務を負ったが、その義務を履行しなかった、とみなされた。
もし湾岸戦争の講和が別の形であったなら、大量破壊兵器の保有は開戦事由にならなかったはずである。

発祥と定義の変遷

最も古くは1937年に、新聞記事における表現として「大量破壊兵器」の語が出現している。
この時点での「大量破壊兵器」とは爆撃機などエンジン駆動のプラットフォームであった。
この当時、大量破壊とはすなわち大量の爆弾であり、戦争そのものの不可避な結果を指していた。
当時、すでに存在していた毒ガスについて、この時点で特別な言及はない。

第二次世界大戦終結後には、大量破壊兵器とはすなわち核兵器を指す語となった。
相互確証破壊が当時の焦点であり、研究者や思想活動家も核兵器に焦点を合わせて弁明を行うのが常だった。
同時代の「通常兵器」でも物量次第で同等の大量破壊をもたらし得る、という事実は多くの場合に黙殺された。

冷戦の後半には、化学兵器生物兵器もまた大量破壊兵器とみなされるようになった。
事実上けっして使用されない核兵器とは異なり、化学兵器生物兵器は現実の脅威である。
テロリストにも製造できる安価な兵器であり、実際に製造され、テロに使われた。
また、当時の諸紛争ではしばしば化学兵器が投入され、その戦禍はマスコミを通じて広く喧伝された。
「通常兵器」でもそれら以上の惨禍をもたらし得る、という事実は多くの場合に黙殺された。

現代ではNBC兵器が「大量破壊兵器」である、という見解でおおむね一致する。
しかし、テロリズムの文脈では軍用高性能爆薬や、核爆発を伴わない放射性物質を大量破壊兵器に含める場合がある。


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